第16話 お楽しみ中
閉店の19時まで昼食もとらずにチラシ配りと店番をしたものの来店した客はたったの3人。売れた肉は1キロにも満たなかった。
プレートをクローズにしてダイニングキッチンでアリシア達はお茶を飲んで一息つく。
「あんまり来なかったな、客」
「そうだね。でも、1人も来なかったわけじゃないし、チラシは配ったんだから明日以降に期待しよ?」
「だな。まだ初日だしな」
「あ〜、お腹減った〜。リコちゃん、ご飯にしようよ」
「おう。昼飯も食ってないもんな。チャチャッと作るから待ってろ」
夕飯を済ませ、前日と同様にリコッタと一緒に入浴したアリシアは2階戻って各部屋に別れる前にリコッタを止めた。
「あっ! リコちゃん、待って!」
「ん? 何だ?」
「忘れ物! ちょっとここで待っててね」
店舗へ降りる階段に駆けて行ったアリシアはすぐに忘れ物を持って戻ってきて、それをリコッタへ渡した。
「はい、これ」
渡された物は手くらいの大きさの木板で作られたドアプレート。ドアプレートは3枚あり、その内の1枚、リコッタの名前が記載されている物をアリシアは渡した。
「お客さんを待ってる時、暇だったから3人分のドアプレートを作ったんだ。って言っても木の板に名前を書いただけなんだけど」
「これ、オイラの名前が書いてあったんだな。字が汚すぎて呪いの文字かと思ったぜ」
「呪い!? 一生懸命作ったのに酷いなぁ、もう!」
「わりぃ、わりぃ。ありがとな、アリシア。今日は色々あったし、もう寝ようか」
「そうだね。おやすみ、リコちゃん」
「ああ、おやすみ」
アリシアとリコッタは自身の部屋にドアプレートを掛け、各自部屋に入って行った。
初めてのチラシ配りで気疲れしたリコッタはぐっすり眠っていて、翌朝の7時前に目を覚ましてそこでやっと異変に気付いた。
「ふあぁ〜……よく寝たぜ。ん? 何だこりゃ?」
上半身を起こして伸びをしたリコッタの布団は妙な盛り上がりがある。
不思議に思い、捲るとヨダレを垂らして気持ち良さそうに眠るアリシアがいた。
「いつの間に……あ、そうか、そういう事か」
リコッタの頭の中に前日のアリシアの言葉が蘇る。
「ミリアへ朝7時にオイラの部屋に来いって言ったのはこういう事だったのか。最初からオイラのベッドに潜り込むつもりだったとは……くっ! 油断してたぜ」
「むにゃむにゃ……リコちゃん、おかわり……むにゃむにゃ」
「『おかわり』じゃねぇよ。おい、アリシア。もうすぐミリアが来るぞ! それに開店準備もあるんだからさっさと起きろ!」
リコッタがアリシアの体を揺さぶって起こしていると、コンッコンッと小さなノックと声掛けの後にドアが開かれミリアが部屋に入ってきた。
「おはようなのよ……あ」
入ってきたミリアは2人を見るなりポカンと口を開けて固まり、数秒の間を経てそーっと部屋を出ようとする。
「お楽しみ中、失礼しましたなのよ」
「ちょっと待て、誤解だ!」
「ミリは1人でお店の中を見学してくるから、続けてもらって大丈夫なのよ」
リコッタの静止も虚しくミリアは部屋を出て行き、その後にタイミング悪くアリシアが目を覚ましてムクリと起き上がる。
「おはよぉ、リコちゃん」
「今頃起きやがって……」
「……何? どうしたの?」
「どうしたもこうしたもねぇよ! さっさと支度して店に行くぞ! ミリアももう来てんだから!」
「もうそんな時間なんだぁ」
「ほら、ぼさっとしてないで早く!」
「はぁい」
手短に支度をしたアリシアとリコッタは下見をしているミリアの所へ急いで向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます