49.★義弟ルークによる女の子の扱い方教室その①

 公爵家に拠点を移してから学院に編入するまでに一ヶ月間の時間があった。

 その間はほぼ勉強漬けの日々。

 公爵が家庭教師をつけてくれたおかげでとても順調に進められたと思う。


 運動不足はもうしょうがないけど気分転換はピアノが担ってくれた。

 さすがと言うべきか、公爵家のピアノは音がとても澄んでいて深みがありよく伸びる。それにタッチが軽さがちょうど良い。ペダル操作も気持ち良い。ピアニッシモがちゃんとピアニッシモしてる。

 今までと同じように弾いてみても完成度が段違いに高くなって面白くて、勉強の合間にのめり込んだ。

 これ、ゾーンに入れる率が高いという点で狩りと一緒だ。頭がすっきりする。そうしたらそれを知った公爵が


「芸は身を助ける。どんどんやりなさい」


 とピアノの先生もつけてくれて、改めて本職の先生に様々な事を教わった。

 豊富に揃っている楽譜から色んな曲を覚えて、夕食後にアリスのバイオリンとデュオで遊ぶのが日々の密かな楽しみになった。

 誰に聴かせるでもない、俺達だけの遊び。

 彼女とアイコンタクトで息を合わせて、共に一曲を奏でる。

 こんなコミュニケーションの取り方も良いもんだなと感じた。

 俺は、思った以上に公爵家での生活を楽しんでいる。


 今はアリスが好きって言った難曲に挑戦しているところだ。

 女神の本棚から出てきた、53–6という番号のタイトルがついた曲。

 アリス本人は手の大きさの問題で完璧には弾けないらしい。

 アリスは「英雄ポロネーズ」と謎のタイトルを言っていたけど、確かに英雄の戦いと凱旋を思わせるような、不穏で始まり勇壮に駆け上がって主題でバーンと華やかになる曲だ。教会の音楽とは構成からして全然違う。

 高難度なだけあって右手は早いし広いし、左手はあちこちにポンポン飛ぶしで手数が多くとても忙しい。でも挑戦のしがいがある。

 頻出する“タン、タタ、タ、タ、タ、タ”の特徴的なリズムが、一見無いように思った箇所にも両手で弾いて初めて出現するように仕込まれていたりして、そういうところにも非常にときめいた。

 俺もこれ好きだ。いつか完璧に仕上げてアリスに“どうだっ!”て言いたい。今の一番の目標はそれだ。


 一ヶ月はあっという間に過ぎ、叙爵に先立って学院の編入試験を受けた。

 手応えはあった。

 結果は翌日公爵の元へ届けられたらしい。どんな出来だったのか教えてはくれなかった。でも、


「これからも驕らずに研鑽し続けなさい」


 とだけ公爵は言った。

 そうだな。

 驕りは敵だ。

 今までも常に上には上がいると意識してやって来た。

 きっとどこかの人里離れた山奥の洞窟には、一見ただのお爺さんにしか見えないけど実は伝説の賢者と呼ばれるような凄い人が隠れ住んでいて。その人はなぜか俗世の事を何でも知ってるし、色んな国の国王を「あの小童」呼ばわりしたりするんだ。

