第22話 リコッタ予報

 入浴は当然の如く騒がしくなる。洗って貰っている時は借りてきた猫のように大人しいのにそれが終わると水を得た魚。

 騒がしい入浴を終えて、ダイニングキッチン行き冷たい飲み物を飲んだ後、2階の通路で立ち止まってアリシアがミリアへドアプレートを渡す。


「はい、これミリちゃんの」


「わぁーい、ありがとうなのよ」


「好きなお部屋を選んでね」


「うーんと、うーんと……なのよ」


「ゆっくり考えて決めていいよ」


「どれにしようなのよ……」


「決まらないなら今日は私のお部屋で一緒に寝る?」


「いいのなのよ?」


「もちろん!」


「ちょっと待った!」


 アリシアの提案に間髪入れずにリコッタが口を挟む。


「おい、ミリア。アリシアはきっと邪な目的で誘ってるぞ? それにアリシアはおねしょをする。今日のリコッタ予報ではおねしょ確率は90パーセントだ」


 リコッタ予報とは就寝まで数時間のアリシアがとった行動から割り出される天気予報ならぬおねしょ予報。

 予報を耳にしたミリアは、


「おねしょは嫌なのよ。ミリはリコッタちゃと寝るなのよ」


 アリシアの提案を断ってリコッタの腕にしがみついた。


「そんなぁ……」


 ガッカリするアリシアに追い討ちをかけるようにリコッタは言葉をぶつける。


「おねしょしないようになってから誘うこった。じゃ、オイラ達は寝るから。くれぐれも部屋に忍び込んでくるなよ」


 ミリアを連れて自室へ入って行くリコッタを捨てられた子犬のような表情で見送り、アリシアはトボトボと自分の部屋へ帰っていった。

 しかし、ここですんなり引き下がるアリシアではない。寝静まったのを見計らってそーっと忍び込みリコッタとミリアが眠るベッドへ潜り込んで眠った。

 そして翌朝。予報通りおねしょをしていて、忍び込んだ事と合わせて朝からリコッタに怒られたアリシアは汚してしまったシーツやみんなの服を半べそをかきながら洗った。


「……終わったよ」


「じゃあさっさと朝飯食って支度しろ。もうオイラは出掛けるから」


「出掛けるの?」


「昨日話しただろ。狩りの情報を探しに行くんだよ」


「あ、そうだったね」


「しっかりしてくれよ。あと、ミリア」


「ミリも何かあるなのよ?」


「出来ればなんだが、城の関係者が買う量や来店する回数を暫くの間だけ事情を説明して制限してくれないか? 売り上げは落ちるけど、次の肉を仕入れるまで少しでも店を開けておきたいんだ」


「わかったなのよ」


「これでよし! じゃ、オイラは行ってくるよ」


「行ってらっしゃ〜い」


「行ってらっしゃいなのよ」


 見送る2人に手を振って応えるリコッタは、


「おう! アリシア、サボるなよ!」


 アリシアに釘をさして店を出て行った。

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