難航する情報収集
パソコンとにらめっこし、ここ1週間以内にあった車の盗難の被害報告を見ていく。そして複数が乗っても支障のない車をリストアップしていった。が……。
「数多すぎでしょ!? 盗難され過ぎじゃん!?」
「ですね……」
端的に言うと、難航していた。
調べるのは、ここら辺だけではない。地方全体のものを見ている。だからこその件数はとても多かった。
そして私たちは、車種に詳しくない。文書だけでどのメーカーだとかどのタイプだとか書かれているので、形が想像できないのだ。だからこそ、データ、検索、データ、検索……と行き来しないといけないので、余計に時間が掛かる。
時間に余裕はない。それが分かっているからこそ、思うようにいかない苛立ちと焦りが、私たちを襲っていた。
もう、調べ始めてから5分が経とうとしている。これ以上かかると、カーラさんの助力があったとしても……大智さんの及ぶ範囲から、犯人たちが出てしまうかもしれない。
どうする。そう思うと、調べる手も遅くなってしまう。進むしかないというのに。
隣にいる言葉ちゃんも、苛ついたように頭を掻きむしっている。どうする、このままじゃ彼女が怒り出しかねない。
……なんて、現状に対し見当違いなことも考え始めた、その時。私たちの間に割って入るように、1つ、手が伸べられた。
「──車が盗難される理由は、大きく分けて2つだ。転売目的と、更なる犯行の際に足が付かないようにすること」
誰かは、言うまでもない。忍野さんだった。
いつの間にか、この部屋まで移動して来たらしい。やはりこの人、意図的に存在感を消しているのだろう。全く気配が感じられなかった。
「ぅっわぁっ!? 突然背後に立つな!!!!」
「うるせぇな、お前が感じ取れないのが悪い。この程度、あの馬鹿でも気づくぞ」
「そりゃ泉先輩は目ざといから……」
「それで自分の力不足を語るんじゃねぇよ、脳味噌カス女」
「あ゛ぁ!?!?!?!?!?」
流れるように暴言を吐かれ、言葉ちゃんがドス声を効かせつつ忍野さんを睨みつける。だがやはり忍野さんはどこ吹く風で。視線をパソコンに戻すと、先程の話の続きだろう。再び話し始めた。
「まあ転売の方が多いのは言わずもがなだ。そうそう犯罪に走るやつなんていないからな。いや、転売も立派な犯罪だと言えるが、それはまあいい。……車をそっくりそのまま転売する、なんてのも無い話ではないが、まあ、極力傷つけないようにはするだろ。転売しようとしていた部分が傷つけば、価値はが下がるからだ。
でも……転売目的じゃないやつは、どうだ?」
突然の問いかけに、私は黙ってしまう。しかし言葉ちゃんは顎の下に手を当てると……ハッ、としたように、大きく目を見開いた。
「……分かった、現場に異能力を使った痕跡が残っていたケースを調べれば……!!」
「確実ではねぇけど、絞り込めはするはずだ」
ほぼ一瞬で答えを導き出した言葉ちゃんと、正解だと言わんばかりに頷く忍野さん。その隣で私も、なるほど、なんて頷いた。
今回のように犯罪に使うのだったら、車の外傷を気にする必要は無い。いや、流石に大きく損傷させたら目立つだろうけど、扉をこじ開けて強奪するくらいなら、そこまで大きな傷にはならないはずだ。……それこそ何か、外傷を与えるような異能力を使えば、短時間で、的確に、扉を開けられる。
犯人は全員、異能力者。彼はそう言っていた。
すぐさまパソコンに向き直る、私と言葉ちゃん。……しかしそんな私たちに、忍野さんはあっさりと。
「ま、今回は時間切れだ。ホシとあの馬鹿が乗ってる車の種類は、俺から尊大智の方に伝えておいた。だからそれ以上の情報収取は不要。……後は地上の2人に期待することだな」
その言葉に、私たちは思わずその場でずっこける。振り返ると、忍野さんは涼しい顔をこちらに向けてから、もうここに用はない、とでも言うように踵を返した。おいテメェ!! と言葉ちゃんがその背中に叫ぶ。しかしそれでも忍野さんには暖簾に腕押しであるようだ。
彼はくるりとこちらを振り返ると、相変わらず冷ややかな視線を携えつつ告げる。
「今教えたことは、今後の考え方の参考にしろ。鶏みたいにすぐに忘れんじゃねぇぞ、エリート高校の生徒お2人サマ」
それと同時、鼻で笑われた。だがすぐに真顔に戻ると、地上に行くぞ、早く来い。と命令を出してくる。今度こそ彼は、真っ直ぐ歩いて部屋を出て行った。
「……ッ、やっぱあいつ、超うっぜーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!」
……そして部屋の中には、言葉ちゃんのそんな絶叫が響き渡った。
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