 百年くらい前の事を「つい最近」と言ったりもすると思う。

 凄い魔法と凄い剣術や格闘術で世界を征服できるくらい強いのに、そんなのめんどくさいわいって言って動物を愛でながらゆったりと暮らしているお爺さん。

 いるかも知れないそんな人を見つけたくて、遠征先はそれっぽい場所ばかり選んできたところがある。


 まだ見つけた事はないけど、いたら弟子入りするんだ。

 これ、アリスが許してくれたらの話ね。


 それはさておき、学院は貴族街の中心付近にあって、王宮のすぐ隣、むしろ王宮の一部かと言いたくなるような豪華絢爛な建物だった。

 広大な敷地の中にはよく手入れされた庭園と森があり、校舎はその中央に鎮座している。

 初登校日、公爵家の馬車で学院まで送ってもらった俺は教員室まで案内してくれるというジェフリーさんの後ろを歩きながら周囲を見回していた。


 ここがアリスが通った学院かぁー。

 一緒に通いたかったな。


 深紅の絨毯が敷かれた廊下では学院付きらしいメイドさん達が掃除をしていて、俺達が通るとスッと端に寄って頭を下げた。


 あれっ。

 本当に貴族になったのか、俺。

 ……全く実感がない。


 けど、ふとした時に目に入る左手には、昨日陛下から下賜されたばかりの紋章の指輪が異様な存在感を醸し出していてまるで『自覚を持て』と語り掛けてくるようだ。

 背筋を伸ばして、アリスの夫として恥ずかしくないように振る舞おうと決めた。


 教員室で担任になるローレンスという男の先生に会った。

 先生はとある侯爵家の三男だそうだ。

 授業には色んな先生が関わるけど、基本的にはローレンス先生に何でも相談しなさいと言ってジェフリーさんは帰って行った。

 学院の教師にはそういう、三男だとか四男だとかが多いらしい。

 爵位を継がない男子はこうして教師や官吏になったり、もしくは騎士団に入って王族の近衛を目指してキャリアを積むのが一般的なんだとか。俺の子供達はどうなるのかな。自由にさせてやりたいな。


 アリスと子供達が幸せそうに笑う未来を想像しながらローレンス先生とⅡ–Aクラスに入り、紹介してもらって簡単に挨拶をする。それから


「この席を使いなさい」


 と言われて、窓際の一番前の席に座った。


「あ、あのっ……! 私、アンナです! アンナ・メイプル。よ、よろしくお願いしますっ!」


「はい。よろしくお願いします」 


 隣の子が話し掛けてきた。

 たった半年。短い付き合いになるけど、無難にやっていけたらいいな。


「ほあぁ……! あの、何か分からない事があったら何でも聞いて下さいね!」


「ありがとう。でも大丈夫、先生に聞くから」


 ちょっと冷たすぎるかな。

 だけど女の子と友達になると何かとトラブルになるから不用意に近付きたくないんだよな。

 名前を呼び合うような女の子の友達は今のとこベティくらいだ。

 あんな感じの子ならいいんだけど。


 わざと右腕で頬杖をつき背中を向けて、話し掛けないで下さいオーラを放ちながら窓の外に顔を向けた。

 一時限目はそうやって乗り切った。鐘が鳴り、休み時間になると色んな人が話し掛けてくる。


 ――皆、平民に興味津々だな。


 俺の素性は結構知られているみたいで、モーリスと言う男子生徒から力比べを挑まれてアームレスリングで秒殺したのを皮切りに十人連続で勝利を納めると何だか歓声が沸き起こった。

 こういうノリは庶民と変わらないみたいだ。ちょっと安心した。

 肩の力が抜けて、ふと笑みを浮かべる。すると視界の端で女子生徒がばたばたと倒れていった。

 ……女の子ってすぐ倒れるよね。野菜ばっかり食べてないで、肉も食べるんだよ。


 そんな失礼な事を考えていたら始業の鐘が鳴った。皆それぞれの席に戻っていく。次の授業は暗号の解読と作成だ。俺の好きな科目。大人しく授業を受けていたら、隣から腕をツンツンと突っつかれた。


 ……何?


