三話 嘘つき
テーブルの配置換え、清涼飲料水やアルコール飲料の買い出しなど集会とやらに必要な準備はそれなりに骨の折れるものばかりであった。気が付けば、日は半分ほどしか姿を現していなかった。
「ふー……」
ナナは肩を回し、そのあとで額から垂れていた汗を腕で拭った。日暮れというには些か早い時間であり、日は光をまだかすかに主張していた。時間を忘れるほど、作業に没頭していたナナはあたりが暗くなりかけていることにいま気づいた。
このカフェに訪れる客はほぼ決まった常連客のみで、1日に5人もくれば繁盛したとも言えた。忙しいと感じる日など一度もなかった。だから今日みたいな日がナナにはとても斬新に思えた。だがその反面、疲労感も大きい。
……早くお風呂にでもゆっくり浸ってお布団で寝たい。
「はい、お疲れ様ぁ」
机にべとーっと伏せているナナの頬に珈々は清涼飲料水をつけた。
「ひゃっ!」
思わず変な声を上げるナナであったがその刺激は次第に快感へと変わった。
……まあ私が買ってきたものなんですけど。
「あ、ありがとうございます。」
「最近調子はどう?」
向かいの椅子に座り、ナナに問いかける珈々。珈々から話題を持ち掛けられるのはなんだか珍しい。
……どうって言われてもなぁ。
ナナは返答に困った。心の奥底にある悩みはもちろん香花のことであった。でも、珈々にそれを伝える勇気はなかった。だからといって露骨に話題をそらすことには抵抗を感じた。つまりは気丈にふるまうしかないのだ。
「まあ、楽しくやってますよ」
「はい、嘘つきぃ」
な、何故にバレた!
「え、う、嘘なんて私ついてません!」
「ナナちゃんねぇ、結構顔に出ちゃうタイプなのよぉ。自分じゃあ気が付かないでしょうけどぉ」
むしろポーカーフェイス気質なものだとナナは信じていた。
「だからナナちゃんといるとなんだか安心しちゃうのよねぇ。この子は正直な子なんだって分かってるからぁ。香花もナナちゃんのそういったところに惹かれているのかもねぇ、あの子ああ見えて抱え込んじゃうタイプだしぃ。もしかしたら、ナナちゃんのことが羨ましいのかもねぇ」
「香花さんが私のことを羨む思うことなんて……あり得ませんよ」
「ん? どうしてそう思うのぉ?」
「だって……私なんて何1つ誇れるものもないし……ズルで身勝手だし」
「そんなことはないわぁ、あなたにも良いところはあるわよ」
「え、それって……」
「だーめ」
聞き出そうとしたナナの口を珈々は人差し指で防いだ。
「それはナナちゃん自身で見つけ出す必要があるものよぉ、今私が教えたらそれはもちろんすぐにでも分かるけど、それだと価値がなくなっちゃうもの。どれだけ時間がかかったって自分で発見することに価値があるのよぉ。たとえそれが私の言っているものとは違ってもねぇ」
普段は適当なことをいう珈々ではあるが、この時の珈々の目つきは真剣そのものだった。そこには気だるさも眠たそうな細い目もなかった。
その姿に安心したのか、ナナは自分の悩みを赤裸々に語りだした。自分がどれだけ罪深く、どれだけ意気地なく、どれだけ助けられたかったかを包み隠さず話した。
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