第71話 今村妹の気遣い

  ◇◇◇


「石神、こっちだ。おばさんが外は寒いからここで話せってよ」


「…………」


 今村妹に案内されたのはパスタや缶詰などが保管されてる10畳ほどの地下室で、空調がきいてるのか、店内ほどではないが暖かい。

 今は12月で寒いので、助かるのだが……地下室で同級生と2人っきりというのはいささか問題がある……。


 インキャ舐めるなよ。ギャルと地下室で2人っきりとか、溶ける。

 まだ、未海と湯島以外の女子とはまともに話せないからな……


 まあ、緊張で消えてなくなりたいというのは前提として……最大の問題は羽村から見たら俺らがどこに行ったかわからないという点だ。


 一刻も早く戻らないと羽村が危ない……店に迷惑をかけるという意味で。


「なあ、今村妹……話って……」


 ふと、今村妹見ると、どこか落ち着かなさそうに周りを見ている……え? 何? そんなに重い話するの? 『陰キャ如きがよくも神々の宴の合コンを汚してくれたな!!!』とか言われんの?


「い、今村妹、どうした? 何か問題があったか?」


「え? あ、ああ……あははは……」


 今村妹は取り繕うように笑う。まるで何かの感情を誤魔化しているようだ。


「いや、気にすんなし。ちょっと、おばさんにからかわれて、ちょっとな……ああ! こんなの私の柄じゃねぇよなぁ……はぁ」


「…………」


 よくわからんが……合コンをしていることをからかわれたのか?


「まあ、あたしの話はいいや、それよりも、今日は悪かったな……兄貴が無理矢理連れてきて……」


「え? あ、ああ……確かに無理矢理連れてきてこられけど……気にしなくていい」


「そうか、あんた合コンって苦手でしょ? さっきから愛想笑い連発してるし……あれだぞ? キツかったら帰れな? みんなには私か上手く言っておくし」


「え? マジで……いいのか?」


 男としてどうかと思うがエスケープできるなら、是非ともしたい。

 これ以上参加してると羽村に悪い気がするしな……。


「ああ、任せとけ。あたしこういうことを穏便にすませるの得意なんだ。まあ、兄貴がうるさいだろうけど、あいつの『苦手なこと』はわかってるからな」


 少し自慢げにいう今村妹。おお、なんと頼もしい……。


「ありがとう」


「はっ? れ、礼なんていいって…もとはと言えばバカ兄貴が無理やり誘ったのが原因じゃん。……今後はこんなことないように言い聞かせとくし」


「…………」


 な、なんていい奴なんだ……。

 俺が感動していると、今村妹は何かを言いづらそうに、そっぽを向く。


「それに……こっちこそありがとうね。あんなことがあったのに兄貴を嫌わないでくれて……」


「えっ? ああ、あの程度は嫌わないって」


 まあ、あの程度? のいたずらは何回か経験あるし、こっちもこっちで『身内』が今村兄に過剰防衛で訴えられた負けるレベルのトラウマを与えたからな……


「あはは、あれであの程度か……あたしは……それでも兄貴と縁を切らないでくれるお前の器の大きさが嬉しいんだ……ああ、話は終わりだ。さっ、皆とこに戻るぞ」


「お、おい、引っ張るなって……」


 そう言って、俺は妙に嬉しそうな今村妹に腕を引っ張られて、地下室を後にした。

 照れているようで、その間も俺の方を見ようとしなかった……こいつ本当にいい奴だな……。たくっ、今村兄よ。こんなにいい妹がいるんだから、心配かけんなよな。


 と、なんかほっこりした気持ちになったが……席に戻る時、カウンター席に戻っていた羽村と目が合う。


「…………」


 めっちゃ睨みつけられた……。

 どうやら、今村妹が俺の腕を引っ張っていることが気に食わないらしい……若干今村妹の胸が俺の肘に当たってるしな……。

 まったく……なんて言い訳すればいいんだ?


「おお! 石神君! やっと戻ったか! 主役がいないと盛り上がらないぜ!」


 俺と今村妹が席に戻ると、今村兄が盛大に迎え入れくる。やめろ、普通に恥ずかしいわ……。


「なあ、実は石神は頭痛がひどいらしくてな、空気を壊すのが嫌で黙っていたらしいんだが、大事を取って帰らせようと思うんだ」


 と、今村妹がさらりと答える。

 な、なるほど、今村妹が言えば、何故か俺の株も上がるということか……これが陽キャの策略か!


 案の定……。


「な、なんだと!? 石神君!?」


 この世の終わりのようなオーバーリアクションで絶望する今村兄。だからやめろ目立ってる……そんなに悲しそうにしてくれるのはもうなんか嬉しいけどな。


「え……? だ、大丈夫? そう言えば全然しゃべらなかったけど……それが理由なのね。うぅ、ごめんなさい、気が付いてあげられなくて」


 飯田は心配そうに俺の顔を覗き込んでくる……や、やめてくれ、そんな心配されると罪悪感がすごい……。


「あらあら、それは大変……確か店の事務所に頭痛薬のストックがあったから持ってくるわね」 


 えっと……だから、そんなに心配しなくてもいいんだけど……この人は面倒見がよさそうだな……。


「………………」


 そして、雪代は興味がないのか……何かを考えこんでいる。

 ? どうしたんだ? 何か真剣に考えてるみたいだけど……まあ、それよりもこれ以上気を使われるのもあれだし、とっと退散しよう。


「そういうわけだから俺は先に帰らせて――」


「私も帰る」


 俺の言葉を遮って雪代が口をはさむ。

 一言そう言って席を立つ。


「え?」


「私、2次会に出る気なかったし、体調を悪い人を1人で帰す訳にもいかないでしょ? 送ってく」


「………………」


 えっ? 俺知らない女子と二人で帰るの?

 は、羽村さんに襲われても知らないよ?

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