第10話 やっちゃった

 時刻は夜の11時。自室に入ってから2時間ほど経っていた。

 リコッタがウトウトしていたのも束の間。ドアがソッと開かれ、部屋へ入ってきた者に気付いた時には既にベッドの前に立たれていた。

 慌てて上半身を起こして枕元の近くにある照明をつけると、ベッドの前に立つ侵入者の姿がハッキリと映し出させれる。


「なんだ、アリシアか。ビックリしたじゃないか」


 侵入者の正体は何故か枕を抱いているアリシアだった。


「何かあったのか? 枕なんか抱えて」


「リコちゃん、一緒に寝ていい?」


「は?」


「1人は寂しくって」


「オイラが来るまではずっと1人で寝てたんだろ?」


「そうだけど……」


「なら、自分の部屋に戻って1人で寝ろよ」


 リコッタの言葉にアリシアは抱いている枕を更にギュッと抱き、しょんぼりして俯く。


「はぁ……わかったよ。一緒に寝ていいよ。だから、そんな泣きそうな顔するな」


「いいの?」


「いいって言ってんだろ。ほら、早くベッドへ入れ」


「うん」


 アリシアがベッドへ入るとリコッタは照明を落として横になり、アリシアに背を向ける。

 アリシアは無防備なその背中にピッタリとくっ付いた。


「おい、離れて寝ろよ」


「やだ」


 アリシアがワガママを言い出したら説き伏せるのは困難。早く眠りにつきたいリコッタは最低限の注意だけする事にした。


「離れないのはもういいけど、おねしょはするなよ」


「大丈夫だよ。ちょっとしかお水飲んでないから」


「不安だ……」


「明日、開店準備するから朝7時に起こしてね」


「オイラは目覚まし時計じゃないぞ。……ん? アリシア?」


 少し体をズラしてアリシアの方へ視線を向けると、アリシアは気持ち良さそうな顔をして眠っていた。


「寝るの早っ。はぁ……7時か。オイラも寝よ……」


 諦めてリコッタも眠りについた。



 部屋の掛け時計が7時をさした頃、体内時計がバッチリ合っているリコッタが目を覚まし、体を起こして掛け布団を捲り退ける。


「やりやがったな」


 敷布団には見事な地図が出来上がっていて、地図の作成者は未だに気持ち良さそうに寝息を立てている。

 リコッタはベッドから降り、敷布団を上に強く引っ張ってアリシアを床へ落とす。


「きゃんっ! な、何!? あ……リコちゃん、おはよぉ」


「『おはよぉ』じゃねぇ! 立派な地図を作りやがって! これ、アリシアが洗えよ!」


「あ……」


 持ち上げられた敷布団を見て、アリシアは自身がおねしょをした事に気付いて何だか照れくさそうに舌を出して軽く握った拳で頭をコツンと叩いた。


「えへっ! やっちゃった」


「注意したのに……くっ! 何か腹立つなぁ」


「そうイライラしないで、お店の開店準備しよ?」


「何か色々と腑に落ちないけどやるか」


「じゃあ、私はお風呂と着替えをしてくるから、先にリコちゃんはお店に立てる服装で作業場に行ってて」


「おう。布団を、干して、シーツも洗濯しろよ」


「うん! また後でね」


 アリシアは鼻歌交じりでリコッタの部屋から出て行った。

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