第32話【教官】

万九郎は、関東の国立大学の教官を、引き受けることになりました。

同大学の利根川舜学長から、熱心な誘いを受けたからです。


「俺は、この大学の第3学群情報学類の院を修了して、情報工学のマスターを取得したんだよなあ」


今回、万九郎が教官を引き受けるのは、第2学群生物学類です。


「まぁ、魔物とか物の怪について、日本一詳しいだろうから、やってくれって話だったし」


万九郎は、それも面白そうだと、考えています。


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筑波には、教官用の宿舎もありますが、万九郎は、断りました。


「学生時代に1年間、平砂学生宿舎を使ったけど、正直、最低だった」


そんなわけで、不動産会社をいくつか回るまでもなく、1社目で決まった。


アパートの名前は、「シティハイム・エコー」。


2人用のアパートだが、とにかく古い。築50年は経っている。


不動産屋の女性社員も、「社会人の方に、お薦めはできない」と、口頭で言ったぐらいだ。


よって、賃貸費は月1万2000円に決まった。


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生物学類ということで、学生の大部分は、男子学生です。


でも、一部の女子学生は、なぜが例外なく優秀で、美人で可愛いのです。


そんなわけで、この境遇をとても喜んでいた万九郎なのです。


特に、佐世保の西高等学校出身の、坂口滋子さんは、万九郎の大ファン。


「教官、教官」、「この詳しい仕組みを、教えてください」、「物の怪と魔物って、どう違うのですか?」などなど。

万九郎の学系棟の研究室だけでなく、万九郎のアパートにまで、お仕掛けてくる始末。


「いや、さすがに教官のアパートに直接、来るのは、おかしいと思うんだが?」


「そんなこと、ありません。私、教官のこと、好きになりました。だから・・」


この会話の後、万九郎は坂口さんと一緒に、学系棟の学部長室を訪れました。


というより、坂口さんが強引に、万九郎を学部長室まで引っ張って行ったのです。


「いや。こんなのダメですよね?」


「いや、構わんだろ。キミには信頼があるから」


村松学部長によれば、万九郎は日本だけでなく、世界的にヨロズ請負人として、非常に高い評価を受けており、そんな万九郎なら間違いはないから」という理由とのこと。


「俺って、アメリカで2年弱、厳しい傭兵訓練受けた程度なのに」


ですが、このことが縁になり、次はフランスのパリ大学に、教官として招かれることになるとは、まだ万九郎は、知らないのです。


ちなみに坂口さんは、おでこが広くて、髪の毛は直毛。顔は全体的に、ゆで卵型で。顎がスッと締まっています。髪型は、オカッパ型に近いのですが、もっと柔らかくて、顔全体には彫刻像のような締まりがあります。

あと、女の子なのに、あまり喋りません。


とにかく、めっちゃ可愛いのです。



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国立科学博物館 筑波実験植物園。



生物学類ではありますが、坂口さんは植物、特に珍しいものや、絶滅危惧種に、大変興味を持っています。


万九郎も、そんな平和な状況は、願ったり叶ったりなので、ほとんど毎日、実験植物園に通っていました。


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国立科学博物館 筑波実験植物園


国立科学博物館 筑波実験植物園(こくりつかがくはくぶつかん つくばじっけんしょくぶつえん)は、日本茨城県つくば市天久保四丁目1番地1にある植物の研究機関である。通称、つくば植物園[1]。敷地面積14ヘクタール。


概要[編集]

筑波研究学園都市内、筑波大学に近接した地に設置されている実験植物園である。日本国立科学博物館の1研究部門として、日本の先駆的な植物の研究を行う研究機関の1つであり、一般向けの教育を提供する機関でもある。1976年(昭和51年)5月に設置、1983年(昭和58年)10月開園。近年は約5,000種の日本国内外の植物を温帯地域から熱帯地域に至るまで世界中から集めており、特に中日本の維管束植物、東アジアのシダ、ソテツ、サトイモ類、南アメリカのラン科植物を重点的に収集している。

屋外の植生区画は以下の9つがある。

1. 常緑広葉樹林区画

2. 温帯性針葉樹林区画

3. 暖温帯落葉広葉樹林区画

4. 冷温帯落葉広葉樹林区画

5. 低木林(低地性・高地性)区画

6. 砂礫地植物(山地性・海岸性)区画

7. 山地草原(低地性・高地性)区画

8. 岩礫地植物(山地性・海岸性)区画

9. 水生植物区画

また、3つの温室を有する。

1. サバンナ温室

半乾燥のサバンナ地域であるアメリカ大陸、アフリカ大陸、オーストラリアの熱帯及び亜熱帯性植物。

2. 熱帯雨林温室(約24メートル)

2つの部屋からなり、アジア・太平洋地域の低地林と山地林がある。山地林の部屋では東南アジアのブナ科、ツツジ科、ラン科のような多様な植物を保護する。

3. 水生植物温室(約550平方メートル:高さ17.5メートル)

有用な熱帯植物を育てる。

2007年(平成19年)より同園では植物分類学分野の8人の研究者を支援している。彼らは染色体の数と形状を決定する細胞分類学、DNAシークエンシングに基づく分子生物学、二次代謝物質を使った化学分類学、派生システムと土壌学に基づく植物形態学の研究を行っている


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本園は生きた生物をあつかう組織として、植物の多様性を明らかにする研究を行っています。同時に、展示・セミナー・学習支援活動や絶滅危惧植物の収集保全を通じて、生物多様性の重要性を社会に発信しています。

