第72話 ヤバイ女
それから俺は雪代に連れられて、合コン会場を後にした。
神々の宴である合コンから抜けられたのはいいのだが……どこか不機嫌そうに俺の隣を歩く雪代さんが問題だ。
俺としては1人で帰りたかったが、あの状況では断りづらい……。
やんわり断ると……。
『うるさい、病人は黙って送られろ』
と、ピシャリと言い切られた。この人、笑顔が恐い羽村とは違いストレートに恐い。そして、唯一合コンメンバーの中で雪代と親交のあるらしい今村妹も……。
『一度言い出したら聞かないからね……送られてやってよ……』
と、言っていた。
他のメンバーも俺を1人で帰すのは心配だったらしく、おおむね賛成だった。
特に今村兄は最後まで、俺を送りたがっていたけど……あいつ合コンの企画者で、抜けるわけにいかず、残ることになった。
俺としても、もしついてこられて、合コンが中止になったら、皆にも店にも申し訳ないし……。
というわけで俺は人気のない駅までの道を今日初めて出会った女子と歩いている……。
「…………」
「…………」
当然だが会話などは一切ない……俺に初対面の女の子と楽しくお話ができるスキルがあるのならば、ここまで羽村との関係はこじれいていない。
(だが……気まずいな……多分羽村も後ろからついてきているだろうし……羽村だしなぁ……ん? あれ……ま、待てよ)
そこで俺はあることに気が付いた。
あれ……俺は今、初めての合コンで女子をお持ち帰りしているのか!?!?
※仮病で送ってもらっているだけです。
「…………」
いやいや……変な勘違いは身を滅ぼす。
だが……俺も男だ。合コンでお持ち帰りというのは一種の夢だ。願望だ。今俺はその夢を叶えてしまっているのかもしれない。
※仮病で送ってもらっているだけです。
そうなると……この時間をかみしめていいのかもしれない。こんな機会一生ないかもしれないし……。
というか……。
「…………」
俺は仏頂面で俺の隣を歩く雪代を見る。大きな眼鏡が特徴的で、見た目ギャルな今村妹とは違い、黒のショートヘアーで、大人締めな雰囲気がある……が、どこか、トゲトゲしく、強い意志のようなものを感じる……。
「ねぇ……さっきから話しかてるんだけど」
「えっ?」
考え事に夢中で気が付かなったが、雪代に話しかけられていたらしい。俺は立ち止まり、雪代の方を向くと、雪代も足を止める。
「わ、悪い。考え事してた……それで、なんだって?」
「これから暇? 少し、寄りたいところがあるんだけど……」
はっ? な、なんですか? まさか俺がお持ち帰りされる……?
「い、いや、俺、体調が……」
「体調が悪いというのが嘘だというのは気が付いてる。あんたもあの子も隠し事が下手だ……まあ、そのおかげで私も合コンを離脱できたんだけど」
「…………」
あ、あれ……? あの子って今村妹のことだよな……? ここはどういう、返答が正解なんだろうか……。わからん……こいつの目的が謎過ぎるのと、どこまで把握してるんだろうか……今村妹から俺の体調のこと聞いたのか?
「あと、断ってもいいけど……くすっ」
ここで雪代が初めて笑顔を見せる。それは落ち着いた見た目には合わない、ドSな意地悪な笑みを浮かべる。
「断られたら、今から合コンに戻って言わなくてもいいことを言うかもしれない。私、空気読めないから、余計な事言うぞ?」
「…………」
こいつナチュラルに脅してくるじゃん……。
ああ……この人、『姉貴』と同じ人種かも……人が困ってるのを『超かわいい!』とか言って、楽しむ厄介なタイプ……。
と、なると、こいつの言葉は脅しじゃなくて……本気でやる気がする。
「はぁ、わかった……でも、注意しろよ。俺に変に危害を加えると、大変な目に合うからな……これは心からの忠告だ」
「ん? 何それ、脅しのつもり?」
「い、いや、これは脅しじゃなくて――」
「ふん、安心しろ。少し話がしたいだけだ。ほら、行くぞ」
するとスタスタと足を進める雪代。
「いや……脅しとかじゃなくて……」
俺は後ろを振り向く。そこには誰もいない……誰もいないが……ストーカー様がいる気がした。
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