第15話『一人の異変』

「心が洗われるようなひとときだったわねぇ」

 オリーブが言うと、ミルラがくりっとした目で上目遣いに言った。

「オリーブさん、意外な本読んでますね」

「そう? 装丁が気に入って買ったんだけど、確かすごくナチュラルな恋愛観のラブストーリーだったよ。あ、思い出した。主人公が男性で、花に和するって書いてハナカズっていうの。あと陽を介するって書いてヨウスケでしょ。風が佳いでフウカ。女性ね。もう一人が慈しみの雨の子でジウコ。この四人の四角関係なの」

「へぇ、それがドロドロしてないんだ」

「そうなのよ。風通しがいいラブストーリーってそんな感じ」

「その本、今も持ってます? 読んでみたいなぁ」

「いいよ、貸してあげる。確か本棚の奥の方にあったはず。探してみるから」

 どうやらミルラはオリーブを見直したらしかった。

「トゥーラさん!」

 急に女性メンバーから緊迫した声が上がった。

「どうしたの?」

 メンバーの一人、シエナ(4班・平面者・23歳)がお腹を抱えてうずくまっている。

 周りがどよめいている中、連絡したフィリア(4班・平面者・25歳)が状況を話す。

「なんだか朝から辛そうで……早退したらって言っても聞かなくて。どんどん真っ青になっていくし、見兼ねて……」

「ありがとう、フィリア。シエナ? 原因に心当たりは」

「……すみません、トゥーラさん。よくわかんないです」

「そう……オーラを見る限りでは第二チャクラ、子宮に問題があるみたいなのだけど」

 シエナがハッとして頬に朱を走らせる。

「簡易ベッド出したよ。横になってみたら?」

 オリーブもやってきて様子を見る。

「立てる? シエナ」 

 トゥーラに付き添われたシエナだったが、突然吐き気をもよおしてトイレに駆け込んだ。

 このシチュエーションにピンとこない女性は一人もいない。

「もしかすると……」

「かな?」

 トゥーラとオリーブが話していると、メグが言った。

「あの、これ使ってください」

「? なにこれ」

「妊娠検査薬です」

「……なんで持ってるの?」

「彼氏がいたら必需品ですよ」

「そ、そうなの⁈」

 オリーブもトゥーラも面食らう。

 やがてシエナがトイレから出てきた。顔色が青いのを通り越して白くなっている。

「大丈夫? ちょっと騒がしいけど、ベッドに横になった方がいいよ」

 オリーブに言われてシエナが縮こまる。

「すみません……」

 トゥーラがベッドまでついていって、話を促した。

 すべて話し終わると、シエナは涙を流した。

「どうしよう、これから……彼、来週まで帰ってこないんです」

「私たちが力になるわ。とりあえずご両親に報告できる?」

「実は付き合いを反対されてて……堕ろせって言われるかも」 

「その心配が一番よくないわ。彼氏さんにまず報告しましょう。……お腹をさすってごらんなさい、あなたは一人じゃないわ。あなたをお母さんに選んでくれた、かわいい赤ちゃんが宿っていることを、誇りに思っていいのよ」

「はい……」

 涙をポロポロこぼしながら、愛おしそうにお腹を撫でさするシエナ。

 トゥーラはその頭をそっと撫でて安心させる。

「……女性しかいなくてよかったね」

 メグが小声で言うと、パティが肩を竦めた。

「油断しすぎよ」

「そんなこと言うもんじゃないよ」

 オリーブが同情を込めて言った。

「おめでとうって言ってあげようよ。シエナはこれから大切な女性の仕事ができるんだから」















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