第32話 アットホーム

 その夜、市場の宿屋で、僕らは旅をはじめて以来いちばんゆったりとした時間を過ごした。

 温かい食事を部屋まで運んでもらい、さらに市場で買ってきた惣菜やお菓子も持ち寄り、イチハはお酒まで買い込んでいた。

「あの、これ……」

 宴もたけなわ、僕とミミは、イチハとドゥークへ市場で買ったプレゼントを差し出す。

「わっ、ありがとう!」

 イチハには赤い石の付いたブローチを、ドゥークには竜の牙を軸にしたペンをプレゼントした。二人ともとても喜んでくれて、僕とミミの頭をぐりぐりと撫でてくれた。(買い物の途中でスリに遭ったことは内緒だ。)

「私たちからも、プレゼントがあるのよ」

 ジャジャーンと言って、イチハがドゥークの背嚢から包みを取り出す。

「はい、これはナナへ」

「……マントだ!!」

 肌によく馴染む手触りの黒いマント。

「ドゥークのマントを新調したでしょ。それで、古いマントををリメイクしたのよ。ボロボロの部分を切り取って、ちょうどナナのサイズにぴったりでしょ。……あら、まだ少し大きいわね」

「平気だよ! 僕、すぐに大きくなるよ」

 そう言って、目の前の食事を満腹になるまでもりもり食べる。「それは楽しみだな」ドゥークもイチハも目を細めて微笑む。

「で、これはミミに」

 リボンを取り出す。

「ミミにもあるですか?!」

 ミミがぴょこんと飛び上がる。

「当たり前じゃない。それ、モンスター避けの効果もあるからね」

 そう言いながら、イチハがミミの耳にリボンを結ぶ。黄色いリボンはミミにとても良く似合っている。

「これでミミが他の兎に紛れていたって間違えないわよ」

 イチハがいたずらっぽく言う。本当は、リボンがなくたって、僕らはもうたくさんの兎からミミを見つけ出すことができる。

 そうして、久々に温かい食事とふかふかのベッドを得た僕らは、その夜ずいぶん遅くまでわいわいはしゃいだ。カードゲームもしたし、イチハが歌って、ミミが踊ったりもした。ドゥークがオカリナの演奏ができることも初めて知った。

 いっぱい笑って、いつの間にか眠りに落ちていた。皆の寝息を隣に聞きながら、安心してぐっすり眠った。

 とても幸せな夢を見た気がする。Kの夢ではなかった。

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