第8話 駄目だ!
ジュワー、パチパチ、コポコポといった揚げ物特有の食欲をそそる音が聞こえてくる。
アリシアはリクエスト最後の料理が『煮る』ということを忘れて、その音に耳を傾けて楽しみにしながら待っていた。
音が止み、皿を持ってやってくるリコッタの姿にアリシアはワクワクが止まらない。
「ほい、お待ちどう! これがリクエスト最後の品だ」
期待し過ぎて若干ヨダレを垂れていたアリシアは置かれた皿の内容を見てキョトンとした。
「あれ? 揚げ物の音がしてたのに、出来上がったのはこれ?」
置かれた皿に乗っていたのは聞こえてきた音が鳴らないものだった。
「最後のリクエストは『煮る』だろ? だからオイラは角煮を作ったんだ。嫌いだったか?」
「好きだけど……」
「いやー、圧力鍋があって助かったぜ。それでも下茹でに5分、圧力をかけて15分、圧力を抜いてそこから5分煮詰めて、味が染み込んだのを確認してやっと出来上がったんだからな」
「それで揚げ物の音がしてたのは分からないけど、美味しそうだからいいや。それでは……いただきまーす! あと、ご飯おかわり!」
「はいよ」
味噌漬け焼き同様、まずは単体で食べてその後におかわりのてんこ盛り白米を受け取って白米にワンバウンドさせて口に放り込んでから白米をかき込んだ。
「うひゃ〜! 最後の料理もちょー美味しい! ずっしりとした感じなのに口の中に入るとホロホロと蕩けるように解れて噛まなくてもいいくらい柔らかい! それに砂糖醤油の甘辛い中に薄らと生姜の香りが残っててくどくない。ちょっぴりカラシを付けて食べると更にサッパリ感が出ていいね!」
「ホントにアリシアは美味そうに食べるよな。手間をかけて作った甲斐があるぜ」
「だって、リコちゃんのお料理美味しいんだもん」
「で? 肉の方はどうだ? 商品として出せそうか?」
「バラとロースだけしか使ってないけど、この感じだと他の部位も問題なさそうだよ。調理をして貰ったのはモンスターのお肉を商品にして買ったお客さんが料理した時に不具合がないかを確かめる為だったの。モンスターのお肉は食べた事なかったしね」
「そうか、なるほど。しかしまぁ、そんな考えが働くのに何で切羽詰まってからやる気を出したんだよ」
「だって、遊びたかったんだもーん」
「『もーん』って……」
呆れるリコッタはキッチンへ自分の分の晩御飯を取りに行って、テーブルへ戻り食事を始める。
「じゃ、オイラもメシにするか。いただきまーす」
リコッタが食事を始めるとアリシアは手を止め、食べているリコッタをジッと見つめた。
「何だ? アリシア。食わないのか?」
「食べるけど……リコちゃんのそれ……」
「これか? これはロースで作った串カツとトンカツだ」
揚げ物の音の正体はリコッタのおかずだった。
「それ、私も食べたい!」
アリシアは皿に手を伸ばしたが、その手はリコッタに掴まれておかず泥棒を阻止された。
「駄目だ! これはオイラのおかず。アリシアには3品も作ってやっただろ」
「でも、それも食べたい!」
「駄目だったら駄目だ! ワガママ言ってるとロープで巻いてチャーシューにするぞ」
「むぅ〜!」
リコッタの圧力に負け、アリシアは大人しく手を引っ込めて揚げ物を食べるリコッタをチラチラ見ながら残りの角煮を食べた。
この事でアリシアの中ではお婆ちゃんに似た雰囲気を持つ姉的存在としてリコッタが位置付けされる。
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