第10話『ポールの述懐』
その頃、童話の里の宿泊所では、ポールが青い顔をしてベッドに横になっていた。
トゥーラは簡易キッチンで材料を自分の部屋からテレポートで取り寄せて、小さな土鍋で牛乳粥を作っている。
プワーンと漂う牛乳の甘い匂い。日向の匂いがする優しい肌触りのリネン。自分を看護するために料理するトゥーラ。
(いいなぁ……)
つかの間の安らぎに浸るポール。長い独身生活のほんの華やぎだった。
彼は気づいていなかったが、まるで作家に締め切りを守らせる編集者の如きテレパスの問い合わせがぱったり止んでいた。
トゥーラがトレイに土鍋を載せて、ゆっくり振り返った。
熱々の湯気が揺れている。
「お待たせ、ポール。熱いから気をつけて」
優しい微笑みに目頭が熱くなりながら、ポールは起き上がってサイドテーブルを寄せた。
ゆっくり手を合わせる。
「……いただきます」
それは至福の時だった。
かつてトゥーラが自分のこんなに優しくしてくれたことはない。
ずいぶん前の話になるが、一目惚れして告白したこともある。
玉砕だったが、NWSでともにリーダー職に就いてからは、ぎくしゃくもせず交流してきた。
大人なんだから――そう言い聞かせてきた。
こんな形で報われるとは思いもしなかった。
粥に染み込んだ牛乳のように、トゥーラの優しさがいっぱい溶け込んでいた。
泣きながら食べた。
「——うまい」
「……そう、よかったわ」
「うん、冷えた胃が温められる感じ」
「……」
「トゥーラは料理も上手なんだね。いいお嫁さんになるよ」
「私のことより、まず自分のことを大事にして」
「えっ」
ちょっと怒っているトゥーラに目を見張るポール。
トゥーラは目に鋭く涙を溜めて言った。
「テレパスで押しかけられてるでしょ。無断で悪いのだけど、シールドを張らせてもらったわ」
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