第7話 哀れな豚
下拵えを終わらせ、浸水させた米に火を入れ、米が炊きあがるまでに料理を作っていく。
調理をするリコッタに暇を持て余しているアリシアは質問をする。
「処理とか切り分けをしてて思ったんだけど、主のお肉って豚肉にかなり近いよね? 何でだろ……豚の親戚だったのかな?」
「お? 感が良いな。神獣『ベヒーモス』は知ってるだろ?」
「うん。ちょー強いモンスターだよね」
「そうだ。狩りの最中にも言ったが主はベヒーモスの亜種。『ブヒーモス』ってモンスターで神獣に成り損なった哀れな豚だ」
「なるほどね〜。主がそれなら、神牛と魔牛のハーフであるリコちゃんのお肉は牛肉に近いのかな?」
「知らねぇよ。オイラは肉にならないからな。狩るなよ?」
「ちぇー」
「まだ狩るつもりだったのか……。ほい、1品目の蒸し料理だ」
リコッタは残念そうにしているアリシアのところへ歩いていき、テーブルへ料理が盛り付けられた皿を1つ置いた。
「わぁ〜美味しそう! これは何ていう料理なの?」
「薄くスライスしたバラ肉と食感が残る大きさに切った長ネギをフライパンに入れて酒を回し掛け、蓋を閉めて中火で10分程度蒸し焼きにした『バラ肉とネギの酒蒸し』だ。一応、塩コショウで薄ら下味は付けてあるけど、ポン酢を付けて食べてくれ。パンチを効かせたいならポン酢に好みでラー油を入れて辛味ポン酢にするのもオススメだぜ」
アリシアはまずポン酢で1口食べてみる。
「美味しい! お肉と柔らかい食感と長ネギのシャキシャキとした食感が口の中を飽きさせない! それにポン酢でサッパリしているからバラ肉の脂っこいのをリセットしてくれて幾らでも食べれそう」
そして次にラー油を少し加えて辛味ポン酢で1口。
「むふぅ〜! こっちはラー油のピリッとした辛味で少し大人な味。これはお酒に合いそう!」
「お気に召したようでなによりだ。もう少しで米も炊けるし、次の料理までそれを摘んで待っててくれ」
「うん! 次はどんな美味しいものが出てくるかな〜」
リコッタはキッチンへ戻り、アリシアはバラ肉と長ネギの酒蒸しを摘みながらご機嫌で待つ。
「なぁ、アリシア。身体能力が異常に高いけど、親が常人じゃなかったのか? さっき肉屋はこれくらい出来なきゃって言ってたけど、それじゃ説明がつかない。トレーニングもしてないようだし、遺伝としか考えられないんだが」
「多分、遺伝かなー。お父さんとお母さん、それにお爺ちゃんは普通の人だったけど、お婆ちゃんが強かったから」
「ほぅ、婆ちゃんが?」
「お婆ちゃんは元軍人でちょー強くて怖かったんだよ」
「元軍人? この国の?」
「そうだよ。えーっと確か……『紅の戦鬼』とか呼ばれてたって」
「紅の戦鬼だと!? どおりでアリシアの身体能力が高いわけだ」
「お婆ちゃんを知ってるの?」
「本人は見た事ないが、軍では知らない奴はいない伝説の存在だ」
アリシアの祖母は数々の偉業を成し遂げ、忽然と姿を消した軍人。イース国歴代の軍人だけでなく、冒険者や傭兵も含めてその中でも身体能力、功績がトップクラス。
特徴的な紅色の髪の鬼族という事から『紅の戦鬼』と呼ばれ、今や伝説となっていた。
しかし、アリシアからすればただの祖母。
アリシアはあまり興味がないようだった。
「へぇー」
「『へぇー』って……」
「それより次の料理は出来た? 酒蒸し食べ終わっちゃった」
祖母の事より、料理の方がアリシアの興味をひいていた。
「丁度、出来たぜ。米も炊き上がって蒸らし終わってるから米と一緒に召し上がれ」
茶碗に山盛りの白米と次の料理が乗った皿をテーブルへ運んできたリコッタ。
「これも美味しそう!」
「厚めに切ったロースを筋切りして味噌や砂糖などを合わせた漬けダレを揉み込んで少しおいた後、中に火が通るまで焼いて食べやすい大きさにカットした『味噌漬け焼き』だ。付け合せに千切りしたキャベツを添えてある」
「いただきまーす!」
アリシアは味噌漬け焼きをまず単体で食べ、
「ちょー美味しい!」
間髪入れずに今度は白米にワンバウンドさせてから口に放り込み、白米をかき込む。
「味が濃くて白米が進むぅ〜! 漬けおきしてるからちゃんと味が染み込んでて、筋切りや調味料のおかげでお肉も柔らかい! 付け合せのキャベツともバッチリ合うね!」
「これも気に入ったようだな。最後の注文の料理がもうすぐ出来上がるからもう少しだけ待ってくれ」
「うん!」
リコッタはまたキッチンへ戻り、アリシアは最後の料理を待ちながら箸を進めた。
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