 園内14ヘクタールの敷地には、7000種類以上の多種多様な野生植物を植栽し、うち3000種あまりを屋外と温室で常設展示しています。屋外には、常緑広葉樹・針葉樹・落葉樹の森林区から山地草原・岩礫・砂礫・水生区まで、日本の代表的な植生を再現した9つの区画があります。温室には、熱帯や半乾燥地帯を模倣したサバンナ・熱帯資源植物・熱帯雨林・熱帯水生の4つがあり、日本では見られない植物を間近で見て楽しめます。

 1年を通じて、「絶滅危惧植物展」や「ラン展」などの企画展、研究の最前線を紹介するセミナーなど、植物の魅力あふれるさまざまなイベントがあります。四季折々の見所や植物を紹介する「みごろの植物」パンフレットは毎週更新しています。

(イベント詳細 http://www.tbg.kahaku.go.jp/ )


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【世界の生態区】


生態区は冷温帯から熱帯までの植生がみられます。屋外は日本の暖温帯から冷温帯までの植生で、4つの森林区、低木林、山地草原、砂礫地、岩礫地、水生植物の計9区画と、熱帯雨林、サバンナ、水生の3温室、およびその周辺に関連する外国の温帯植生が見られます。

· 【屋外】

· 常緑広葉樹林区画

· 温帯性針葉樹林区画

· 暖温帯落葉広葉樹林区画

· 冷温帯落葉広葉樹林区画

· 低木林(高地性)区画

· 砂礫地植物(山地性・海岸性)区画

· 山地草原(低地性・高原性)区画

· 岩礫地植物(山地性・海岸性)区画

· 水生植物区画


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筑波実験植物園の研究--多様性を知る

現在の地球上には花の咲く植物、すなわち被子植物だけでも30万種を越えるといわれている植物が生育しています。人生たかだか100年に満たない人類にとって、植物は変化していないように見えますが、植物は40億年前に地球上に誕生して以来、長い年月をかけて生まれ、今でも多様化し続けています。この植物の多様性は,水や光,土壌などが異なる各種環境によって、そして植物同士ばかりでなく、菌類や動物など、他の生物との共生、寄生、捕食などの関わり合いによって生まれたものです。この植物の多様性を研究するためには、生きた植物そのものを材料とすることが最も重要です。

筑波実験植物園では、主にシダ植物と顕花植物の、約7千種の生きた植物を植栽管理しながら、絶滅危惧植物を中心とした植物の収集・保全を行っており、それらを材料として、基本的に生きた植物を研究しなければわからないような、適応形態、遺伝子、染色体、二次代謝産物などを解析し、植物の多様化や他の生物との関わり合いを研究しています。また、一般公開も行っており、約3千種の植物を園内で観察することができます。


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生物多様性とは何か

地球上の「生命の豊かさ」を表しています。

地球上における30数億年の生物の進化の歴史を通じて生まれてきた、今もなお全貌を知ることのできない膨大な数の生物種、個々の種が持つ遺伝子、様々な種が様々な環境のもとに作り上げる生態系を包含した、地球を地球たらしめる唯一無二の財産です。

生物多様性円グラフ

現在地球上には、知られているだけでも約174万種の生物が生息・生育しており、ヒトもその1種です。私たちが知らない生物はそれよりはるかに多く、10倍から100倍の種が存在するといわれています。それぞれの種は、かたちや性質ばかりか生育環境もさまざまです。生物多様性は、生命が誕生してから40億年もの長い間、絶滅が起こりながらも新しい種をつくりつづけた結果なのです。


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植物園が目指すもの

この地球上には数えきれないくらいの植物が生えています。美しい花も、野菜も、巨木も、水中の微細な藻類も、動物と同様、長い進化の歴史の中で生まれました。あらゆる生物が生物の多様性の中に身をおき、他の生物の存在なしに生きることはできません。とりわけ人類は、他の生物よりもはるかに多くの植物の恩恵を蒙っています。人類が将来も生き続けるために、筑波実験植物園は植物の多様性を知る・守る・伝えることを使命としています。

1. 多様性を「知る」

植物の多様性がどのように生まれ、維持されているのかを明らかにするため、個々の植物が生まれた歴史を探り、その実体を明らかにする研究を行っています。


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多様性を「守る」

多様性は現在急速に失われつつあります。私たちの豊かな将来のためにも、多様性は守らなくてはなりません。植物園では多様性消失の象徴ともいえる絶滅危惧植物の保全に特に力を注いでいます。


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坂口さんは、特に植物多様性について関心がありました。


「いえ。ありとあらゆる植物が、平等に栄えてほしい、とかじゃないんです」


坂口さんによれば、滅ぶ植物はそのような運命なのだから、放っておくべきだと。


「厳しい環境に生きる植物についても、同じです」

「セイタカアワダチソウみたいに、無駄に大繁殖している植物も、この世界によって、そうなる運命に置かれているんです」


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万九郎は、植物については、栄養素が高いかどうか、毒草の見分け方ぐらいしか、知りません。

