第37話 【出会い】
万九郎が住んでいる家から北西の方に少し行くと、セメントのような材質の波止場が海に伸びています。
その一番先は、少し高く平らな立方体になっており、その上に、赤い灯台が立っています。
万九郎は今、その灯台の下で、釣りをしています。
もう11月末になっており、風は冷たいですが、海は凪いでいます。
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もう3時間ほど、黙々と浮きを見ていますが、今日は1匹の釣果もありません。
1人でいると、色々と思い出しそうなものですが、浮きを見つめていると、不思議と無心というか、何も考えずにいられます。
「ダメだな。そろそろ帰るか」
万九郎が、呟きました。
そして立ち上がり、リールで釣り糸を巻いて、帰る準備をしています。
「ふぅ」
釣り竿と魚籠(ビク)だけを持って、万九郎は振り返りました。
「こんにちは」
「え?」
「はじめまして」
「ああ、はじめまして」
そう言いながら、万九郎は驚嘆していました。
万九郎の周りには、佳菜を始め、美人が多いです。
ですが、目の前の女性は、彼女らの誰よりも美しいのです。
大きな目。透き通って、輝いている瞳。
白いけど北欧系の、日本なら秋田美人のような、暖かい赤みを含んでいる肌。
両頬から急に収束して、それでいて、柔らかい丸みのある顎。
身長は、女性にしては高く、たぶん168cm。
上半身は、厚みと柔らかさがあり、腰で締まっている、白いジャンパー。
下半身は、濃紺のタイトジーンズが、ボリュームのある臀部から太もも、ふくらはぎ、そして足首までを包んでいます。
靴は、艶がなく締まりがある、黒の紐靴。
そして、声にも、心の中まで響くような、透明感があります。
何から何まで完璧で、否の打ちようが、ありません。
「たぶん、初対面だと思うが、俺は万(ヨロズ)万九郎だ」
「知ってるわ。私は、那岐野 亜州香(ナギノアスカ)よ」
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「万九郎。あなたに会えて、本当に、良かった。やっと会えて、本当に、嬉しい」
「あ、おう」
「月にいた頃から、やがて、最後には、あなたが地球に生まれてくるのを、知ってた。26億年前から、ずっと、ずっと、会えるのを待ってた」
風が、11月末にしては冷たい、それでいて、とても澄んだ風が、手に冷たいです。
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「君は、この辺に住んでいるのかい?」
「いいえ。佐世保の、あなたの家の近くの一軒家よ」
「ここには、車で来たのかい?」
「家に車はあるけど、今日は単身」
「単身?」
「万九郎も使うでしょ。テレポートよ」
「ほう、凄いな」
「ええ。今なら私の方が、万九郎より強いわ」
万九郎は、予想外の返事に、返す言葉が、見つかりません。
「ここは、寒いわね。あなたが今、住んでる家に、早く行きましょう。
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