51.再会

 広場に近付くにつれ、なぜか店という店の扉が開け放たれ入り口には色とりどりの花が飾られていて、それだけでは足りないとばかりに屋台もずらりと並んでいるのに気が付いた。

 何かお祭りでもあるのかしら、と思いながら手紙に書いてあった会場のお店に着くと店内のテーブルはほとんど撤去され、動線に広いスペースを取るようにレイアウトを変えられていた。

 幹事のベティと店長が顔を突き合わせて何か相談しているところに、後ろから声を掛ける。


「ベティ」


「あ、アリス様! ハヤト君も、久し振り! わあ、二人ともすっごい素敵ね」


「ありがとう。ベティもとっても綺麗ですよ」


 いつもローブ姿のベティも、今日は赤いスリムなロングドレスでお洒落している。

 この世界、乙女ゲームだけあって女の子の欲しがるようなものは貴族御用達から大衆向けまでほぼ揃っていて、化粧品だけじゃなく本や服、アクセサリーの種類も豊富なのだ。

 おかげで楽しく生きている。乙女ゲーム仕様様々である。


「二人とも、来てくれてありがとう。ハヤト君、皆はあっちにいるよ。会いたがってたから行ってくれば?」


 すっかりハヤトとも普通に話せるようになったベティは彼の元の仲間達――テッドさん達がいる辺りを指差した。


「うん。じゃ俺、ちょっとあいつらのとこ行ってくる」


「はーい」 


 自然と男子組と女子組に分かれ、私はベティと二人で立ち話を始めた。


「あの、今日なんですけど……私の学院の後輩が顔を出すと言っておりまして。すぐに帰るから気遣いは不要との事でしたが、大丈夫ですか?」


「わ、本当? アリス様の後輩ならお嬢様だよね。こっちは大丈夫だけど……むしろそっちが大丈夫ですか? って感じだよ」


「大丈夫です。カルロス姐さんと仲良くなれる子達なので」


「カルロス姐さんと! それなら確かに大丈夫そう。あの人、気弱な女子には厳しいから」


「ですよね」


 そうだろうなとは思っていた。

 カルロス姐さんはおどおどした女子には厳しいタイプだ。私も迫力の低音ボイスで脅された事がある。

 ご令嬢といえどモジモジしようものなら、はっきり喋りなさいよ! と叱ってきそうである。


 とにかく、ベティに大丈夫と言ってもらえて良かった。これで安心して彼女達を出迎えられる。


「ベティ。準備、大変じゃないですか? 何かお手伝いする事あります?」


「ううん。もう打ち合わせは終わったから大丈夫。あとは皆がやってくれるよ。もー、大変だったんだから! 外に出れば歩くごとに知らない人からこの件で話し掛けられるし!」


 あはは、と笑いながらベティは今日ここに至るまでの話をしてくれた。


「実は今日はね、この辺り一帯のお店全部が協力してくれてるんだ」


「え? そうなんですか?」


「そう。私達平民が婚約記念パーティーをする時って、仲間内だけじゃなくて、たまたま居合わせた人とか通りすがりの人達も一緒になって入れ替わり立ち替わりで自由にお祝いするものなんだけど。でも今回はそれをやったらお店が確実にパンクするって事で、近隣のお店もパーティー仕様で営業してくれる事になったの。ほら見て。この辺のお店全部、扉を開けっ放しにして、入り口に花が飾ってあるでしょ? あれが今日のパーティー協賛の目印。噴水広場にも出店が出てるの見たでしょ? これってもう完全にお祭りだよね」


