第17話 お姫様みたい

 店内や作業場に姿が無かったのでダイニングキッチンへ行くと下見を終わらせたミリアがお茶をしていた。


「お待たせ〜。ここに居たんだね」


「下見して時間が余ったからお茶をして待たせて貰ったのよ」


「ごめんね。案内出来なくて」


「好きに見させて貰ったから大丈夫なのよ」


 アリシアはミリアの斜め向かいに座り、ティーセットに手を伸ばしてお茶を始め、リコッタはキッチンへ立ち朝食を作り始める。


「開店準備の前に朝ご飯を食べるんだけど、ミリちゃんも食べる?」


「朝食は済ませてきたから結構なのよ」


「そっかぁ。リコちゃーん! ミリちゃんは要らないって!」


「聞こえてるよ」


「今日のご飯は何かなー」


 1人でひたすら喋っているアリシア、黙々と朝食を作るリコッタ、静かにお茶を飲むミリア。カオスな空気の中、朝食が出来上がり、騒がしい食事を終えて8時半過ぎにやっと開店準備に取り掛かる。


「アリシアのせいでいつもギリギリだな」


「えー? 私、何もしてないよ?」


「ちょっとは何かしろって事だよ」


「むりー。朝弱いもん」


「朝だけじゃねぇだろ」


「そうかなぁ?」


「……騒がしいのよ」


 開店準備をしている最中も押し問答。常に騒がしい2人にミリアは呆れていた。


「アリシアちゃ! もう開店の時間なのよ。ミリのエプロンをちょうだいなのよ」


「へ? あっ、忘れてた。はい、これ。ミリちゃんのはピンク色ね」


「リコッタちゃと色が違うのよ」


「ミリちゃんに似合うと思ってその色にしたんだよ! 早くつけてみて」


 催促されるもののミリアはエプロンを持ったままで一向につけようとしない。


「どうしたの?」


「自分でお洋服を着た事がないから分からないのよ」


「ホントに!? お姫様みたい!」


「『みたい』じゃなくて、姫なのよ」


「それでは私がつけてあげるね……うへへ」


 怪しい笑みを浮かべてヨダレを垂らしつつミリアへエプロンをつけようとするアリシアがエプロンを手に取ろうとすると、


「オイラがつけてやる。アリシアだといかがわしい事をしそうだからな」


 リコッタが先にエプロンを取り上げた。


「いかがわしいって何!? そんな事しないよ!?」


「ヨダレを拭いてから言え」


「あっ……」


「兎に角、ミリアの世話はオイラがするからアリシアはミリアに近付くな」


「えーっ!? リコちゃんだけズルい!」


「ズルくて結構。ほら、さっさとプレートをひっくり返してきて店を開けろ」


「むぅー」


 頬を膨らませるアリシアは渋々店を開けに外へ出た。


「あーあ、私もミリちゃんのお世話したいなぁ〜……え? 何これ」


 プレートをオープンにひっくり返したところでアリシアは店の前に行列が出来ているのに気付きポカンとする。

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