第37話 勝負

「おめぇ、誰なのよ? ああん?」


 顔を近付けてメンチを切り、圧を掛けるミリア。その行動は一国の姫ではなく、まるでチンピラ。


「テメェが誰だっ! ハクちゃんとやんのか!?」


 息をするようにミリアへ噛み付くハクア。それをアリシアは面白そうだと思い、リコッタは戯れ合ってるだけだと受け取って、二人を止めずに眺めている。


「やってやるなのよ!」


「テメェ、さっきこの店のアイドルとか言ったな?」


「そうなのよ。ミリは看板娘で店だけじゃなく、世界から愛されるアイドル姫様なのよ」


「なーにがアイドル姫様じゃっ! ハクちゃんより可愛いやつがどこの世にも存在するわけないだろがっ!」


「じゃあ、可愛さで勝負するなのよ! 勝った方が看板娘なのよ!」


「望むところだっ!」


 勝負の内容が決まると歓声が聞こえてくる。既に開店していた店の中には客が入ってきていて、黙って喧嘩の行く末を見守っていた。

 そこへきて看板娘の座を賭けた熱き戦いが始まるのを耳にして沸き立ったのだ。

 その沸き立つ客を見てアリシアは閃いてすぐに行動する。


「はーい、お客さーん! この勝負は別の場所でやるよー! チケットはお肉!間近で観れるS席から遥か遠くの立ち見席まであるよ〜」


 アリシアの言葉で客は一斉に肉を売ってくれとせがむ。


「ちゃんと列になって順番に買ってね。お肉はいっぱいあるから」


 言われた通りに並び、肉を買っていく客。席の相場はS席が一番高い肉を2キロ購入。そこから席のランクが1つ下がる毎に肉の値段とキロ数も減る。

 短時間で飛ぶように肉は売れ、昼前に店を閉めてアリシアはみんなを引き連れて勝負会場へ連れて行く。


 到着した勝負会場となる場所は町の外にある小川の川辺。

 川を背にミリアとハクアを立たせたアリシアは客をチケット通りに並ばせる。


「うん、こんな感じかな。あとは2人のステージを持ってくるだけだね。リコちゃん、ちょっと手伝って」


「ん? よくわからんがいいぞ」


 上流の方へ歩いて行ったアリシアとリコッタが暫くすると直径2メートルほどの岩を1個ずつ担いで持ってきた。


「これをここに……っと。出来た! ささ、ミリちゃんとハクアちゃんはこの上に乗ってね」


 岩を下ろして2人を促すアリシア。


「うんしょ……うんしょ……登れないなのよ」


 しかし、ミリアは登れなかった。

 普通の人間の女の子で城育ちのミリアは運動が苦手。自分の身長より大きく、掴むところがない岩に易々と登れるはずがない。

 半べそをかくミリアに対して、すんなりと岩の上に乗ってみせたハクアはミリアへ追い打ちをかける。


「ぷぷぷ。こんなのにも乗れないとか笑える。もうこれハクちゃんの勝ちだろっ!」


「悔しいなのよ……」


 涙をポロポロ流すミリアを見兼ねてアリシアが茶々を入れる。


「ミリちゃん」


「何なのよ……」


「その涙、舐めていい? ――きゃんっ!?」


 ふざけた事を言うアリシアの脳天にゲンコツを落としたリコッタがミリアへ助け舟を出す。


「アホのアリシアは放っておけ。ほら、ミリア。オイラが手伝ってやるから」


「ありがとなのよ。リコッタちゃ」


 リコッタに補助して貰って岩の上に乗る事が出来たミリア。

 ミリアとハクアの両名がステージに立って準備が整った。

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