第6話 ダークエルフ女子と急接近
実をいうと“空間転移”というものは、この世界では真級スキルに該当する。
だがマキトが所持するような唯一無二の究極スキル“異世界ジャンプ”とは異なり、ある一定数は存在することが確認されている。ただ、継承しなければいけないという性質上、スキルに認められず消失するケースも少なからずあるようだ。
──ブンッ…
そんな説明も得られぬ余裕もないまま、マキトはリュデアに抱きかかえられ、彼女のたわわな胸の間に顔を埋めさせられたまま、“空間転移”の行き先であるどこかの場所へと二人の姿が現れた。
{ま、前が見えねぇ…。一体、俺たち…どこに転移してきたんだ…?}
空間を移動中は、マキトは無重力空間にいるような感覚だった。しかし、目的地に二人の姿が現れた瞬間、急に身体に重力を感じるようになった。それは、素人のマキトでも分かるくらいだった。
ファンタジー作品ではよく見受けられ、魔法やスキルとして扱われる“空間転移”。それを、意図せず自らの身体で体験することになったマキトにとって、その歓びはひとしおだった。しかも、マキトが大好きな種族である、ダークエルフの胸の谷間に顔を埋めながらだ。
──スタッ…
「うぉ…っ!?」
“空間転移”は、地面よりも僅か五センチ上側に現れるようになっている為、着地が必要になる。今、リュデアは両足でしっかりと着地を試みた。だが、前も見えずスキルの特性も分かっていないマキトは、その着地で前側へとつんのめる体勢になった。
「おい!!キミ!!初対面の女性に対して、過剰な接触行為はどうかと思うが…。」
「いや…。リュデア、俺…今前が見えないんだって…。」
{あ!!やべっ!!巻き戻ったこの世界で、リュデアと俺…まだ、初対面だったっけ…。}
思わず、リュデアの名前を口走ってしまったマキトは、心の中で反省しつつリュデアの出方を伺うしかなかった。
「え?!ど、どうしてキミは…私の名前を!?」
──ググッ…
マキトの言葉に驚いたリュデアは、それまで抱きかかえていたマキトの両肩に手をあて、軽く身体を突き放してきた。すると、マキトの顔はリュデアのたわわな胸の間からようやく抜け出し、周囲の状況を確認出来るようになった。
「君は、ダークエルフのリュデアさんだろ?“治癒”スキルも使える。そして、大通りのど真ん中に現れた俺を見かけた君は、無意識のうちに俺を追いかけていたんだろ?俺と、付き合いたくて…さ?違うか?」
{ここって…どこかの部屋、だよな…。ベッドもあるし…まさかリュデアの寝室なのか?!それにしては、広い気もするが…。色々、俺の気になるもんばっかり…この部屋ん中、置いてあるな…。}
当たらずとも遠からずで、今マキトとリュデアの居る場所は、リュデアが現在借りている宿屋の一室だった。そんなベッドの上には、リュデアが夜な夜な独りで愉しむ為に使っている大人の玩具が、無造作に何個も置かれていた。
リュデアと会話している最中、ふと部屋を見渡した際に目に飛び込んできてしまい、マキトはそれが気になって仕方がなかった。
「う、うん…。でも…なんで?わ、私と…キミは今日初めて会ったんじゃないのか…?」
{リュデアは“空間転移”使えるんだ、俺の“異世界ジャンプ”だって理解できるだろ?それに、俺とムフフな関係になりたいくらい、強い好意はあるのも知ってるしな…。}
「いや?巻き戻る前の世界では…さ?処女のリュデアは童貞の俺を…自分の部屋に連れ込もうとしてたからな?」
色んな意味でマキトは何かを確信しつつも、“異世界ジャンプ”の明言は避ける形での発言となったようだ。ちゃっかり自分は童貞だということは、リュデアには伝えたかったらしい。
「…つ?!何だって!?い…今、キミは…『巻き戻る前』って、言ったのか?!」
{いや!!そこかいっ!!『童貞』とか『部屋に連れ込もう』とかは、スルーするんかいっ!!}
「ああ。確かに言ったが、自己紹介が遅くなったな?俺の名前は、カスギ・マキト。まぁ…巻き戻る前みたく、俺のことマキトって呼んでくれるか?リュデア。」
