四話 決戦前

「追い払ったぞ」


「……ありがとう。悪いわね、あんたにも嫌な思いさせちゃって」


 ナナと別れた後、カフェの中に戻った四八目は香花に報告した。先程の高笑いしていた四八目とは違ってどこか寂しげで罪悪感に包まれた雰囲気だった。苦虫を噛み潰したようなあどけない表情が物語っていた。


 香花、四八目、それに珈々と一奈の四人がこの空間にいた。香花はカウンターの椅子に座ってコーヒーを飲んでいた。その目の前に珈々立っていて、一奈は隅のテーブル席で読書をしていた。四人もいるのに、ひどく閑散としていた。


「別に俺を気遣う必要なんかねえよ。けどよ、香花。あいつお前にすげえ会いたい一心でここまで来てたぞ。ボロボロになりながら砂で汚れててよぉ、自己犠牲が嫌いなあいつが必死こいてここまで一切休むことなく走ってここまで来たんだって見ただけでわかったぞ。それなのにお前……こんな別れ方でいいのかよ」


 相変わらず荒々しくはあったが、ナナの想いが伝わったのか。四八目はカフェの前で起きた事を話した。


「香花、今からでも遅くねえ、ナナを連れ戻してくるんだ! 多分、おめえのことだ。きつい思いをさせて今回の戦争にナナを関わらせないようにしたかったんだろ? でもそれはあいつが望んでのことじゃねえ、寂しい思いさせるくらいなら俺たちと一緒にいたほうが――」


「やめなさい四八目!」


 声を上げたのは珈々だった。いつもの緩い話し方とは違って、はきはきとした口調だった。


「香花はそうまでしてでもナナちゃんをこの戦いに巻き込みたくないのよ! そんな易々と引き戻すなんて無責任に言わないで!」


「別に無責任に言ってるわけじゃねえ! ただ俺はこの中で一番孤独の悲しさを知っている! それは死ぬことよりつれえことだ! もし俺らが死んだら……あいつ……あいつは」


 鬼気迫る目で香花に訴えた。ナナを連れ戻そう。それだけの思いを。だが。


「ダメよ。一度決めたことは曲げないわ。何と言われようとね」


 ギシッ!


 力いっぱい嚙み締めた。四八目は香花に襲い掛かる。危ないと判断した珈々が止めに入ろうとするが、すでに四八目は香花に手を出していた。


「手を放しなさい! 四八目!」


「香花ぁ! こんなに言ってもおめえ、ナナを放っておくのか! まさかおめえ本当にナナのこと嫌って――」


 パシッ!


 香花は四八目を叩いた。叩かれた直後、四八目は続きを言えなかった。何をされたか分からなかった、数秒のちに自分が叩かれたのだと痛みで悟った。一字一句正しいことを言ったつもりであったが、視界に移る無言の香花を見て、不意にも我を疑ってしまった。香花の顔はいつに増して冷たく感じられた。細く鋭い目に余りピンクを主張しない唇、薄く白い肌、いつもと変わらない表情が何故かにらみつけているようだった。


 四八目を止めに入った珈々もその光景を見て、もう暴れることはないだろうとゆっくり二人から離れた。一奈は黙ってじっと本を読んでいた。そんな重い空気の中、香花は喋りだした。


「独りぼっちが寂しいし悲しいことは私だって経験あるわ。私もあなたたちと出会う前は両親を失った後、ずっと一人だった。誰にもさみしさを打ち明けられずに、誰にも問われず、誰にも愛されない。孤独ってのは精神を崩壊させるのに十分すぎる兵器なんだから。でも、そんな私に初めて手を差し出してくれたのが……四八目、あなただった。私にも仲間はできたもの。あの子にだってできるわ。だから……あの子はきっと一人じゃない」


「きっとって……無責任すぎるだろ」


 テーブルに手を着いたまま、下を向いていた四八目は小さく否定した。


「確かにあなたみたいなうるさくてガツガツいくような人間、そうはいないだろうけどね、そういう意味では私は恵まれてたのかもね」


「……よく言うぜ、初めて会った時は俺とすげえ距離を置いてたくせによ」


「仕方ないじゃない、あんた初対面のくせにぐいぐい来るもの」


 いつもらしい口喧嘩が始まった。その風景に珈々はいつも通り笑ったし、一奈はいつも通りマイペースに本を読んでいた。重苦しかった空気は知らずのうちになくなっていた。


「しょうがねえな、あいつのためにも俺たちが頑張るしかねえってわけだな!」


 意気揚々と手を机にドンと叩き、四八目は立ち上がった。そう、自分に残された道は1つしかない。ここにいる仲間たちのために、ナナのためにも、と香花は強い意志を抱いていた。

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