薬草なるものは、中世幻想ファンタジーの幻想です。その辺の薬屋さんで売っている、特許切れの薬品でも、比べ物にならないくらいの薬効があります。


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夏休みになった。

俺が学生の頃は、コンビニと割烹、それにスナックでバイトしていたが、正直、儲けが良くない。

坂口さんは、極めて優秀なので、学部長に頼んで、俺の助手として働くことを許可してもらった。


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「魔女?女の子は普通、魔法使いが好きだろ」

「いえ。魔導士(Wizard)になりたいのですが、まだ未熟ですので」


真面目です。万九郎は、坂口さんのことを、ますます好きになりました。

万九郎には、日本中からヨロズ請負人としての引き合いがあります。

坂口さんは、魔導だけでなく、運動神経もバツグンだったので、色々と役立ってもらいました。

おかげで、坂口さんの常陽銀行の口座残高は、相当額になったのです。


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「自動車の免許は、今は取らないでいい?」


「来年に、松浦佳菜様の治めておられる土地に行けば、もっと簡単に取れるし、ほかにも色々。面白いことがある」


「松浦佳菜様の治めておられる土地、ですか?佐世保出身ですけど、佐世保以外は博多と、天神にしか興味なかったから、嬉しいです」


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というわけで、あっさり1年が経過し、俺たちは、松浦佳菜の領地に行くことになったのだ。

万九郎は、筑波に住むのに、三菱パジェロを持ってきていました。


万九郎自身は、割りと相当な額を稼ぐようになっているのですが、ベアトリーチェが管理していますので、小遣い程度しか貰えません。


飛行機とか新幹線とか、今回みたいな、遊びみたいな旅行と滞在には、万九郎は使えないんです。


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「というわけで、三菱パジェロで高速道路をひた走って、松浦家の所領に行くことにした」


「私、高速道路って使ったこと、たぶん無いです。だから嬉しいです」


全くもって、可愛すぎる。


もちろん、万九郎には、坂口さんと個人的に(a.k.a. 性的に)親しくなる意図はありません。


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この話は、この物語史上最大のバイト数を記録しており、これから先も書くことがたくさんあるので、高速道の詳細は省略します。


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そんなわけで、万九郎たちは今。松浦家本邸の屋敷で、松浦佳菜と面談しています。


「いや。俺も佐世保に自宅あるから、自宅から通うべきだとは思うんだが、松浦家所領の秘密の部分を利用させてもらうから、いちいち通ってちゃ融通が悪すぎる」


「分かったわ。浦ノ崎に腕のいい大工の棟梁さんがいたんだけど、本人も奥さんも認知症で、ケアハウス住まいなのよ。そこに住むのがいいわ」


あっさりと、決まった。


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家は、赤い灯台のある浦ノ崎波止場の近くで、すぐ横は入江になっており、遠くには岬も見えます。

入江は、カラスは言うまでもなく、トンビ、ウミネコまでテリトリーにしており、海の生き物が無数と言っていいほどに、住んでいます。


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「2階のこの部屋を、俺の寝室。隣の洋間は、ちょうどPCとPC机があるから、俺の作業室にするよ」


「ここのお父さんとお母さんが使っていたベッドが2台あるんだし、そこで寝れば?」


「こっちでいい」


そこは、この家の先祖の位牌がある畳部屋だった。


そこに、布団を敷いて。寝るそうだ。


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浦ノ崎から国道204号を通って、県境を越えた先に、宮地嶽神社という、江戸時代から再建されていない古い神社があります。


その近くの、丘のような高台になっているところに、松浦家の浦ノ崎別邸があります。


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「向こうの山の頂上付近に、山の寺という松浦党の元寇以前の中心地があるわ。その縁で、ここに別邸を建ててるのよ」


佳菜が、言いました。


平屋建ての豪邸ですが、見た目は空間魔法で、粗末に見えるようになってるそうです。


この邸宅には、ほぼ毎日通っています。


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この邸宅には、メイドさんたちが、たくさんいます。


普段は、下が赤、上は白の巫女服を着ており、みんなにも「巫女さん」と、呼ばれています。


彼女らは、例外なく可愛い美少女なのですが、なんと人間ではないそうです。


松浦家の今の当主である静(シズカ)様と、その一代前の狂子(キョウコ)様のどちらかが、山や海や空から精霊の種を抽出し、魔力を十分に与えて、普通の美少女になっています。


狂子様は、皆に「お館様」と、呼ばれています。


名前も「風」、「空」、「海」、「草」など簡潔なものばかりですが、彼女らは、佐世保を含む平戸、松浦、伊万里、東松浦、唐津のインフラの建設と維持に、不可欠な役目を果たしています。


巫女さんたちは、名前の先頭に「お」を付けて、呼ばれています。

「お風さん」、「お空さん」、「お海さん」、「お草さん」と、言うふうにです。


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この地域全体は、明治時代初頭に現実世界から乖離され、独自の世界として成り立っています。


現在の同じ地域では、海は汚染され、アサリ、エビ、カニ、トビウオ、カブトガニどころか、フナムシさえ存在していません。


1960年代後半から70年代前半にかけて、海棲生物の大絶滅が発生しました。


原因は、農薬とも考えられていますが、あまりの撃滅に、何らかの力を感じている人も、普通にいます。


ですが。こちら側の世界では、江戸時代以前からの豊かな海が存在しているので、別に誰も気にしません。


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浦ノ崎の家に住むようになった1日目、北側の海が妙に騒がしいので、万九郎は坂口さんと一緒に出掛けてみました。


