太陽の墓 (3)
「そんな……君……本当に…………」
「……ここだよ……掘って……」
「…………」
「……少し掘ったら……箱が……出てくるから」
「あ……」
「……そうしたらそれを…………僕に渡して……」
「…………」
なぜ僕は、動けるのだろう。
なぜ僕は……震えながらもしっかり動いて、言われるがままに作業を進めているのだろう…………。
「ありがとう……。……これで、……薬が飲めるよ……」
「飲んだら治るの?」
「……ふふ、何言ってるの……。……逆、だよ……治らないために……飲むんだ…………」
「…………」
穴を掘っていた。
どこまでも。
どこまでも。
どこまでも……。
深い、深い、……深い穴を。
いつまで掘り続けるのだろう。終わりは来るのか。永遠に穴を掘り続けるのかもしれない。僕は今、どこにいる……?
……何も考えられない。
いつしか、そんな僕の姿をどこからか眺めている僕の存在に気がついた。
僕は、僕を見て思い出した。
この姿は、そう遠くもない未来へと、確かに思い描いていたものだ。
予期していた? いや違う。そうじゃない。
これは……そう、僕が心のどこかで望んでいたことなのだ。
……けれど1つだけ違うのは、思い描いたビジョンの中で穴の中に入るのは『彼』ではない。
(そうだ…………僕は…………)
やっと、はっきりと自覚した。
僕がこの場所を、『墓場』をこんなにも愛していたのは、僕の嫌いなあいつらを、いつかここへ葬るという夢想によって、自分を守っていたからなのだった。
『そっか。そんなキミと出会えたのは、僕にとっては奇跡だったのかもしれないね』
『教えて。君はなぜ墓に入るの?』
『僕は、誰のものにもなりたくないんだ』
『……?』
『このままいくと、望まない人の所有物にならなければいけないところだった。あまり詳しくは言いたくないけど』
『…………』
『僕は最後まで僕だけのものであり続ける。自分の意思で終わりを決めて、――自分の選んだ人に見届けてもらう。そう決めていたから』
『…………そっか』
永遠にも思えた長い時間を終えて、深い穴から戻って来ると……。
「……おやすみ」
小箱を手に入れた彼は、鮮やかな赤色の苦痛から解放されて、色のない世界で穏やかに眠っていた。
そこから、永遠のような穴の中へ、――僕の手によって、深く、深く、…………。
僕達は二人とも、この墓場の中に、それぞれの思い描く墓標を夢見ていた。
僕は葬る夢を。彼は、葬られる夢を。
彼は望んだ通りの夢を手に入れたのだろうか?
僕のほうは、とても望まないものを葬ることになってしまったけれど、それでも、そうまでして彼の望みを叶えたのはなぜなのか。
わかるようなわからないような曖昧な思いを抱えながら、少し盛り上がった土の上に、彼が以前から用意していた墓石を置く。
「……へぇ、あの子、こんな名前だったんだ。僕は結局名前も教えてなかったな」
僕が作った墓の中には、いま、太陽が眠っている。
―終―
太陽の墓 摩訶子(まかこ) @Makako_0905
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます