六話 開戦の閃光
上半師家は島全体の7割を占領していた。島全体で上半師の名を聞いたことないものはまず存在しないだろう。先祖代々、上半師家は武力でここ一帯を制圧してきた。民も部下も地もすべて力で抑えつけてきたのだ。
ただそれは李々湖の父、その代までの話である。李々湖自身はまだ王位に経ってからまだ日が浅く、これといった成果を出していなかった。
だが部下の噂では、李々湖の実力は上半師家歴代をはるかに上回るものではないかと、ひそかに囁かれていた。その元凶は先代、李々湖の父の不可解な突然死にある。前触れ1つなく李々湖の父は死に、そのまま王位は継承されたのだ。暴虐武人と名高い先代が急に亡くなったのは理々湖が行ったことではと部下の間では噂されていたのだ。
――全く根拠のない噂じゃが、やはり部下の察知能力とは恐ろしいのう。我が父上をこの手で葬ったことが見事に的中されるとは……やはりこのような突発的な行動は今後控えるとしよう。
頭の中で反省を終える上半師に部下は言った。
「女王様、スケジュール通り、中継地点を通過致しました。今回の視察についての詳細を今一度ご確認いたします」
「ん? 騎乗しているこの状態でか?」
言葉通り、上半師たちの兵は草原を馬で駆けている真っ只中であった。
「本日は予定が詰まっておりますゆえ、ご理解ください」
「うむ、まあよかろう」
「では……ん?」
その時だった。
「突撃ぃ!」
林の茂みから突如、人間たちが現れ上半師の隊列へと駆け込んだ。その声に兵も反応し、遅れながら戦闘態勢に入る。
「陛下! 人間と思わしき大群が!」
「わかっておる」
奇襲をかけられたにも関わらず、上半師の態度は変わらない。懐に入れた扇を取り出し他人事のように戦況を観察した。そこで気づく。稲妻の如く移動する一人に、その風に。
カァン!
鉄と鉄が交わる鈍い音。間一髪腰に掛けた刃を引き抜き、上半師は跳ぶようにきたそいつの攻撃を受け止めた。
「王女、上半師李々湖! その首、人間の未来のために打ち取らせてもらう!」
上半師はにやりと笑った。獲物の親玉が自らやってきたと。
「貴様が人間どもの親玉か。自ら来てくれるとはのう……その穢れた血をここで絶たせてもらおう」
刃はそのまま交じり、火花を散らした。
「確かに只者ではないな。名は?」
「不死川香花! 貴様を倒すものなり!」
「馬鹿が……わっちはだれにも負けぬ」
キィン! と鍔迫り合いが終わり、距離を取ったのは香花のほうだった。納得のいく奇襲だったにもかかわらず、上半師は馬から落ちもせず、余裕の笑みを浮かべていた。額にも汗1つない。
――正直ショックね。香花は半分この奇襲に賭けていた。これが成功すれば無駄な血を流さずに済むし、戦闘力が未知数な相手であったためにプレッシャーが大きい。消耗戦になれば、数が少ないこちらの軍が圧倒的に不利だったからだ。
「どうした? まさかこれで仕舞なのかのう?」
上半師は刃をおさめ、扇を仰いでいた。
こいつ……! 今は落ち込む暇もないわ!
「曲者がぁ!」
襲い掛かる兵士たちの猛攻を香花はすかさず避ける。右、左、そして後ろ。避けたのちの隙も見逃さない。胴体へ肘で突き、足を狙った攻撃に跳び蹴りで対応し、後ろから一刀両断に縦へと剣を振る兵士の腕を力で握り潰した。
「うっ――」「がはっ――」「ごほっ――」
次々に兵士は倒れた。だが香花の顔色は優れない。戦況は依然不利で肝心の上半師にはまだ手を出せないでいた。
「つ、つえぇ……」
ざわざわと怯えだす兵士たち。誰もうかつに香花へとは近づかなくなった。
兵士たちは問題なさそうね……私の……敵はあいつだけ。
「ほう、中々やるではないか」
上半師の表情は変わらない。未だににやけ顔でこちらをいやらしく伺っていた。
「さて……」
体を動かした上半師は突然、馬から降りた。そして、そのまま馬を手懐けた。馬は上半師の手に応える。戦場とは思えないのどかな風景が広がった。
「馬はいいのう……躾ければ素直じゃし、主人を運んでもくれる。馬だけじゃない、民も兵も皆、わっちを崇めておる……実に喜ばしいことじゃ」
上半師は笑みを浮かべていた。だが、その顔は次第に暗い表情へと変わり、眉をひそめた。
「じゃが、おぬし等は違う。わっちらの生活を妨げ、平穏を蝕む。目障りな害虫じゃ。先祖代々貴様らを殲滅しようとしておったが、中々果たすことはできんでおった。それがどうじゃ、今日この上半師家代々の夢がかなうところまで来たのじゃ! もう――」
上半師は先ほどの小刀を抜き、香花の首へと向けた。そうして述べた。
「お前たちがいなくなると思うと、笑顔が絶えんわ」
小刀を不気味に輝かせ、いやらしく舐めまわした。
――こいつ!
一時の衝動に駆り立てられ、再び香花は剣を振るう。
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