第73話 みんな集結
『い、いらっしゃいませー』
「……あ、あはは」
俺は雪代にお持ち帰り……違う、有効的に脅されて、数時間前に未海と来たファーストフード店に来ていた。
何が気まずいって、店員が未海と来た時と同じで、心なしか『い、いらっしゃませー』の言葉が『こいつ陰キャのくせに女をひっかえとっかえしてやがる!』と、言われている気がした……。
まあ、いきなり精神力ゲージを削られたが、本番はここからだ……。
俺は2人分のドリンクがのったトレーを持って、2人掛けの席に座った。
ちなみにあらぬ疑いをかけられないように、会話が他の客に聞かれやすい真ん中あたりの席だ。
ナイス、ストーカー配慮。
案の定、俺の後をつけてきたであろう、
羽村が俺たちからは見えずに、会話が聞こえる薄い壁を挟んだ席に座った。
ちなみにOL姿を見られた可能性のある雪代への警戒か、どこかで着替えたのかいつもの制服姿だった。
さっさと、話を済ませてしまおう…。
「えっと、話って……?」
話を切り出すと、雪代はドリンクにストローをさしながら、口を開く。
「……お前、樹奈とは仲がいいの?」
どこか探るような口調だ……ふむ、樹奈って、誰だ……?
そんな考えを見据えてか呆れたような顔でため息をつきながら……睨みつけてくる。
「おい、呼び方に関しては本人が気にしてないからいいが、名前ぐらい覚えろ。今村妹のことだ」
「は、はい……」
この人……見た目は大人しそうなのに、言動がいちいち怖いな……
ヤンキー的というか……見た目とのギャップがある。
「まあ、仲がいいというか……腐れ縁というか……」
何度も土下座させた仲だ! とは言えない。
「ふーん、そう。まあ、あいつ見た目はギャルだけど、変に義理堅いからね。どうせお前にもお節介を焼いてるんだろ。で? 兄貴の方に妙に好かれている理由は?」
「………………」
こ、答えづれぇ……。
雪城がなんでこんな質問をしてきているか謎だからな……正直に答えると、騒ぎになりそうだし。どうしたものか……。
と、悩んでいた時……。
何故かラフな私服姿の湯島がホットコーヒー片手に店内に入ってきた。
きょろきょろとなんか気まずそうに、周りを見ている。
「え、えっと、開いてる席、空いてる席は……」
(えっ? な、なんで!? 湯島がここに……!?)
俺は慌てて、手に持った烏龍茶を落としそうになる。
今の状況は何から何までまずい……。
俺が見ず知らずの女子とお茶をしている状態もまずいがそれよりも……別の席で俺たちの会話を聞いている羽村と鉢合わせしたら……
と、心配していると……。
「…………あ、あそこが開いてるわね」
湯島は俺と視線を合わせずに、スタスタと俺の視界から消える。
なんか、てか、俺今見て見ぬ振りされた……?
そして……羽村が座った方からヒソヒソと湯島と羽村の言い合いが、聞こえた。
『ゆ、湯島さん……!? な、なにしてるの!? ちょっと、同じ席に座らないでよ!』
『う、うるさい、私だって不本意よ。ああ……好奇心に負けた自分に怒りたい!』
ヒソヒソ声で会話の内容は聞こえないけど、な、なんか揉めてる? ああ! もうなんだっていうんだよ!
俺の不審な態度を見て、雪城が首をかしげる。
「ん? なんか慌ててるけど、どうした? そんなに慌てる質問だった? まあ、男同士が仲がいい理由を私が聞くのも変だな。忘れてくれ。私、あいつに興味ないし」
「いや……それで俺と話したいことって?」
さっさと、本題を済ませてしまおうと俺が話を進めようとすると、雪城はどこか照れたように言う。
「ああ……お前、樹奈と仲よさそうだから、言うけど……あいつ、来週誕生日なんだ。祝うの手伝え……」
「…………」
脅されて連れて来られた割には……可愛いらしいお願いだな……。
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