そこは小規模な波止場になっており、船が10隻以上、停泊していました。

最近流行りのクルーザーは1隻もありません。

すべて、日本古来の漁船でした。


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「あれ、ここの材質は、どうなってるんだ?」


万九郎は、ハードウェアについては、あまり詳しくありません。


波止場は一見すると、セメント製に見えるのですが、どうも違うようです。


「ここは、こちらの土と道が、作ったものです」


そこにいたのは、浦ノ崎別邸の巫女さん2人でした。


「セメント自体は、海の汚染に影響しませんが、お館様と静様が、アスファルトなど一部の工業製品を、あまりお好きではないのです」


「ああ。分かる気がする」


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ところで、騒動です。


漁船が2隻、漁から帰ってきたようですが、どうやら、かなりの大漁だった模様。


1隻の船に4人の漁師たちが乗っています。


船の中央付近に、釣った魚を生きたまま保つ、海水が入る中サイズの生け簀があり、その中に魚介類が、山のようにいます。


「今日は、珍しく網を使ったんですね」


お海さんが言いました。なんでも、あまり大漁に収穫する仕組みは、お館様と静様が好きではない、というのが、理由のようです。


「今日は、浦ノ崎別邸に夕飯にいらっしゃい」


お道さんが、言ってくれました。


万九郎は、料理はベアトリーチェ任せで、普段はスーパーとかコンビニで買ったものか、生協から取り寄せたものを食べています。


坂口さんは、いずれは料理が上手になるでしょうが、まだ大学2年生です。


茨城には海はありますが、筑波のような内陸では、碌なものは期待できません。


とにかく、万九郎は嬉しくなりました。


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漁師の1人が、海の方を見て、驚いています。


「おい。あれサメ。しかもホオジロザメだろ?」


確かに、目立つ背びれが。海の上にハッキリと見えます。


しかも、この防波堤の方に、確実に近づいています。


スッ


海さんが、サメの真上の空中に浮いています。


海さんが、右手を素早く動かしました。


サメは、沖の方に、遠ざかって行きました。


「少し危険だからって、無闇に殺すのは、良くないことです」


万九郎の近くに戻っていた海さんが、そう言いました。


「確かに、その通りだな」


万九郎も、同意しました。


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浦ノ崎の家に住むようになった1日目、北側の海が妙に騒がしいので、万九郎は坂口さんと一緒に出掛けてみました。


そこは小規模な波止場になっており、船が10隻以上、停泊していました。

最近流行りのクルーザーは1隻もありません。

すべて、日本古来の漁船でした。


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「あれ、ここの材質は、どうなってるんだ?」


万九郎は、ハードウェアについては、あまり詳しくありません。


波止場は一見すると、セメント製に見えるのですが、どうも違うようです。


「ここは、こちらの土と道が、作ったものです」


そこにいたのは、浦ノ崎別邸の巫女さん2人でした。


「セメント自体は、海の汚染に影響しませんが、お館様と静様が、アスファルトなど一部の工業製品を、あまりお好きではないのです」


「ああ。分かる気がする」


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ところで、騒動です。


漁船が2隻、漁から帰ってきたようですが、どうやら、かなりの大漁だった模様。


1隻の船に4人の漁師たちが乗っています。


船の中央付近に、釣った魚を生きたまま保つ、海水が入る中サイズの埋め込み部屋があり、その中に魚介類が、山のようにいます。


「今日は、珍しく網を使ったんですね」


お海さんが言いました。なんでも、あまり大漁に収穫する仕組みは、お館様と静様が好きではない、というのが、理由のようです。


「今日は、浦ノ崎別邸に夕飯にいらっしゃい」


お道さんが、言ってくれました。


万九郎は、料理はベアトリーチェ任せで、普段はスーパーとかコンビニで買ったものか、生協から取り寄せたものを食べています。


坂口さんは、いずれは料理が上手になるでしょうが、まだ大学2年生です。


茨城には海はありますが、筑波のような内陸では、碌なものは期待できません。


とにかく、万九郎は嬉しくなりました。


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漁師の1人が、海の方を見て、驚いています。


「おい。あれサメ。しかもホオジロザメだろ?」


確かに、目立つ背びれが。海の上にハッキリと見えます。


しかも、この防波堤の方に、確実に近づいています。


スッ


お海さんが、サメの真上の空中に浮いています。


お海さんが、右手を素早く動かしました。


サメは、沖の方に、遠ざかって行きました。


「少し危険だからって、無闇に殺すのは、良くないことです」


万九郎の近くに戻っていたお海さんが、そう言いました。


「確かに、その通りだな」


万九郎も、同意しました。


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お道さんが、漁師たちから魚やエビなどを直接、生きたまま買っています。


入れ物は、ただの籠なのですが、松浦家別邸までの距離が近いので、別邸で調理が始まるまで、魚たちは活きています。


海の近くでは、昔はこれが、当然だったのです。


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万九郎と坂口さんは、お道さんたちと一緒に、松浦家別邸まで行きました。


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「万九郎と、そちらは坂口滋子さんだったわね。初めまして」


佳菜が、いました。


「はい。坂口です」


いつものように、簡潔に返事する坂口さん。


「うむ。おぬしが、万九郎か」


食事の場には。もう1人いたのです。


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それは女性でした。しかも、佳菜にそっくりです。


「私は、佳菜の祖母、今の松浦家当主、静の母、松浦狂子じゃ」


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【ロリババア】

From ロリ (rori) + ばばあ (babā).

