第12話 団体さんだね!

 9時に開店してから客を待つこと3時間。昼になったというのに客は1人も来ていなかった。


「客、来ねぇな……」


「そうだね〜」


 暇そうにショーケースへ両肘をついて頬杖をしているアリシアへリコッタは静かに言葉をぶつける。


「いや、これじゃ駄目だろ。雨風が凌げて3食付いてるけど、客が来ないなら森でテント暮らししてた時と大して変わらねぇ。店の意味がねぇよ。働いてるからにはオイラも給料は欲しいしな」


「うーん、そうだよねー……あっ! そうだ!」


「お? どうした?」


「こんな事もあるかと思って昨日の夜、値札を作るついでにアレを作ったんだった」


「アレ?」


「ちょっと待ってて、持ってくるから」


「お、おう」


 アリシアは自室から作った物を持ってきてショーケースの上に置き、その1つを手に取ってリコッタへ突き出して見せた。


「じゃじゃーん! これを作ったの!」


「ほほぅ。チラシか」


 アリシアが作ったのはチラシだった。リコッタの部屋に侵入するまでの間、値札作成のついでにコツコツとチラシを100枚ほど作成。

 絵も下手で字も汚いが店の場所と売りは伝わる。


「これを大通りで配って宣伝するの!」


「いい案だが、誰が配るんだ?」


「2人で配るんだよ」


「それは駄目だろ」


「何で?」


「2人で配りに行ったら店はどうするんだ? 配ってる間に客が来るかもしれないだろ?」


「そっか、そうだよね。うーん……じゃあ、リコちゃんが配ってきて」


「オイラが!?」


「うん。嫌なら私が行くけど、リコちゃんはチラシ配りと1人で店番のどっちがいい?」


「どっちも嫌だが……くっ! 仕方ない、チラシ配りに行くよ。まだ初日だから1人で店番出来る自信がない」


「じゃ、お願いね〜」


 チラシの束を渡されたリコッタはトボトボと大通りへ向かった。



 リコッタがチラシ配りに出て行って1時間ほど。店番のアリシアは呑気に朝食の残りのおにぎりを頬張りながら様々な物が載っているカタログを眺めていた。


「私専用の包丁が欲しいな〜。今持ってるのはお爺ちゃんが使ってたやつだし」


 ペラペラとカタログを捲っているとドアに取り付けられた鈴がなり、リコッタがイーズ国の紋章が入った鎧の兵士を数人引き連れて店内に入ってきた。


「リコちゃん、すごーい! 団体さんだね! 見た感じ兵隊さんだから、お肉が好きでいっぱい買ってくれそう!」


 ショーケースに手を付き、身を乗り出して嬉しそうにするアリシアにリコッタは浮かない顔をして言葉を返した。


「すまん。警備兵に捕まった」


「へ? ……じゃあ、その人達はお客さんじゃないの?」


「客どころかアリシアもこれから城へ連れて行かれる」


「どういう事!?」


「つまり、アリシアも捕まるって事だ。本当にすまん」


「リコちゃん何したの!?」


「いや、オイラはチラシを配ってただけなんだが……」


 兵士の1人が2人の会話に割って入る。


「店主のアリシア・ファルスだな?」


「そうだよ。何で私とリコちゃんが捕まるの?」


「理由は我らにも分からん。我らは姫様に命じられただけなのだ。大人しく城までついてきて貰おうか」


「お姫様が?」


「この者達を城へ連行しろ」


「ちょっと待って! お城に行くからお店だけ閉めさせて!」


「うむ、よかろう」


 店の戸締りをしてプレートをクローズに返すとアリシアとリコッタは兵士に連れられて城へ。

 そして城に着くなり牢屋に入れられた。

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