心配性

 陽が沈んで暫く経った。2階にある自室で、𠮷原修司は不機嫌そうに電話を掛けていた。

「あんな頼りにならなさそうな婦警じゃ埒が開かん!もっと人数を寄越せと言ってるんだ!」

 それに対して、電話の向こうからは呆れたような中年の男の声が聞こえる。

『なんだったか、怪盗?レイナ?そんなふざけたもの、付き合うだけ時間の無駄だろう。お前は昔から心配性が過ぎるんだ。その調子で今までやって来れたとは、つくづく興味深い人生だと思うよ』

 修司は捲し立てるように言う。

「怪盗レイナは一度現れたことがあるんだ!しかも、実際に盗みを成功させている!本当に現れる可能性は高い!」

『確かに、怪盗レイナを騙る人物に会ったと、楓ちゃんが言ってたな。あの子は優秀だけど、そういうところがあるからなあ。まあ、俺の顔を立てて適当に流してくれ』

「山水図が実際に盗まれただろう?そのことを言っているんだ」

『確かに、爆破後に見つかった破片は偽造品の可能性が高い。でも、それが怪盗レイナが盗んだものという証拠もないだろう。……お前、江戸川乱歩を読んだことはあるか?うちの娘が一時期貪るように読み漁っていてね。あの頃は可愛かった……というのは置いておいて。怪盗なんてのは、ああいう創作の中のものなんだ。真面目に取り合う必要なんかないさ。暇してる楓ちゃんを寄越してやっただけ感謝してほしいもんだね。俺も仕事があるからな。本当に怪盗レイナが現れたら、適当に処理してやるから連絡してくれ。それじゃ』

「おい!」

 それで電話は切れてしまった。

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