灯子と言葉の異能力

「……それに、僕だって君を警戒してないわけでもないしね~」

「……?」

「わかんない? ほら」


 そう言って言葉ちゃんは……私と繋ぐ手を、ブラブラと大きく揺らした。


「伊勢美灯子。


『A→Z』、『有を無に帰す』能力。

 そして、『Z→A』、『無から有を取り出す』能力。

 ただし異能力の範囲が及ぶのは、自分の手で触れられるものだけだ。……まあ、誤差範囲で触れられそうなものにも効くみたいだけどね」


「……で?」

「僕が手を繋いでいれば、君は勝手な行動が出来ない。僕の手を無理矢理振り払って……それこそ例えば、僕の手を跡形もなく消してしまうとか。そんなことをするようなら……僕は君を危険だと判断し、容赦なく、君を始末する」


 彼女は、そう言って、笑った。いつもと同じ笑み。それが……あまりにも美しいから。

 とても狂っていた。


「……じゃあ良かったですね。その機会は訪れませんから」

「ほんと~? 良かったぁ。君と戦うのは、骨が折れそうだからねぇ」

「……私は、文字通り貴方に骨を折られそうな予感がしますが……」

「えぇ~~~〜!? とーこちゃん、僕のこと何だと思ってんの!? 僕が怖い人みたいじゃん~~~〜」

「……さっきの自分の顔を鏡で見てから言ってください……」


 変やら。

 煩いやら。

 お人好しやら。

 カッコいいやら。

 しっかりしてるやら。

 凛々しいやら。

 怖いやら。……。

 ……混乱するから、統一してくれないものか。


「じゃ、どーせ歩いてるだけだし、次は僕の異能力の話でもするかぁ!!」

「いえ、興味がないです」

「気になるよねぇ~~~〜!! あの!! 優秀な!! 生徒会長様の!! 異能力なのだから!!」

「……勝手にしてください」


 止める方が時間の無駄だ。

 諦めた私と対照的に、彼女は光が溢れんばかりの笑顔を携えて、続ける。


「小鳥遊言葉。


 その異能力は……『Stardust』!! 見てたらわかるかもしれないけど、『文字を操る』っていう、シンプルな異能力だよ~!!

 基本的どんな文字でも操れるけど、やっぱり自分の書いた文字が一番操りやすいよ~。かつ、この異能力はねぇ……僕が、思いを込めていればいるほど、強くなる!! ね、素敵じゃない?」


 何か、謎の感想を求められた。興味がない、とは言いつつも、しっかり聞いていた私は、その発言に真顔を返す。


「……つまり、貴方に溺れるほど好きな人がいるとして、その人への想いを書いて操ったら、それはすごい強力になる……ということですか」

「う、うん……そうだね……? 何その具体的な例……」

「……恥ずかしい人ですね」

「しかも罵倒された!?!?!?!?!?」


 そ、そう言われたら、恥ずかしくなってきた……と、言葉ちゃんは私から目をそらす。……今私、何気に、この人を初めて言い負かしたのでは……。

 そこで私は、ココさんと持木くんのことを、思い出した。……持木くんが好きだという、ココさん。

 ……やはり私にはどうしても、縁遠いものだ。


「……言葉ちゃんって、モテそうですよね。好きな人とか、付き合っている人とか、いるんですか」


 別に興味は無かったが、私はふとそう問いかけた。あくまで話の流れだった。……まあこの人に恋人の影なんて見たことないし……いるわけないと思うけど。



「いないよ」



 瞬間。

 思わず私は、その声に勢いよく顔を上げた。そこにある、言葉ちゃんの表情は。


「……ん? どーしたのっ?」


 やはり、いつもの明るい笑みで。


「……いえ、意外だなって……」

「まー、確かに僕、美人だしね!!」

「……自分で言いますか……」

「大事な両親からもらった顔だもーん!! 誇って何が悪い!!」

「……」


 もはや言い返すのも面倒で、私は何も言わずに、視線を前に戻す。


 ……正直、少しだけ驚いてしまった。

 ……「いないよ」、と答えた言葉ちゃんの声色に……少しの感情も、乗っていなかったから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る