Pronunciation[edit]

IPA(key): [ɾo̞ɾʲiba̠ba̠ː]

Noun[edit]

ロリババア or ロリばばあ • (roribabā)

1. (slang, fiction) old woman (or supernaturally aged female being) with the body of a loli


Google翻訳によると、「ロリ体型の幼女」。


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「佳菜様の、お祖母様?」


「佳菜のバアさんで、良い」


「分かりました」


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万九郎は、暇なときには、アニメを見ます。


常々不思議に思っていた。


「幼女のババアとか、どこに需要があるのだろう?」


眼の前のババアは、幼女どころか、成人をとっくに過ぎた佳菜と、そっくりなのです。


「歳は、俺より1つ上の28歳だったな」


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巫女さんたちが、料理を運んできました。


どれも簡素に見えますが、美味しいことを、万九郎は知っています。


まだ、この物語では話していませんが、4年前に佐世保に近い五島に、大型台風がやって来たときに、万九郎は、島の防衛に参加しました。


自衛隊を中心に台風を退けた翌日の夕方、さっそく漁に出た島の人達から、とても美味しい魚を頂いたことがあるのです。

もちろん、自衛隊の方々や、ほかの防衛隊の人達も一緒です。


それ以外にも、知り合いの人たちと、夜釣りに出掛けたり、自分で釣りをすることもあります。


だから、今回の松浦家別邸での歓迎が、いかに素晴らしいものかが、分かったのです。


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食事が終わった頃、狂子様が言われました。


「万九郎、おぬし、佳菜と手合わせをして。見せてみよ」


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連れて行かれた場所は、屋敷の裏庭でした。


しかし、とても、とても広い裏庭でした。


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「どうやってるのか知らないが、凄いな」


万九郎は、そう思いました。


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この場所にいるのは、狂子様、佳菜、万九郎、坂口さんの4人のみ。



佳菜の獲物は、薙刀。


万九郎は、日本刀を一ふり。

すでに鞘から抜き、右手で柄を握っています。


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佳菜は、巫女衣装を着ています。

ただ、たすき掛けで、両肩の付け根を縛っています。


万九郎は、上半身は、袖のない黒いシャツ。

下半身は、ミリタリー仕様の、裾が緩やかに締まるタイプのロングパンツ。

靴は、いわゆる運動靴に似ていますが、いかにも丈夫そうです。



「用意は、できておるな。始めい!」


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万九郎は、驚愕していました。


幼なじみとして、文武に格別に優れていることを知っていましたが、当時と比べ、格段に技も速さも進歩しています。


さらに、魔導の腕でも、万九郎がとても優れていると評価している、坂口さんよりも、確実に上です。


もちろん、万九郎が劣るわけはありませんが、拮抗しているかに見える闘いが、5分ほど続きました。


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「凄い!2人とも、何時間闘っているのです!?」


「ほんの5分ほどじゃ」


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徐々に、両者の差が、明らかになってきました。


万九郎は、魔導を最小限に使っています。


佳菜もそれに合わせて、薙刀と体術中心で闘っています。


佳菜が、万九郎の技を受けきれず、体制を崩す場面が、増えてきました。


そして


万九郎の魔力強化した一撃に、佳菜は吹っ飛んでしまいました。


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「決まったのう」



異変が起こったのは、その直後でした。


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佳菜の姿が、いえ装備が、一変しています。


佳菜は、プレートアーマーを、首以下の全身に纏(マト)って、万九郎に向かって、立っていました。


胸部が前に膨らんでいる以外は、恐ろしく精緻な西洋鎧です。


しかも、恐怖を感じるほどの白い、金。プラチナのように、全身が輝いています。


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「チタン合金じゃな。いかに万九郎でも、あれを貫くのは無理じゃ」



【ミスリル】


出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

この項目では、架空の金属であるミスリルについて説明しています。その他の用法については「ミスリル (曖昧さ回避)」をご覧ください。

ミスリル(mithril)は、J・R・R・トールキンの作品世界中つ国に登場する金属。銀の輝きと鋼をしのぐ強さを持ち、非常に貴重なものとされる。『指輪物語』では、「ミスリルの産地はモリアのみ」とされているが、『終わらざりし物語』では、「ヌーメノールでも産した」とされる。

「ミスリル」の名は二つのシンダール語(架空の言語)の単語、「灰色の」を意味する「ミス」(mith)と、「輝き」を意味する「リル」(ril)からなる。クウェンヤ名はミスタリレ(mistarille)。またまことの銀(true-silver)、モリア銀とも呼ばれる。ドワーフもかれらだけの秘密の名前でこの金属を呼称した。

つまり、ミスリルなんて金属は、ありません。


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佳菜の得物は、両刀剣。

西洋剣術で発達した、いわゆるソード(Sord)です。


佳菜は、それを片手で持っています。

刀身はしっかりしており、フェンシングのレイピアほど細くはありません。



両者の闘いが、再開されました。


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闘いは3分ほど続き、佳菜のプレートアーマーが消滅したときに、終了しました。



「両者。良い闘いじゃった。今宵は、良く食い、眠るが良い」


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夕食の後、万九郎は、温泉に入っていました。

ほど良く広い、温泉です。


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誰かが、温泉に入る前に、身体を洗っています。

若い女性、2人のようです。


「まぁ、うちの風呂じゃないんだから、ほかに来る人もいるだろう」


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女性たちが、温泉に入ってきました。


「綺麗な、風景よね」


「うん。さっきから、ずっと見てた」


「万九郎」


「うん?」


「だから私は、あなたが好きなのよ」


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翌日は、坂口さんを、松浦領にある自動車講習所に連れて行くつもりでした。


