第11話 ミートマスター開店だよ!

 店に立てそうな服を着て作業場で待てと言われたリコッタは軍服を着て、作業場で腕組みをして仁王立ちで待っていた。その姿はまるで新兵を待つ指揮官のようだ。

 そこへいつものメイド服姿でアリシアがやってきて、入るなり大袈裟に驚いた。


「リコちゃん、お待たせ〜――ひゃっ!? ここは戦場!?」


「仕事も一種の戦いだからな。それにこの服を着ると気が引き締まる」


「へ、へぇ〜……」


 常識外れなアリシアも流石に軍服を着てくるとは思ってもおらず、若干引き気味だった。


「ん? 何か変か?」


「う、ううん。リコちゃんがやる気出るならいいけど……そうだ! 忘れるとこだった。はい、これ付けてね」


 アリシアから渡されたのは胸から腹にかけて大きく骨付き肉の絵が描かれていて、その下には店の名前が明記してある黒地のエプロン。

 言われるがままにエプロンをつけたリコッタはある疑問をアリシアにぶつけた。


「アリシアはエプロンをつけないのか?」


「私は店長だから。でも、ちゃんとメイドエプロンの端にお店のロゴと名前は付いてるよ」


「そうか……」


「エプロン気に入らなかった?」


「いや、軍服にエプロンはどうかと思うが……黒はいい。黒は闇に紛れるからな。暗闇で敵から身を隠すにはうってつけだ」


「敵って何!? 身を隠しちゃダメだよぉ! 宣伝にならないでしょ?」


「そ、そうか……そうだな。で? これから何をすればいいんだ?」


「昨日の夜に値札は作ったから、ショーケースに入れる分の切り分けをしてショーケースにお肉を移して値札を付けてくの」


「わかった。オイラも切り分けを手伝うから、アリシアはどれくらいの量を切り分けるか指示してくれ」


「うん!」


 アリシアとリコッタは肉を切り分けてはショーケースに運んで値札を付けていく。

 作業は滞りなく進み、8時半には見事にショーケース内に肉が並んだ。

 ショーケースの前に立って2人は笑みを浮かべる。


「こうやって見ると様になってるな」


「お肉屋さんみたいだね」


「みたいじゃなくて、肉屋だろ」


「へへっ、そうだったね」


「……本当に大丈夫なんだろうか……」


「9時に開店だから、それまでにササッと朝ご飯を食べよ?」


「あと30分って……大した物は作れないぞ? おにぎりでいいか?」


「うん! 具は入れるの?」


「切り分けの時に出た、売りに出せない小さな端肉を醤油ベースのタレで炒めたやつを入れるつもりだが、具無しのがいいか?」


「有りがいい! それ美味しそう!」


「じゃ、ちゃちゃっと作るよ」


 一旦、ダイニングキッチンへ行き朝食を手早く済ませた2人は店の表の壁に掛けてあるプレートをクローズからオープンに返して、


「ミートマスター開店だよ!」


「客が来るといいな」


「きっと沢山来るよ!」


「そうだな。そうだといいな」


 意気揚々と店内に戻り、客が来るのを待った。

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