七話 戦地で呼ぶ声

「ちっ! 雑魚どもが!」


 香花と上半師がやりあっているまた別の場所で、四八目と珈々は王国軍の兵たちと戦っていた。当初より、上半師の相手は香花がすることは決定していたため、珈々と四八目は兵の殲滅へとあたっていた。四八目たちの実力からして、敵の一般兵は赤子同然だった。


「ほら、どんどんこいよぉ!」


 一人二人三人……四八目は敵を蹴散らす。十、二十、三十……そのうち四八目は脳内で数えることをやめた。


「はぁ……ふう……これ減ってんのか?」


 砂煙で遠くまでは見えずとも、周囲の状況は分かる。兵の数、悲鳴、数分前の戦況とまるで変わりがない。このペースで敵を倒し続けるスタミナはさすがの四八目にもなく、ほんの誤差ではあるが、自分の拳が遅くなってきていることを実感する。前進もせず、後退もしていない。ずっと足踏みをしている状態に四八目は焦りを感じ始めた。


「珈々」


「なぁにぃ、四八目ぇ」


 敵を薙ぎ払いながら、珈々は訊き返した。気だるい返事からは焦りを感じられず、マイペースな返しだった。


「軽く百は倒したと思うが、敵が減ったように見えるかこれ?」


「んー、減っている様子はないわねぇ。ゾンビみたいに土から出てきてるのかしら?」


「んな冗談言えるほど余裕なのか」


「……残念ながら手一杯よぉ。このままだとジリ貧よねぇ」


 片手間に敵を倒す珈々だったが、どうにか打開しなくてはという考えは四八目と同じらしい。……さてどうしたものか。


 そんな時だった。


 ………………


 叫びや悲鳴の隙間から聞き覚えのある声がした。


「ん?」


 微かにしか聞き取れず空耳かと疑ったが、のちに声はまた四八目の耳に届いた。


「――――目さん!」


 そう遠くはない場所で確かに言っていた。ついさっき聞いたような声。この戦場には不釣り合いな覇気のない声。


「まさか!」


 もう数十メートルといったところだろうか、そいつのほうに四八目は自然と足を運んでいた。


「ちょ! 四八目ぇ! どこに行くのぉ!」


「珈々! あいつが来てるんだよ!」


「あいつって誰よぉ!」


「あいつだよ!」


 敵の攻撃を搔い潜り手で道を作ると、あいつはもう目の前だった。血やしわで汚れた見慣れない服装に、短い髪。細い腕に、幼い顔つき。カフェの前で今日も見たあいつだ。


「ナナ!」


「四八目さん! 香花さんのところまで連れて行ってください!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る