「今日は、ぎぎが浜に行くわよ」


という佳菜の一言で、変更になりました。


「各自、ダイナミックでストロングな水着を、用意して」


そんなこと言われても、万九郎としては、ビキニパンツは断固、お断りです。


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万九郎と佳菜、そして坂口さんが、水着の入った小さいバッグを持って、歩いています。


道は舗装されていませんが、しっかりと丈夫な土の道です。


真ん中と両側に、当たり前のように草が繁茂しています。


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「堀切(ホリキリ)」という、いつの時代の人たちか知りませんが、山を削って道にした所を通っています。


「今なら、トンネルにしてたんだろうな」


万九郎は、思いました。


堀切の両側、上の方から、木々と葉々の間をすり抜けた、眩しい日光が、ときおり視界に入ってきます。


それを除けば、この堀切は基本、日陰で、向かい側から心地よい風が吹いてきます。


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堀切を抜けると、一気に明るくなりました。


道の左側の、石倉(イシクラ)山に通じる斜面に、高い草が生えている草原と、その先の森林が見えています。


その草原を、物凄い速さで2匹の獣が、こっちに走っています。


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「佳菜様、お久しぶりでございます!」


そう喋ったのは、とても大きくて白い犬の一方でした。


「シロ。お久しぶり」


「おぬしが、万九郎か。これは、聞いていた以上だな」


そう言ったのは、もう一匹の犬の方でした。


「そっちは『タロ』よ。あと万九郎。犬じゃなくてオオカミだから、口に出して言うと、怒られるわよ」


佳菜が、にっこりと笑いながら、そう言いました。


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「最近の森は、どう?」


「良く治っております」


基本、佳菜に返事をするのは、シロのようです。


「どうした?」


タロが、万九郎に言いました。


「いや。本当に大きいオオカミだと、驚いていた」


体高が明らかに、大きな馬を上回っています。


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「早く、しなさい」


佳菜に、言われました。


佳菜は、シロの上に乗っています。

跨っています。


「いいのか?」


「良くない訳など、なかろう」


「じゃ、失礼する」


次の瞬間には、万九郎はあっさりと、タロに跨っていました。


坂口さんに手を貸そうと、彼女のいた所を見ると、


「いえ。わたしも1人で、大丈夫です」


そういうと、万九郎の後ろに、軽々と跨っていました。


「ほぉ」


シロとタロが、感心したように言いました。


佳菜もニッコリすると、


「さあ、行くわよ!」


3人と2匹の、ぎぎが浜海水浴場への旅が、再開されました。


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3人を乗せた2匹の、大きなオオカミは、風のように走っています。


田んぼの上を、畑の上を、土の道の上を、堤の上を、そして、たまには人家の上を。


万九郎は、とても楽しくなりました。


「ヒュー、ヒュー♪」


坂口さんは、万九郎の逞しい腹の回りに、しっかりとしがみついています。


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オオカミたちが、広くて長い砂浜の前、土手になっているところで、止まりました。


「ご苦労さま」


「軽く動いただけです」


シロが、答えました。


「降りろ」


タロです。


万九郎のと坂口さんは、どちらも軽々と、飛び降りました。


「ありがとうな」


「用事があれば、いつでも呼べ」


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そして3人は、ようやくぎぎが浜に、足を踏み入れました。


すると、びっくりする光景が、主に万九郎を、待っていたのです。


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たくさんの、水着姿の女の子たちが、いました。


全員が、白い水着です。


しかも、全員、かっこいいサングラスを掛けています。


万九郎は、アメリカにいたことがあり、特に北部の海岸線辺りでは、夕方がとても長く、どうやっても直射日光が目に入ってくるため、サングラスをしていました。


詳しいメーカーとかは、よく知りません。


【サングラス】


出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

サングラス(英語: sunglasses)とは、日差しや強い照明から眼を守るために着用する保護眼鏡のこと。眩しさや紫外線などを低減するために着用する。白人は、日光から健康被害を受けやすいため、瞳を日光から守るという健康上の理由でよく使う。オゾンホールの影響で紫外線が強いオーストラリアやニュージーランドなどでは、児童がかける事も珍しくない。目元が隠れるという付随効果もあるため、視覚障がい者が見た目に特異な目を隠すためにサングラスを着用することも一般的である。

黒眼鏡、色眼鏡やグラサンなどとも言う。黒眼鏡の語は、年配の世代で用いられることが多い。なお、色眼鏡は、「予断」「偏見」「先入観」の比喩として用いられることもある。

概要

黒っぽい色がついているものが主で、マジックミラーを用いたもの(ミラーグラス)もある。外から不透明に見えるものがサングラスに分類されることが多く、黒っぽくない色や透明度が高いものは伊達眼鏡に分類されることもある。

偏光フィルターを用いたものは偏光グラスと呼ばれ、水面や雪面で反射して来た光を選択的に反射でき、スポーツや釣りなどの際に使用される。

色が濃いほど紫外線を低減する能力が高いとは限らない。透明でもUVカット加工を施した眼鏡がある。色が濃く視界が暗いと瞳孔が開き、サングラスと顔の隙間から入った紫外線が眼球内に届きやすくなるため好ましくないともされるが、この言説に対しては、屋外の太陽光は濃いサングラス越しでも瞳孔を閉じさせるに十分だし、顔とサングラスの隙間から紫外線が入るのならば、同じ隙間から入る可視光線で瞳孔が閉じるので、現実にはほとんど心配する必要はないとする反論もある。


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「サングラス部隊・・?」


思わず、万九郎は呟いていました。


「そこ!それ禁句だから」


佳菜に、怒られました。


なぜ禁句なのかとか、聞いても答えてくれないのが、雰囲気で分かります。


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「紹介するわ。この子たちは、うちのメイド部隊の卵。そこの松浦園芸高校で、メイド修行を積ませているの」


園芸高校で、メイド?