 少し厄介そうな気配を感じるものの、さすがに無視は出来ないので顔を向ける。

 アンナ嬢は俺にノートを差し出してきた。

 ますます厄介そうな予感がする。こういう予感がした時は逃げるに限るんだけど――考えてみたら、学院ってここに座ってるのが仕事みたいなとこあるよな。


 逃げられないじゃん。

 うわー……。どうしよ。


 ちら、とノートを見ると“さっきのすごかった。本当に強いんだね”と書いてある。

 どう答えるのが正解なんだ? わからない。

 師匠……助けて下さい。


 未だ見ぬ想像上の師匠に相談するも、伝説の賢者でもこればかりは苦手なのか耳が遠いふりをしながらそそくさと洞窟の奥に引っ込んで行った。俺みたいな奴だな。俺だけど。

 こんな事になるなら、街でちゃんと修行を積んでおくべきだった。

 考える事すらせず逃げ続けたツケが今ここで回ってきてしまった。


 ノートはひとまず放置して、窓の外を眺める事にした。

 ぽかぽかと温かな光に、疲れた心が癒されていく。


 ああ、アリスに会いたい……。


 そうやってしばらく現実逃避しているうちに、少し眠気がやってきた。

 勉強漬けだった一ヶ月間にひとまずの区切りがついて、ちょっと気持ちが緩んでいるのかもしれない。

 とんとん、と再び腕を軽く叩かれて、何気なく振り向く。

 するとアンナ嬢が小声で(見て、臨時の先生だって。大人の女性って感じね。ハヤト君はああいう人どう思う?)と言ってきた。

 見なくても、俺にはアリスがいるし。

(大人だなって思うよ)とこの上なく適当な返事をしてまた外に顔を向けた。

 その時一瞬ちらっと臨時の先生が目に入る。

 なるほど。絵に描いたようなコテコテのセクシー女教師。

 好きか嫌いかで言えば好きかも知れな––


 えっ!?


 今一度振り返って先生を見てみる。赤毛の巻き髪に黒縁メガネ。

 いやいや、そんなもので誤魔化されはしない。

 どう見てもアリスだよね?

 何? どういう事?

 ––っていうかその眼鏡、大丈夫!? 魔道具じゃないよね!? まさかとは思うけど!


 じっと見ていたら、横に立っている男の先生が彼女の紹介を始めた。


「えー、彼女は我がクラーク家の遠縁の家のご夫人、エリー。二十歳だ。とある国から向学のためフォルトゥナ王国にやって来た」


 エリー。

 二十歳。

 口元に込み上げてくる笑いをそっと手で押さえる。

 なんだそれ……。

 アリスはその設定でいけると思ったのかな。多分無理だと思うよ……。


 追い討ちをかけるかのようにエリー夫人の自己紹介が始まる。


「エ、エリーです……。よろしくお願いしマース」


 もっと無理なの来た。何その変なカタコト。


 堪えきれなくて、両手で顔を覆って声を押し殺して笑った。

 ――どうしよう。学院での生活が楽しみになってきた。

 やっぱり俺、アリスのことが大好きだ。




「ハヤト君。お昼、どうするの?」


 午前最後の授業が終わって背伸びをしていると、隣の子が話し掛けてきた。


「どうって……適当に」


「じゃ一緒に食べない? 私ね、お弁当手作りしてるんだけど、今日はちょっと多すぎたかなって思ってたの。良かったら――」


 丁重にお断りしようと口を開きかけた時、背後から肩にポンと手が置かれた。


「ごめんね、アンナちゃん。この人、僕の義兄さんになる人なんだ。忙しくてまだちゃんとしたご挨拶ができてなかったから、今ちょっと借りて行ってもいいかな」

 振り向くと金髪に青い瞳、そして童顔が特徴的な男子がいた。

 ルークだ。

 つい先日、叙爵の時に初めて顔を合わせたアリスの義弟。

 少しアリスに似ている雰囲気がある。アキュリス様より義弟君の方が似てるってどういう事なんだろう。性格の問題かな。


「はわわ……! る、ルークくん!? 分かりました!」


 アンナ嬢は頬を赤くして慌てた様子で身を引き、その隙間にルーク君が身体を割り込ませてくる。


「ありがとう。じゃ、行きましょうか。義兄さん」


 にこっと笑い掛けてくる義弟(仮)。

 以前アリスが彼の奇行を心配していた事をふっと思い出し、警戒心が少し働いたけど気を取り直して立ち上がる。


「はい。お誘いありがとうございます。……えーっと」


「僕のことはルークと呼んで下さって構いませんよ。ハヤト義兄さん?」


「なんか変な感じですね」


「すぐに慣れますよ」


 連れ立って教室を出て、ルークの案内で昼食用のホールへと足を向ける。

 廊下にいる女の子達はきゃあきゃあ言いながら道を開けてくれて、彼はその真ん中を涼しい顔で歩いていた。

 この場慣れ感というか風格というか、さすがはアリスの義弟だ。

 とても蝶の真似をして遊んでいるような人には見えない。


「――誘惑が多そうですね、義兄さん」


「誘惑?」


「はい。さっきも困っていたでしょう? アンナちゃんは可愛いけどちょっと変わった子なんですよね。学院に手作りのお弁当を持ってくるのなんて今は彼女くらいですよ。去年はマリア先輩もいましたけど」


