第14話『男たちの正体』
夕方5時——仕事が終わって、タイラーは三人を呼んで、ささやかな慰労会をすることを申し出た。
NWSリーダーたちには共有してあった。
空気がむんむんと暑い中、外のオーニングの下で冷たいビールを呷る。
「プハーッ、うんめぇ!」
三人のうちの一人、ノリヒトが快哉を上げる。
「やっぱり汗かいた後のビールは最高だな」
二人目、ルイも口についた泡を拭って言った。
「いい仕事だよなぁ」
三人目、トーマスも同感のようだった。
「ところで三人はどこの団体に所属してるんだ?」
タイラーが聞くと、三人は顔を見合わせた。
「実は俺たち三人とも、今日ここに来たばかりなんだ」
「えっ、というと?」
トーマスの言葉にポールが聞き返す。
「ところでここはどこなんだ? 気持ちのいい場所だな」
なんと場所すらわかってなかった。
「えーっと、君たちはどこから来たんだい?」
改めてポールが聞くと、ルイが答えた。
「俺たちはメーテス郊外で農家やってんだ。田んぼに出て寄り合いしてたらここに来てたんだ」
「——熱中症か」
「そうらしいね」
マルクとアロンの合点がいく。
「じゃあ、炎天下で働かせちゃまずかったんじゃ。挙句にビールって」
キーツが言うと、タイラーが三人に尋ねた。
「どこも具合悪くないか?」
「いや、まったく」
三人とも平然としている。
「ここは不思議なところだな。野菜が畑じゃなくて建物から出てくる」
ノリヒトが深く考えずに思ったことを言う。
あちゃーとリーダーたちが頭を掻く。
「マルク」
タイラーがマルクに説明を促す。
「お三方、因果界と言われてわかりますか?」
「いや……」
ノリヒトは眉根を寄せたが、トーマスとルイはぎょっとした。
「因果界ってあの……オカルトに出てくる、現実と映し鏡の世界とかいう異世界のことか?」
「まさか、ここがその因果界とかいうんじゃ……!」
トーマスとルイは既に顔面蒼白である。
「大正解——!」
ポールとキーツが能天気に言って顰蹙を買う。
「異世界? なんだそりゃ!」
事態を把握していないノリヒトは一人あっけらかんとしている。
マルクが事情を説明する。
「お三方は寄り合いの最中、揃って熱中症に罹って意識が朦朧としている時に、この因果界に来てしまったと考えられます。ここは因果界の童話の里です。思想、万世の秘法のパラティヌスの拠点にあたります」
「おお、そんじゃパラティヌスのどっかなんだな? こんなところがあるとは知らなかったぜぇ」
ノリヒトの明るさに反して、どんどん青くなるトーマスとルイ。
そこで、ノリヒトにだけ集中して説明するのに30分要した。
目の前でリーダーたちがスイカやメロンを作ったことが決定的だった。
それでようやくノリヒトにも、ここが因果界なのだと納得できたのだった。
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