五話 酒と臭いに溺れる
決意から一時間後、閑古鳥が鳴いていたあの喫茶店に今では多くの人が立ち込めていた。
なので仕事もえらく忙しく……なることはなかった。ナナが注文を伺いに行くことは一切なく、各々が勝手に冷蔵庫やらクーラーボックスに入った飲料を勝手に持って行った。食べ物も店からは一切提供しておらず、皆が持参したものを好き勝手に食していた。飲み物の代金も集会が終わった後に徴収するらしい。
しかし、集会という言葉を聞いた時にはヤクザや暴力団といったものの類を連想してしまったナナであったが、これはどちらかといえば町内会のバーベキュー大会に近いものであった。
大勢で一気飲みしだす人やガヤガヤ騒ぎ立て大笑いする集団、隅でちまちまと吞む人やらでこの空間は賑わっていた。バトル漫画の宴などで見たことがある風景だ。それが皆女性なのだからひどく滑稽だった。
それを肴にカウンターで一人、ナナは娘裸酒を口に含んでいた。もうバイトが終わっている今、すぐにでも香花に会うため帰りたかったナナであったが、それを何故か珈々に止められた。
初めは意地悪で足止めさせているのかと声を荒げたナナであったが、懸命に自分の相談にのった珈々がそんなことをするはずがないとすぐさま我に返り、頭を下げた。
「ナナちゃんが焦るのも分かるけど、ここにいれば止めた理由がすぐわかると思うわぁ」
それから数十分は経っているが、ナナは現在でもその理由がわからずにいた。単純に香花がこの店に訪れるということなのだろうか。現段階では香花らしき人がナナの視界に入ることはなかった。珈々に再度訊こうにも当の本人は集会の客と呑んで騒いでの状態で割って入れない。
……遅れてくるのかな。
ナナはそう考えるようになった。
カラン。
言った矢先、ドアのベルが鳴った。香花さんだ! と、期待に胸を膨らませ、振り返ってみるとそこにはすでに酔っぱらっている四八目の姿があった。
「ギャーハハッハッハッハッ! みんな酔ってんなぁ! やっぱ集会はこうじゃねえと!」
下品に笑い声をあげる四八目。左手には酒瓶を2つ、右手には1つ持っており、千鳥足でカウンターの席へと座った。期待した来客なだけあって、ナナはすこぶる落ち込んだ。満腹中に腹部を思いっきり殴られたようなそんな気分だ。
「おっ! ナナもいるじゃねえか! 楽しんでるか!」
しかも、ヅカヅカとナナに近づいてくる模様だ。
ぷーんと四八目が放つ異臭をナナの鼻は感づいた。酒の強烈なにおいがナナの鼻を襲う。
うっ……くさい……。
「おめぇ、こんなに多くの人がいるところでも一人とはなぁ! 内気にもほどがあるだろ!」
嫌味に構う暇もなく、ナナは臭いを訴えた。
「四八目さん……臭い……どうにかなりませんか?」
「あっ? なんだって?」
聞き取れなかったのか、もう一度と四八目はナナの口元に耳を傾けた。それでまた距離が近くなるものだから、異臭も増した。嗅いでいるだけで吐きそうだ。
「うっぷ……だから臭いが」
必死の訴えに四八目もようやく気が付いたらしく「ああ、臭いか」とナナから離れた。
気を失いかけたナナもそれでようやく意識を保つことができた。深く深呼吸をし、ゆっくりと心拍を整える。そして感じた。長い夜になるのかもと。
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