「ほ、本当ですね……」


 思った以上におおごとになっている。

 これは確かに準備が大変だったはずだ。


「あの、大丈夫なんですか? 費用とか、大変な事になるんじゃ」


「まあ、そりゃあそれなりだけど……でもテッド君達とかギルド長とか、ステュアート家からも出資があったから大丈夫。むしろお釣りがくるくらいだよ」


「うちからもですか。もう、お父様ったら何も教えてくれなかったんですけど」


「あはは、私はびっくりしすぎて心臓止まるかと思ったよ! ステュアート家の馬車がうちの前で停まった時は、アリス様に対する不敬罪で捕まるのかと思った」


「そんな訳ないでしょう」


 不敬なんてされてないし、それに今の貴族でそれ(不敬罪)を軽々しく持ち出す人は皆無とは言わないまでもほとんどいない。

 冒険者ギルドが単なる不法者の集まりではなく、純粋に実力で伸し上がれる組織になってから数十年。

 平民の持つ力は以前に比べてずいぶん強くなったと聞く。

 破竹の勢いで勢力を伸ばし続ける冒険者ギルドの影響力は平民にとってはもちろんの事、今や貴族にとっても無視できないくらいには大きなもので。

 その力を裏付けるのがハヤトのような高ランク達の存在。

 権力をかさに好き勝手やりすぎると、貴族といえども手痛いしっぺ返しに合うのを皆知っているのだ。

 生半可な権力では思い通りにできない彼らを煙たく思っていた貴族も少なくないはずだけど、今回、誰もが認めるトップランカーのハヤトがうちの分家として貴族側に回った事で両陣営に安堵した空気が広がっているらしい――と聞いた。

 貴族の優位性が揺らがないのなら必要以上に警戒する必要もない。そんな空気。

 貴族街と庶民街を行き来するようになってから、私はこの辺の感覚が貴族側と平民側のどちら側も肌で理解出来るようになった。

 今、私とハヤトは二つの社会のちょうど中間にいるのだ。結構貴重な経験をしていると、自分でも思う。


「――で、そういう訳だから、今日主役のお二人には噴水広場に席を置いてそこにいてもらおうかなって思ってるんだ。そのほうが混乱を抑えられそうだし、お店同士の不公平感も薄れるでしょ?」