 思わず吹き出しそうになった。

 マリア先輩って、あの子だよね。町で殿下と一緒にいたピンクの髪の。

 まさか今このタイミングであの子の名前が出てくると思わなかった。びっくりした。


「お弁当も悪くは無いのですが、学院には専属のシェフとちゃんとしたランチルームがありますからね。はい、こちらですよ」


 彼はそう言って扉を開けてくれた。

 そこは大きな窓の向こうに木の緑が見える、カフェテリアのような雰囲気のランチルームだった。

 ルークは人混みの中に躊躇いなく進んで行き、生徒達も慣れた様子でスッと横に退いていく。

 彼はここで準王族のような扱いを受けているように見える。

 まぁ、公爵家の人間だから準王族で間違ってないんだろうけど。

 それにしても貴族子女しかいない学院においてすらこの扱い。やはりアリスの家は特別なのだと改めて意識する。


「あそこに座りましょうか。僕がいつも友人と使っている席なので空いてますよ」


 窓際のひときわ眺めの良いテーブルだ。

 いまさらだけど、彼はどうして俺を誘いに来たのだろうか。


「今日は俺と一緒でいいんですか」


「はい。彼女達とはいつでもご一緒出来るので。……今日は義兄さんと話してみたかったんです。どうぞ、掛けて下さい」


 俺達は向かい合って座り、ルークはメイドさんに“僕のおすすめ”とやらをオーダーした。

 そういえばそうだった。アリスの家族でまともに話したことがないのは彼だけだった。

 彼からしてみれば自分の知らない間に色々決められていて不安なのかもしれない。

 この機会に相互理解を深めなければ。

 ……でもちょっと気になった言葉がある。


「……彼女達?」


「はい。みんな明るくていい子達なんですよ。かわいいし」


「それって、どういうご関係で……?」


「別にやましい関係では無いですよ。お茶をご一緒したり、休日に劇場や演奏会など、様々なところに出掛けたりするだけです」


「そうですか……」


 アリスに少し似た顔から飛び出す軽い言動にどこか衝撃を感じながら頷く。

 そのくらいの付き合いなら他人がとやかく言うものでは無いんだろうけど、それって俺には理解できない世界だ。

 いつどんなきっかけで出火するか分からない怖さがある。

 とても真似できないし、しようとも思わない。

 俺の微妙な反応に彼は弁明めいた言葉を重ねた。


「下手なことを口にしなければ案外大丈夫なんですよ。誰か一人を特別扱いしないとか、生まれついての特徴には触れずに本人がした努力に対してだけ大げさなくらい褒めるとか、色々コツはありますけど」


 ……彼はいったい何を目指しているんだ?

 反応に困ってただじっと見つめると苦笑いで返された。


「友人相手には気を持たせないのが大事ってことを言いたいんですよ、義兄さん。アンナちゃんに何か言ったんじゃないですか? ずいぶんグイグイ来られてたみたいですけど」


「まさか。挨拶程度に一言二言話しただけですよ」


「ふぅん……? それで、上手くあしらえなくて困ってたんですか? そんな事でよく今までやって来ましたね。大丈夫なんです?」


 ズケズケ言うなぁ……。

 でも、これこそが義姉の婚約者に対する不安の現れなんだよな。

 ちゃんと真摯に話さなくちゃな。


「……今までは気配を消して逃げて終わりにしていました。でも、この学院内だとそれは通用しないんですよね。トラブルにならないよう、上手くやり過ごせるようになりたいと思っていますよ」


