第26話 飴と鞭

 午後は客入りがなく、翌日に出立するアリシアは先にお小遣いを貰って、それを握り締めて町へと繰り出して行った。

 閉店作業を終え、ダイニングキッチンにて夕食を作るリコッタとテーブルで経理をするミリアのところへ息を切らせてアリシアが戻ってくる。


「セーフ! 晩ご飯に間に合った!」


「『セーフ』じゃねぇよ。こんな時間までどこをほっつき歩いてたんだ」


「リコッタちゃ、聞かなくてもアリシアちゃが持っている物で分かるなのよ」


「持っている物? ……はぁ……アリシア、お前なぁ……」


 リコッタが視線をアリシアの手元に向けると大量の駄菓子が目に入ってきた。


「小遣いが欲しいって言うから、困った時用の金かと思ったらオヤツ代かよ。ピクニックじゃねぇんだぞ?」


「え? 違うの? でもでも、これを選ぶのに苦労したんだよ? 5百モルしかなかったからかなり厳選して……。それに駄菓子だとこんなに買えるんだよ! 安いのに美味しい。駄菓子って凄いね!」


「あのなぁ……」


 お説教モードに入ろうとするリコッタを察知したミリアは止めに入る。


「リコッタちゃ、待つなのよ。説教をしてまたアリシアちゃが泣いて機嫌を損ねると面倒くさいなのよ」


「くっ! それもそうだな」


 使ってしまったものは仕方がないと思う事にしてリコッタはアリシアがまたワガママを言う前に釘をさした。


「アリシア」


「なぁに?」


「言っておくが追加の小遣いはあげないからな」


「えーっ!? なんで!?」


「ウチは借金とツケまみれで貧乏なんだ。だから、これ以上はあげられない」


「でもでも……」


「駄目なものは駄目だ! これ以上欲しいって言うなら、2ヵ月先まで小遣い無しでアリシアの食事だけ白米オンリーにするからな!」


 さすがのアリシアもリコッタから出された条件には勝てず、


「うぅ……わかった、お強請りしない……」


 少ししょんぼりして首を縦に振った。


「偉いぞ、アリシア。よし! 飯にするか。アリシア、オヤツを置いてこい」


「えへへ、うん! 置いてくる!」


 まさに飴と鞭。

 この飴と鞭に気付かず、アリシアは褒められたと勘違いして気分良くオヤツを自室に置いてきて食卓へ戻り、いつも通りモリモリと夕食を食べた。



 夕食後、ミリアの部屋を決めて入浴を済ませ、各々は自室へ入って行く。

 翌日の営業に支障が出ない程度に時間を過ごし早々と就寝するリコッタとミリアに対してアリシアは、


「オヤツは入れた。ぬいぐるみも入れた。お弁当は明日。……どんなお弁当かなー。ハンバーグ? それともオムライスかなー?」


 翌日の事を考えワクワクして眠れなかった。

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