「わ、わかりました」


 見ると、噴水広場には一際豪奢な長椅子が置かれていて、その周辺も沢山の花で飾られていた。

 ここに座ってね、という事なんだろうけど、婚約記念パーティーというより本当の結婚パーティーみたいな本格さ。

 あそこまで派手にするからには広場の使用許可は取れているのだろう。

 無許可でやったら即憲兵が飛んできそうな占領っぷりだ。


「よくあそこの使用許可が取れましたね。ただの内輪のお祝い事なのに」


「ただの内輪~? これがそんなお気楽な規模に見えるのか、このお嬢様は。全く、人の苦労も知らないで。くすぐってやる!」


「ちょっと! やめて下さいよ! あは、あはは」


 こしょこしょ脇腹をくすぐられてキャッキャッと笑っていたら、いつの間にか目の前にピートさんが立っていた。

 いつもよりちゃんとした格好、ライトグレーのダブルのスーツを着たピートさんは私達を見下ろしたまま少し引きつった笑みを浮かべ、丁寧に礼を取ってくれた。


「この度はご婚約おめでとうございます。奇跡のような縁が結ばれた事、誠に嬉しく思っております」


「はい、ありがとうございます。今日は楽しんでいって下さいね」


 挨拶ののち、ハヤト達のところへ向かっていくピートさん。

 それを皮切りに続々と人が集まり始め、気が付けば店内は早めに来た来客で人口密度が高くなっていた。


「もう、まだ時間前なのに……。しょうがない、飲み物だけでももう出しちゃおう。店長ー! 飲み物はもうサーブ始めちゃって下さーい!」


 ベティが声を掛けると、厨房から「はいよー」と返事が聞こえ、飲み物を携えた給仕達が続々と出てきた。

 私にも、細やかな泡が立ち上る飲み物のグラスを差し出された。

 それを横からサッとベティが受け取り、一口飲んで見せてくれる。


「毒味、必要なんでしょ? はいこれ。大丈夫なやつ」


 そう言ってグラスを渡してきた。

 いつもはそこまで警戒しっぱなしでもないんだけど、さすがに自分達の名前のついたパーティーでは気を使う必要があるかもしれない。

 万が一、事件が起きたらベティの責任になってしまうのだから。


「ありがとう」


「いーえ」


 少しだけ口に含んでみる。

 スパークリングのワインだ。


 ……お酒……。


 ふと苦い思い出が甦り、グラスから口を離す。

 どうしよう……。ちびちび飲めば大丈夫かな。

 ベティは私に念を押すように話し掛けてくる。


「万が一何かあるといけないから、今日お二人が口にするものは私とテッド君たちが毒味の後で持って行く事になってるの。食べたいものがあったら教えてね」


「はい」


 ただの友人にそこまでさせるのは心苦しいけれど、言う通りに全て任せるのが彼女にとっても良いのだろう。

 お礼、しなくちゃな。

 何をすれば良いのかな。

 以前、お茶会をしようって言ってたけど、そんな事が果たしてお礼になるんだろうか。考え込んでいると、ベティはふと何かを思い出したようにポンと手を打ち、大きめの鞄を持ち出してきた。