「そうですね。僕からもお願いしたいところです。もしも困った事になったら僕のところに来て下さいね。こう見えても学院内では発言力はある方なので、大体の事は解決の手助けが出来るかと。……義姉さまに僕が出来る贖罪なんて、もうそのくらいしかないから」


「贖罪?」


「ええ。反抗心を拗らせてしまった事があって。事実かどうかろくに確かめもせずに身分の低いご令嬢を苛めたと決め付けて、責め立てた事があるんです。義姉には悪いことをしてしまいました。……義姉の名前に傷が付いてしまったのは、僕にも責任がある事なんですよ」


「……責任、ですか」


 アリス本人からはざっくりとした話でしか聞いてないから、俺にはその辺りの事情は分からない。

 でもあのアリスが苛めをするなんて思えないな。何か行き違いがあったんだろうな。


「だからね、もう二度と、義姉に婚約破棄なんて経験をさせたくないんですよね。……義兄さん。くれぐれも、義姉を頼みましたよ」


 ルークはそう言うと少し寂しそうに笑った。

 家族が別の人の家族になる。その寂しさは、俺にも分かる。

 今まで意識せずに来れたのはアリスがいてくれたからで。そういった存在をまだ持たずにいる彼は、色々な女の子と遊ぶことで寂しさを紛らわせているのかもしれないと思った。

 だけど――。


「心配しなくても大丈夫ですよ。絶対に婚約破棄なんて事にはなりません。彼女の事は俺に任せて下さい」


 俺に出来るのは、それだけだ。


「はい。……義姉さんの目がないのをいいことに学院で悪さをしていないか、僕がいつも監視してますからね。何かあったら告げ口しますよ」


 フフッと笑って脚を組むルーク。

 ……あれっ? 義姉が学院に来てるって、ご存じでない?


「えーっと、ルーク君?」


「はい? なんでしょう」


 これ、言っていいのかな。

 少し迷いながらテーブルに身を乗り出し顔を近付ける。

 すると、内緒の話だと察した彼も前傾して耳を近付けてきた。


「エリー先生にはもう会いましたか?」


 小声でそう耳打ちしたのだけど、あちこちから女子の悲鳴のような声が上がってきて聞こえたかどうか分からなかった。

 そのままの姿勢で少し観察していると、彼の耳が少し赤くなっている事に気付いた。

 ――何故!? 


 彼は赤面したまま俯き、めちゃくちゃ小声で何か言った。

 でも周囲の悲鳴が被ってよく聞こえなかった。


「ごめん、もう一回言って?」


 つい言葉遣いが崩れる。妻(予定)の家族だから丁寧に接しようと思っていたのに。何だかアリスに雰囲気が似ているせいか妙に親近感があって、つい。

 ルークは首を横に振ってこう言った。


「その件については、これ以上は勘弁してください……。色々とね、まだちょっと気持ちの整理がついていないところがあるんです」


 ……そっか。

 そうだよな。義姉が外国人教師のふりして変なカタコトを喋りながら登場して来たらそうなるよな。

 俺は平気だけど。

 あまり触れないでおいてあげよう……。


 頷いてお互いに姿勢を直し、運ばれてきたルークのおすすめランチに手を付ける。

 それからはエリー先生の話は封印して、彼流の女の子の扱い方を聞かせて貰いながら食事をした。

 こんな遊び慣れた風の彼でも義姉の扱い方には困っているんだな、と思うとちょっとおかしかった。


 遊び人ではあるけどピュアなところもある、それが俺がルークに抱いた印象。

 別に変な人じゃなかった。むしろ普通だ。

 こんな風にいっけん普通にしか見えない人でも、蝶になったりとか変な趣味を持っているものなんだろうか。


 人間って奥深いな。もしかしたら普通の人なんてものは幻想で、そんな人はどこにも存在しないのかもしれない。

 いや、そんなのはよく考えたら当たり前の話だ。皆、それぞれ個性を持っているもんな。

 あんまり個性が強いとみんなが困るから、上手く生きるために普段は隠しているだけなんだ。きっと。


 そんな新たな人生の気付きを得て、この実りあるランチタイムを終えた。


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