「因みに…わ、私は…キミとは、ど…どこまでの関係だったんだ?」
マキトの目の前で、リュデアは頭部を指でポリポリとしながら、自分で質問しておいて恥ずかしそうにしている。マキトのいう『巻き戻る前』の自分自身が、どこまでマキトを攻略できたのかリュデアは気になってしまい、『巻き戻る前』の追求よりも先に、口から言葉が溢れでてきてしまった。
「ああ、俺とリュデアはまさに付き合いはじめたところだったな。あとは、さっき俺が言った通りで…。」
「そ、それ以上は言うな…!!これから…私とキミはここで、“初めて”をすることになっているんだからな…。」
{マジか?!でも、俺…リュデアの部屋まで連れて来られちゃってるんだよな…。これから、リュデアには俺と一緒に“異世界ジャンプ”していく事になるんだからな…。断るってのは、ダメ…だよな?}
あの悪魔の女性をマキトたちが救う為には、リュデアの真級スキルである“空間転移”は、どうみても必要不可欠と言える。リュデアにとって同性を救うという事は、自分にとっての恋敵になることは目に見えており、完全なデメリットと言える。
だが、まず先にリュデアとムフフな関係になってしまっていれば、それはマキトにとってアドバンテージが大きいだろう。
「そうか!!なら、話は早いな?俺たちの“初めて”の記念日、今すぐ作ろうぜ?」
「え…。」
──グッ…
──ジジジジィィィィッ…
思わぬマキトからの言葉に、唖然とした表情のリュデアをよそに、マキトは履いていたズボンのボタンを外しすと、ファスナーを下ろし始めていた。
「あ…。」
マキトは“叡智の書”などからの知識が豊富にある為、タイムリープによるリセットを活用出来る事に気付いたようだ。
それは、例えこの世界でマキトとリュデアが、ムフフな関係になったとしても、“異世界ジャンプ”で“ロールバック”してしまえば、そのムフフな記憶だけは残るが肉体的にはノーカウントになるからだ。
それ故に迷いを捨てたマキトは、念願だったダークエルフの女性とのひとときの快楽を、自らの意思で選んだのだ。一言だけ、何か言葉を漏らしたリュデアの表情は、赤らめてきている。
──パサッ…
──バサッ…
「ほら…リュデア?見てみろよ…?俺は、もう…準備万端だぞ?だから、早く…!!ベッドの上に行くんだ!!」
「…!?」
リュデアは、自分の目の前で露わになったマキトのそれに、釘付けとなってしまった。それもその筈で、無造作にベッドの上に置かれた大人の玩具並みの、無機質ではないそれが、リュデアの目線の先にあるのだから。
もう既にリュデアの頭の中では、マキトとのベッドの上での狂おしく濃密なひとときの妄想が、様々なシチュエーションで再生され続けていた。
「ああ、そうかそうか!!リュデアは、あっちの方が良いんだもんな!!それはそうだよな!!」
なかなかその場から動こうとしないリュデアに対し、マキトは焦っていた。それで思わずベッドの上に転がるものをマキトは指差しながら、そう言い放ってしまった。
{はぁ…。リュデア、全然ベッドの方へ行ってくれないしさ…。人間の俺じゃ、役に立たないってことなのか?それにさ…。今ので、リュデア怒らせちゃったかもな…。俺、終わったかもしれないな…。}
冷静になって考えれば分かることだったのだが、巻き戻る前とは違い二人の間に殆ど接点はない。それなのにも関わらず、マキトは若さ故の勢いで話を無理やり進めてしまっていたのだ。ここまでくると、もうリュデアの気持ち次第となってくる。
「い、嫌だ!!ま、マキト!!私のこと、す…好きにしてくれて構わない…。き、気が済むまで使ってくれ!!」
この世界でのこれ以上の進行は、マキトの中では半ば諦め掛けていた。だがそれは、ただのマキトの杞憂だった。
折角、自分への好意を測る“好意判定”で、上限値を叩き出したマキトをリュデアは逃すまいと、それまでの少し強固な姿勢を崩し始めた。
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