「そうそう。これね、作ってきたんだー。良かったら被ってくれない?」


 鞄から出てきたのは、色とりどりの花で作られた冠だった。


「わあ、綺麗。いいんですか? こんな凄いの」


「うん。人が多くなるから、遠くからでも主役って一目で分かるようにしたほうがいいなって思って。可愛いでしょ?」


「はい、とっても」


 ふぁさっ、と花冠を頭に乗せてくれた。

 嬉しさと花の香りの瑞々しさに顔が綻ぶ。


「ん、いいじゃん。似合う似合う。ほら、ハヤト君に見せにいこ」


 彼女に腕を引っ張られて、未来の夫となる人の元へ。


 ハヤトは花冠を見るなり「凄い、綺麗だね」と言って微笑んでくれて、私はベティと一緒になって頬を染めた。


 パーティーが始まり、私とハヤトは噴水広場に置かれた長椅子のところに移動した。

 かと言って座っていられる訳ではなく、知っている人も知らない人もひっきりなしに私達の元へ訪れて挨拶をしてくれるのでずっと立ちっぱなしだ。

 孤児院の子達も神父さんとシスターに連れられて来てくれて、女の子達は私が寄付したドレスで華やかに着飾っていた。

 可愛い。

 ベティが子供達に、


「花が飾ってある店は今日は食べ放題だよ」


 と言うと、全員目を輝かせてすっ飛んでいった。

 カルロス姐さんも来てくれた。

 既に酔っているようで、グラス片手にずいぶんとご機嫌だ。


「あらぁ、そのドレス本当に着てくれたのね。嬉しいわぁ。ねぇみんな見てよ、アタシの選んだドレスを公爵家のお嬢様が着てるわよぉ」


 顔が広いらしい姐さんの言葉に、近くにいた人達が笑顔で頷いて反応していた。

 その人達に姐さんは素材や縫製の出来の良さを滔々と語り始めてしまい、ひとしきり語ってやがて気が済んだのか


「じゃまた後でね。さー、飲むわよー」


 と言ってお酒がメインのお店の中に吸い込まれていった。

 ものすごいマイペースっぷりを見せてもらった。

 あんな風に振る舞えたら毎日楽しそう。

 ……いや、考えてみれば私も毎日楽しく過ごしている。

 ハヤトのおかげで毎日楽しいです。ありがとう、未来の旦那さん。


 ――やがて、陽が沈み始めて行く。

 辺りが薄暗くなってきた頃あちこちにセットされたキャンドルに火が灯され始めた。


「綺麗」


「いいでしょ。キャンドルナイトだよ」 


 得意げなベティの周りを、首輪に蝶ネクタイをつけたトイプー達がはしゃぎ回る。

 危ないから、とトイプー達を飼い主のテッドさんと、“羊”というシンプルな二つ名を持つジョージさんがひょいと抱き上げた。

 羊のジョージさんはクリーム色のくるくるヘアーと垂れ目がちな顔から付けられた二つ名だと聞いたことがある。

 それって二つ名というよりただのあだ名な気がするんだけど……。

 ジョージはトイプー達に髪をくんくん嗅がれながら顔色ひとつ変えずに首輪にリードを繋いでいく。かなり手馴れているようだ。

 彼はキャンドルや人間の食べ物から少し離れた場所にトイプー達を連れて行き、柵に繋いだ。

 そして犬達の頭をもふもふと撫でながら垂れ目がちの瞳で優しげに微笑んでいる。

 そのまましばらくもふもふタイムを堪能し、ようやくこちらに戻って来たと思ったら給仕から飲み物の入ったグラスを受け取り一気に半分以上飲み干した。

 草食系のイメージに似つかわしくない豪快な飲みっぷりに唖然としていると、ジョージは残り一口になったワインをハヤトに差し出して 


「毒味した。飲んでいいぞ」


 と言った。


「いやいやいや、もうそれお前が飲めよ。なんかヤダ」


「何で。毒味、必要なんだろ」


「いらないよ。酒、苦手だしさ……」


「それは知ってるけど、お前の祝いの席なんだぞ。ちょっとくらい飲めばいいじゃん。せっかく減らしてやったのに」


「え? ハヤト、お酒苦手なんですか?」


 知らなかった。

 確かに、この国ではもう飲める年齢の彼が飲んでいるところを見た事がない。

 蜂蜜酒も飲まなかったし。


 私の質問にハヤトは押し黙り、代わりにジョージさんが答えてくれた。


「そー。十五になったばっかりの時にみんなで飲んでみようぜってなったんだけどさ。コイツすぐにへろへろになってんの。ソッコー潰れたから隅っこに転がしといたら、近くで飲んでたおねーさん達が介抱してあげるーって言って頭を膝に乗せたり」


「おいジョージ。やめろ」


 ハヤトが止めるのも関係なしにジョージは続ける。


「いやー笑ったなぁー。コイツがあんなに狼狽えたのを見たのは初めてだったから」


 するとテッドさんも便乗してきた。


「ああ、そんな事もあったなぁ。確かに笑った。普段は何でも出来るみたいな顔してるくせに、酒に弱い上にああいう時はダセエのなんのって」


「マジでやめろ。それ以上喋ったらブッ飛ばす」


「お前が言うとシャレにならんよな。わかったよ、やめる。あとはアリスちゃんにお任せするよ」


 じっ、とハヤトを見ると、スッと目を逸らされた。

 ……ふーん? 別にいいけど?


「……アリス。誤解だ」


「まだ何も言ってません」


 ジョージ達が爆笑した。

 そんな中、ほどほどにお酒が回り始めていい気分になっている人達がそれぞれ持ち込んだらしい楽器を手に音を鳴らし始めた。

 楽器の種類はハーモニカやバイオリン、ミニギターにアコーディオンにファイフなど様々。

 最初はバラバラに鳴らされていたけれど、やがてお互いに呼吸を合わせ始めて一つの音楽になっていく。カントリー調とでも言うのだろうか、軽やかで陽気で、どこか懐かしさの漂う音色だ。

 貴族社会ではまず出会わない種類の、自由を愛し体現する人達の音。

 近くで飲んでいた町の女の子達が楽しそうにリズムに乗って、立ち上がり腕を組んでくるくると回って踊り始めた。

 それを見た孤児院の子達も真似してくるくる回り始める。

 踊らない人達も手拍子や口笛で盛り上げて、心地よい一体感が熱気と共に辺りを包み込んだ。

 その空気にこの国の豊かさを感じた瞬間、胸がどうしようもなく熱くなる。


 お父様は現国王陛下を尊敬している、と常々言っていた。

 その理由が今の私には理解できる。だって、こんなに人々が明るくて成熟した大衆文化、悪政の元ではありえない。

 学院の授業でもそのように習ってはいたけど、こうして肌で実感するのは初めてだ。あのおじ様、本当に良い王様だったのね。


 密かに感激していたら、あちこちから女の子のきゃーきゃー言う声が響いてきた。何事かと思ったら、ハヤトの変色が始まっているのが原因だった。

 太陽の光が似合う薄茶から、冷たく青みがかった銀の髪とサファイアブルーの瞳に変わっていく。

 毎日一回は必ずこうなるからすっかり見慣れてしまっていたけど、やっぱり不思議現象だよね、これ。

 雰囲気もがらりと変わるし、本当不思議。

 その様子を見ていたジョージさんがお酒を飲みながらしみじみと呟く。


「お前のソレ、久々に見たわ。治んないんだな」


「病気じゃねーよ。多分」


 彼らの横ではベティが両手で頬を覆って悶絶している。


「は、初めてこんな近くでカメレオンの瞬間を見た……! 一生の思い出……!」


「ベティ……そりゃ大げさだ。毎日あれを見ていると鬱陶しいと思うようになるぞ」


 テッドさんの突っ込みにベティはバッと顔を上げる。


「鬱陶しくないし大げさでもないでしょ! もうハヤト君は私達とは住む世界が違うんだよ? 領地も授かったって聞いたし、きっともうすぐ王都を出て行くんだよね!? そうしたら、今までみたいに気軽に会えなくなるんだよ!」


