第7話 事後のベッドの上で

 ここはリュデアが親元を離れ、現在借りているとある宿屋の一室。その部屋の中で、下半身丸出しの姿になっているマキトを目の前にして、興奮を隠せないリュデア。

 そんな状況に至るまでには、不思議とそんなに時間もかからなかった。


 それは、リュデアにとっては突然の出来事だった。

 今日も、自分に対する好意を測る天性のスキル“好意判定”を使って、リュデアは運命の相手を探し求めて街をブラブラと歩いていた。


 すると突然、大通りのど真ん中に見慣れぬ服装をした人間の男性が現れるのを目撃した。しかし、リュデアは真級スキル“空間転移”を所持していることもあり、突然現れることはリュデアにとっては普通のことだった。


 だが、次の瞬間リュデアはその人間の男性に目が釘付けとなる。それは、その男性は“好意判定”の値が上限値を示していたからだ。

 そんな時だった、その男性が左手側の歩道を急に走り始めた為、リュデアも逃すまいと後を追った。

 暫く後を追いかけたリュデアだったが、急に男性が立ち止まると後ろを振り返ってきた。

 そのタイミングを合わせたかのように、目の前の方に空から火球が飛来すると大きな爆発が起きた。

 その爆風から目の前の男性を助ける為、リュデアは初対面だった男性に声を掛け、手を引くと自分の身体へ引き寄せて、“空間転移”を使った。


 リュデアの“空間転移”はまだスキルレベルが低く、任意の場所へは一箇所までしか行けなかった。その任意の場所というのが、現在借りているこの宿屋の一室だった。

 ここに来るまでリュデアは、実家を任意の場所として記憶させていたが、利便性を考えて任意の場所をここに更新した。

 

 「それが、リュデアが俺に対して…お願いする言葉と態度ってことでいいか?」


 一秒でも早くリュデアは、目の前にいるマキトと名乗る人間の男性に、征服されたいと心から願っていた。だからもう、今のリュデアにはプライドなんてものは、カケラも残っていなかった。


 「お、お願いします!!わ、私のこと…好きにしてください!!もう…私、我慢出来ないです!!」


 ──パサッ…

 ──バサッ…


 そう言ってリュデアは、身につけているものを手早く床へと脱ぎ捨てた。そして、マキトの目の前でリュデアは背を向けると、ゆっくりと屈むように腰を落とし、両手と両膝を床につけた。



─_─_─_─_


 色んな意味でリュデアを煽ってしまったことは、実はマキトの本意ではなかった。ことの成り行き上だった、とでもいえばいいだろうか。

 結果的には、マキトにとってはそれが功を奏する事になったのだが。


 「本当にごめんな…?俺、知らなかったんだよ…。」


 「ううん…?ビックリしたけど…私、嬉しかった…。マキトのモノになれたから!!」


 あれからどれくらいの時間が経っただろうか。それも気にならないくらい、マキトとリュデアは狂おしいひとときを愉しんだ。そして、ベッドの上で二人一糸纏わぬ姿で寄り添い、仰向けに寝転んでいた。


 「これは…言い訳に聞こえるかもしれないし、今更…なんだがな?俺、この世界の人間じゃないんだ…。」


 「うん…。あの瞬間、私の中でマキトについて考えたんだけどね?二つのことしか、出てこなかったんだ…。一つは、関わってはいけないもの凄くヤバい人間。もう一つは、別の世界から迷い込んだ人間。その、どっちかなんだろうなって…。」


 初対面の相手に対して、いきなり高い好感度を求めるのは無理があるだろう。ただ、二択ではあったがリュデアが『関わってはいけないもの凄くヤバい人間』だと考察したことに、マキトは結構ショックを受けたようだ。


 「その…二つしか、本当にリュデアは俺のこと思いつかなかったのかよ?!」


 「だって…。元来、性欲が強いダークエルフを好きな人間なんて、周囲にはヤバい奴しか居なかったから…。いきなり、私の処女奪ってきた時は…マキトも同じなのかなって…。」


 「まさかさ…。この世界では、婚約する間柄以外、お尻でするとか知らないから!!俺の世界では、それはかなり難易度が高い行為でさ…?だから、俺がリュデアにしたことは、俺の世界ではごく普通の行為なんだよ…。」