万九郎は、そこで考えるのを、やめました。


「それにしても・・」


当然、万九郎は、続きを言うことができません。


少女たちは例外なく、秋葉原のメイド喫茶とか、アンナミラージュで働いているような。


そこまで言えば、みんな分かりますよね。

だから、詳細は言わないです。


にもかかわらず、少女たちは皆、健康的です。


「体術と魔導で突出している子たちだけを、選別して入学させているのよ」


佳菜が、当然のように言います。


もう万九郎は、何を言えばいいのか、分からなくなっていました。


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「園芸高校には当然、100mプールがあるけど、プールと海じゃ、色々と違うでしょ」


「ああ、これは分かる」


万九郎は、深く、納得しました。


「あなたたち、やるべきことは当然、分かっているわね」


「御意」


万九郎は、「御意」なんて本当に言っているのを、初めて聞きました。


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「私たちは、自由行動よ」


「何やってもいいって、ことか?」


「ええ」


ここで万九郎は、自分以外の2人を、改めてじっくり見ました。


佳菜は、赤のハイレグ水着。もちろん、セパレートです。


坂口さんは、黒のハイレグ。こちらも、セパレートです。


「ふーん」


佳菜が、感心したように、言いました。


「あなたって、少し前の私と、そっくりね」


万九郎は、心の中に引っかかっていたものが、すっと消えた気がしました。


坂口さんは、無言です。


いえ、坂口さんが、口を開きました。


「そう思って頂けるのでしたら、私のことは、坂口と呼び捨てで、お呼びください。そのほうが、私はいいです。万九郎さんもです」


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坂口さんは、そのとき、とても真面目な顔をしていました。


「そうね。その方が、私も呼びやすいわ。だけど、女だから、よほどの非常時以外は、さん付けになっちゃうけど」


坂口さんは、そのとき、とても真面目な顔をしていました。


「そうね。その方が、私も呼びやすいわ。だけど、女だから、よほどの非常時以外は、さん付けになっちゃうけど」


「それでいいです」


「俺も、さん付けが、ちょっと面倒くさくなっていたから、助かる」


「改めて、まだ未熟な友達として、がんばります」


良いことです。


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3人は、海に入りました。


準備運動は、ここに来るまでに、十分すぎるほど、できています。


砂浜は、美しいとしか言いようがなく、海に入ると、海面下は恐ろしいほどに澄んでいました。


万九郎は、傭兵訓練時代に調達した、目の周りだけを守るゴーグル(Diving Goggles)を、装着しています。


坂口さんにも、同じものを、ここまでの路上で、与えていました。


佳菜は、メーカーは分かりませんが、見るからに高級品です。


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海の中には、無数の生き物がいました。


坂口さんが、何かを指さしています。


「あれは、ウミウシだよ」


万九郎は、テレパシーのようなもので、教えてあげました。


なぜ「ようなもの」なのかと言うと、万九郎自身、テレパシーみたいな超能力ではなく、訓練の中で、自然に獲得した能力だからです。


心の中で、人と話す方法は、そのうち坂口さんに教えないとなあ。


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そのほかにも、浅瀬の定番ボラの群れ、槍のように泳いでいるイカ、海底で、意外とスルスル動いているタコなど、数えたらキリがありません。


坂口さんが、今度は大きなカニを、指さしています。


「あれは、お祖母様が、海外から移入したノコギロガザミよ」


佳菜の声が、心の中に直接、入ってきます。


万九郎も、アメリカの西海岸にいたときには、よく食べました。


ガシャガニ(ガザミ)より2倍ほど大きく、見が締まっていて、外形もいかにもストロングなカニです。


「研修中の子たちが採るでしょうから、お楽しみね。とても、美味しいわよ」


佳菜が、普通のことのように言いました。


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ほかにも、当然のようにイワシの大群、アジの群れなどが、海の中でキラキラと輝いています。


さらに沖の方へと、3人は、海の中を行きます。


「あっ!?」


珍しく、坂口さんが、声を上げました。

その声が、聞こえました。


「イルカね。バンドウイルカよ。よくいるわ」


【ハンドウイルカ】


出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

ハンドウイルカ(半道海豚[2]、Tursiops truncatus)は、クジラ目ハクジラ亜目マイルカ科ハンドウイルカ属に属するイルカである。最も良く知られたイルカの一つであり、熱帯~温帯の陸近くの世界中の海に生息する。

元来は九州北部地方で、ハンド(イルカ)またはハンドウ(イルカ)と呼ばれていたとされる[4]。

英名であるBottlenose(瓶のような鼻)は伸びた上下の顎の形に由来する。


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確かに、バンドウイルカは一般的で、長崎県の巨大内海である大村湾にも、多く生息している。