「あ、ああ……。そう、だったな」


「一緒に来ればいいじゃん」


 ハヤトの一言に、ベティもテッドさんもジョージさんも同時に「え?」と聞き返した。


「皆も来れば? ていうか来て。リディルに。狩りは続けられるようにするからさ」


 豪奢な長椅子に腰掛け、脚を組んで飄々と言い放つ銀髪の美少年は謎のカリスマ性に溢れている。

 思わず「はい、行きます」と答えると「アリスは最初から一緒に行くって決まってるでしょ」と冷静な一言を頂いた。

 当の三人は当然ながら即答できず、それぞれ考え込む。

 だけど即答できないという事は、検討の余地があるという事だ。


「ね? お願い。皆が来てくれると心強いなぁ。いてくれるだけでもすごく助かる」


「……変なとこであざとさ出してくんな。全然かわいくねーよ。俺は……狩りが出来るならどこでもいいけど」


「よし! ジョージ移住決定!」


「まだ行くって言ってねーだろ! 行ってもいいって言っただけ! もうちょっと考えさせろ!」


「俺は行ってもいいかな。チョコちゃん達、王都より田舎のほうが過ごしやすいだろうから」


 どこまでもトイプーファーストなテッドさんはもう決めてしまったようだ。

 ベティも考え込む時にうつむかず前を見ている辺り、文字通り前向きに考えているのかもしれない。


「……私、ライムさんに相談してみる」

 

 ライムさんとはベティと一緒にテッドさん達のパーティーに入った回復術士の人のことだ。病気の親の面倒を見ていると言っていたけど、どうなるか。


「すぐに決めなくてもいいよ。いつまでも待ってるから」


 まるで口説き文句のような言葉を口にして微笑む彼に、ベティは顔を真っ赤にして頷いていた。

 噴水のふちに手をついてゼエゼエするベティの横から、今の話を聞いていたらしい人達が割り込んでくる。


「あのっ、私も是非移住したいなって思ってるんですけど!」


「私も!」


「あの、俺も田舎のスローライフに興味があって! アリスお嬢様の元で働きたいなって思ってて」


 おお……! 移住希望者がこんなに!

 有り難いけど、移住ってそんなに簡単な話じゃないからね。

 よく考えてから決めないとだめだよ。

 ハヤトも同じような事を考えたみたいで、頷きながらも即答は避けた。


「皆ありがとね。嬉しいよ。でもリディルって近くはないから、家族や友達とよく相談してから決めて」


「はい!」


 そのやり取りに、ジョージが「俺達にはあんな選択肢無かったよな」とこぼすと、ハヤトは笑った。


「お前らは俺にとっては特別だからさ。協力してくれたら本当に助かると思って。……でも嫌だったら無理にとは言わないよ。残念だけど」


「誰も嫌なんて言ってないだろ。……わかったよ。俺も行くよ。全く、しょうがないな」


 渋々とした口調とは裏腹に、表情はちょっと嬉しそうだ。

 羊のジョージは面倒見が良くて、それでいてちょっと面倒くさい性格の人。

 私の中での好感度は高い。


 その時、トイプー達を繋いだ場所の辺りから聞き覚えのある声が聞こえた。


「わあ、ワンちゃんがいっぱいいるー」


 ゾクッと鳥肌が立ったのはもはや条件反射だと思う。

 振り向くと、ピンク髪のヒロイン、懐かしのマリアがトイプー達の横でしゃがみこんでいた。

 ベティと私の間でアイコンタクトが行われる。


“マリアだ”


“マリアですね”

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