 「お互いの世界の性文化による認識が違うって、マキトは言いたいんだよね…?でも、私の処女を奪った責任はキッチリと、マキトにとって貰います…。」


 「それについての話なんだがな…?リュデア、俺の話を聞いてくれないか?」


 悪魔の女性を救うために肝心な“異世界ジャンプ”のクールタイムについては、マキトたちがお楽しみの最中にとうに過ぎている。

 現段階では、数分程度で誤差のようなクールタイムだ。積極的に“異世界ジャンプ”を使っていかなければ、スキルレベルは一向に上がらないことは、マキトも分かってはいた。


 「もしかして…元の世界に婚約者がいるとか?まさか、既婚者とか!?いきなり私の処女、奪っておいて…酷いよ!!」


 「おい!!リュデア、違うから!!俺はそんな無責任な人間じゃない!!ただ、俺は…。」


 「ほら…!!やっぱり…『関わってはいけないもの凄くヤバい人間』だったんだ!!」


 {まさか…こんな面倒くさいダークエルフだったなんて…。あ、いや…。どんな叡智の書でも、面倒くさいダークエルフの描写しかなかったか…。}


 こんな状況では、言葉で言うよりも試して見せた方がマキトは早いと判断した。


 ──グッ…

 ──ギシッ…


 「悪い…。ちょっと、ベッド降りてくれないか…?」


 マキトはそう言いながら、二人で横たわっているベッドの上から上体を起こし始めた。


 「えっ…?!な、何するの…?」


 ──ググググッ…

 ──ギシッ…ギシッ…


 上体を完全に起こし切ったマキトは、ベッドの縁に腰掛けた。そして、まだベッドの上でゴロゴロしているリュデアの方を向いた。

 

 「ベッドから降りたら、リュデアは俺の横に並んで手を握って欲しい。よっと…。」


 ──ギシンッ…

 ──トンッ…


 リュデアに指示だけすると、ベッドの縁を両手で押し出す感じで、マキトはベッドから床へと降り立った。


 ──ジャリッ…


 「早く…リュデア、こっちへ降りて来いよ…。」


 {ここの床、ジャリジャリしてるんだが…。さっきは勢いで服とか、床に脱いじゃったけどさ…。終わってるな…。}


 あくまでここは宿屋の一室の為、土足ということもあるが部屋の床は土や砂が多く綺麗ではない。ただ、リュデアが借り続けているということも考えれば、床など掃き掃除をしていない可能性をマキトは疑っていた。


 ──グッ…ググッ…

 ──ギシッ…ギシッ…ギシッ…ギシッ…


 「ちょっと…。マキト、待ってよ…。」


 リュデアはベッドの上で、仰向けからうつ伏せに体勢を変えた。すると、既にベッドから降りて裸足のまま床に立って待っているマキトの方へ、四つん這いの状態でゆっくり向かっていった。


 「ちょっと…!!リュデア…一体、何て格好してるんだよ…。」


 「こういうこと、マキトは私にさせたいのかな…?って思って…。」


 {はぁ…。俺は早く、リュデアと“異世界ジャンプ”して、悪魔の女性を助けに、世界を巻き戻したいだけなんだけどな…。}


 「それは、リュデアの願望の間違いだろ?とりあえず、早くこっちへ降りてきてくれないか?」


 この世界で、女性のダークエルフを相手にするということは、そういうことなのだ。だが、こんなやり取りをしている間にも、ロールバックであれば何回か出来ただろう。ただ、“異世界ジャンプ”持ちのマキトにとっては、時間は無限にあるに等しい上、刺客に命を狙われているわけでもない為、全く焦る意味はないのだが。


 ──ギシンッ…

 ──ドンッ…


 「マキトぉぉぉぉぉぉぉぉっ…!!」


 ──ガシッ…ムギュウウウウッ…


 突然、ベッドの上から颯爽と飛び降りたリュデアは、マキトに向かって飛びつくと、思い切り抱きしめ始めたのだった。

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異世界ジャンパー 茉莉鵶 @maturia_jasmine

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