第36話 忘れるとは何事

 アリシアとリコッタの目に映ったのは羽塗れで屋根の上にコケトリスの頭が乗った店。


「どう? ハクちゃんのセンスは! ハクちゃんが働く店ならこれくらいハイセンスじゃないといけないって思ったわけ!」


「何やってくれてんだよ」


 ポツリと本音を零すリコッタとは別にアリシアは状態の確認をしに行く。


「リコちゃん。この羽、お店に縫われてて取れないよ」


「凄いだろっ! ハクちゃんの神力はこんな事も出来るってわけ!」


「凄いも何もねぇよ!」


「ひゃっ!? ハクちゃんを抱えて何をするんだ、テメェ!」


「そりゃ決まってんだろ。お仕置だ」


 ハクアを小脇に抱えたリコッタは何度もハクアの尻を叩く。


「痛い、痛い、痛いっ!」


「うわぁ〜……痛そう」


 流石のアリシアも物凄いおしりペンペンに引き気味。

 あまりの痛さにハクアは音を上げる。


「もうやめてくれ! 元に戻すから! このまま叩かれ続けたらハクちゃんのキュートなお尻が無くなるっ!」


 ハクアの言葉を聞いてリコッタは手を止めてハクアを下ろして少し残念そうな顔をした。


「もう少し叩いていたかったのに……チッ」


「テメェ! ハクちゃんのキュートなお尻を何だと思ってんだっ!」


 尻を上げて地面に這いつくばり、半べそをかきながらリコッタへ食ってかかるハクアの尻をアリシアが優しく撫でた。


「あーあ、お尻腫れちゃったね。ねぇ、ハクアちゃんは装飾が得意なの?」


「ハクちゃんはアーティスティックな神様だから装飾はお手の物ってわけ!」


「どんな神様だよ」


「うるさいっ! 尻叩き女は黙ってろっ!」


「装飾が得意ならハクアちゃんには包装担当をお願いするね」


「ハクちゃんの担当? その担当でハクちゃんが1番上なんだろうな?」


「うーん、ハクアちゃん1人しか居ないからそうなるかなー」


「きたっ! ハクちゃんの天下! 超凄い包装してやるから期待しろっ!」


 また調子に乗りだすハクアに対してリコッタは指をポキポキと鳴らし見下ろして圧をかけた。


「またお仕置されたいのか? 普通に綺麗に包めばいいんだよ。わかったか?」


 リコッタの圧にハクアはしょんぼりした。


「はいぃ……普通にしますぅ……」


「決まりだね! ハクアちゃんのエプロン持って来るから、2人は開店の準備してて」


「おう」


「はいっ!」


 エプロンを持ってきたアリシアは開店準備をする二人と合流して準備を済ませ、3人で朝食を食べた後、店を開けた。

 店を開けてすぐドタバタと足音が聞こえてきて寝癖でボサボサの頭をしたミリアが姿を現す。


「ミリを忘れるななのよ!」


 姿を現すまで気付かなかったアリシアとリコッタはそういえばもう1人居たなーという反応をする。


「忘れてた〜。てへっ」


「オイラも忘れてたぜ」


 2人の反応に怒るミリアは、


「この店のアイドルを忘れるとは何事なのよ――ん? おめぇは誰なのよ」


 ハクアの存在に気付いた。

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