次に見かけたのは、アオウミガメ。

これも、松浦領の伊万里湾では、珍しくありません。


そして当然のように、カブトガニ。


メスの下半分にオスが乗るかたちで、海底を速く動いています。


さらに、ラッコとセイウチ。


松浦領の伊万里湾は、ノコギロガザミが生息できるほど、海水が冷たいため、ジュゴンは当然、存在しません。


さらに沖に行くと、無数のシュモクザメの群れが、います。


シュモクザメは、普通の人には危険なこともありますが、3人にはどうということも、ありません。


ですが、3人でも泳ぎを止めた生物が、いました。


シャチです。


6匹の群れです。


それも、普通のシャチでは、ありません。


優に、2倍の全長が、あります。


シャチです。


6匹の群れです。


それも、普通のシャチでは、ありません。


優に、2倍の全長が、あります。


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さてどうするかと、万九郎が思っていると、さらに向こうから、たくさんの人たちが、こっちに向かって泳いできています。


よく見ると、彼女たちは、人魚でした。


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人魚たちは、万九郎たち3人の前まで来ると、1人が佳菜に向かって、


「マ・ツーラ家が治めている海中に、ようこそ。シャーロットの妹のシャルティアです」


と挨拶しました。


ほかの人魚たちも皆、一礼しました。


「あのシャチたちは、あのままで大丈夫なの?」


佳菜が、言いました。


「はい。あの子たちは、普通より育ちがいいだけで、悪さをするわけでは、ありません。今日は、金槌頭のサメたちが、いっぱい湧いたので、食べに来ただけです」


「それなら、いいわね」


「それにしちゃあ、人魚が大人数で集まってるようだが、何かあったのか?

俺は、ヨロズ万九郎って者だが」


「まあ。あなたが万九郎様!いつも姉から自慢されていますが、本当にステキな男の人ですね。私のことは、ティアとお呼びください」


ティアが、万九郎の質問にも答えず、ヒートアップしてます。


「いや。俺のことは別にいいんだが、何かあったかだけ、簡潔に答えてくれ。ティア」


「さっそくのティア呼び!ヒデキカンゲキー(謎)」


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「ティア」


佳菜が、普通より低い声で、言いました。


「はっ、はい。あの日、私たちのうちの1人が、たまたま、ぎぎが浜の近くまで来ていて、沖合の深いところで、とんでもないものを見つけたのです」


「この辺りは、人が魚などを採る領域ですから、私たちは普段、もっと北西の沖にいます」


「あれに害はないから、放っておきなさい」


有無を言わせぬ口調で、佳菜が言いました。


「はい。そのようにします」


万九郎は、佳菜の態度に、何か腑に落ちないものを感じました。


「説明が必要なときには、必ず説明するから、説明は不要ってことか。俺たちにも」


心の中で、万九郎は、そう思いました。


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その後、万九郎は、1人で泳いでいるときに、近くにいた人魚に聞きました。


「さっき、佳菜は、あんな感じだったけど、その『とんでもないもの』まで、俺を連れて行ってくれないだろうか?」


「これは万九郎様。すぐにティア様に聞いて参ります」


しばらくすると、ティア本人が、やって来ました。


「今なら、佳菜様は実習生たちのところに行かれましたし、坂口さんは、さっき近くに来たアザラシとアシカたちに夢中ですよ」


「それは良かった」


「では、すぐに例のところに、参ります」


「うん。よろしく頼む」


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「なんという深さだ!?」


ティアの斜め後ろから潜っていた万九郎は、そう思っていた。


ですが、この松浦領が、外界から隔離した世界であることを、思い出しました。


そして、さらに、さらに、潜っていきます。


「あれです!」


ティアの声が、聞こえました。


万九郎も、その方向を一層、しっかりと見ました。


「!」


万九郎は、言葉を失いました。


万九郎は、言葉を失いました。


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深海の暗黒の海中でも、魔導で強化されている万九郎の目は、目前の巨大な物体を、はっきりと視覚します。


それは、本当に巨大です。もう、超巨大と言っても、外れではないかも知れません。


全体が、分厚いフジツボで覆われていますが、その形状は、明確に分かります。


上半分が円錐形、上下の境は帯、というかバンドのようなもので囲まれています。


さらに深くまで行くと、下半分はどうやら、上半分より緩やかな円錐形になっています。


そして、その大きさが、凄い!


「直径2000m以上は、確実にあるだろ・・」


そう。それは、超巨大UFOでした。


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万九郎は、なんとか内部への入り口を探してみましたが、程なく諦めました。


絶対無理だと、分かったからです。


「ティア。済まないが、2人でここまで来て、これを見たことは、秘密にしてくれないか?」


「承知致しました」


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その日の夜は、ぎぎが浜の砂浜で、3人とメイドの卵(仮メイド)たちで、宴会というか、バーベキューパーティーになりました。


魚、貝、イカ、エビ、カニなどと野菜を中心に、地元醸造の酒も、振る舞われました。


「これは、何ですか?」


坂口さんが、不思議なものを見るような目で、それを見つめています。


「ああ、それはシャコ。この辺じゃシャッパと呼ばれてる。見た目で遠慮する人もいるみたいだが、美味いぞ」


そう言うと万九郎は、2本の箸をシャコの尻尾の両側から差し込んで、バリバリと豪快に殻を剥がしました。


「ほら、食ってみろよ」


坂口さんは、一口食べると、


「美味しい!」


と、感動していました。


ほかにも、松浦領の海域には伊勢エビはいないのですが、同じオマール種で、ウチワエビがいます。


その夜はこうして、誰にとっても、とても楽しいものになったのです。


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ぎぎが浜編終了!


まだまだ、続きます。










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