予告状

 𠮷原修司は、短い手紙を読み終わるなり顔を顰めた。


――明日22時、金庫室に眠る金塊を頂く

                 Lena――


 「Lena」というサインは飾り文字で書かれており、その横にはおかしなマークまで付いている。こんな手紙を出すなんて、アニメやゲームの見過ぎだろう。だが、用心深さが転じて心配性になるほどの𠮷原修司にとって、彼を焦燥させるには十分だった。

 𠮷原修司はすぐに時計に目線をやった。激務を終えて帰宅して、時刻は23時過ぎであった。帰ってきたら、郵便受けに差出人不明の封筒が入っており、その中にこんな馬鹿げた予告状が入っていたのだ。

 修司はすぐに携帯電話を掛けた。

「今すぐ頼みたいことがある」


 そして翌日、𠮷原修司の邸宅にやってきた人間が居た。少し着崩したスーツの女である。応対に出たのは、修司の妻の吉原洋子だった。

「あら、また来たの?」

「今日は別の用事がありまして。ご主人に岬耕造からって伝えて頂ければ」

 その女が示した警察手帳には、「樫本楓」と名前が記してあった。

 暫くして、壮年といった年頃のパリッとしたスーツの男が出てきた。

「君が……怪盗レイナに詳しいっていうのか?」

 自己紹介もせず、男は訝しげに尋ねる。楓は事もなげに答えた。

「はい、みさき耕造こうぞうから話は伺っております。怪盗レイナのことならお任せください」

「だったら話が早い。金庫はこっちだ」

 修司は目も合わせず足早に歩いて行く。楓は慌てて上がり込んで(でも靴は丁寧に揃えてから)付いて行った。

 金庫室は、廊下の突き当りから入れる地下にある。黒光りする大きな扉の前まで案内されて、楓は尋ねた。

「中を見せていただくとかは……」

「ダメだ」

「ですよね~」

「……怪盗レイナは、この金庫を破れると思うか?」

「なんとも言えないですね。この金庫はどんなセキュリティになっているんです?」

「鍵、暗証番号、それとシステムの暗号化キーが必要だ」

「そこまでしたら、怪盗レイナとて厳しい気がしますけどね。如何せん、私も2回しかアイツに会ったことはないので」

「2回?美術館で侵入されただけじゃないのか?」

「ええ。その前に一回だけ、怪盗レイナには会ったことがあるんですよ」

「……2回も出くわして、捕まえられていないのか?」

 修司は軽く鼻で笑う。楓は無視して、ただ金庫を見つめていた。

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