第4話『紅森』
ルビーウッズ、マーカー・ランス班/ツリー・ルイス班
作業開始から10分が経過した。
腕時計型のオービット・アクシスには、マーカー・ランス班104本/0.001㎢、ツリー・ルイス班37本/0.0001㎢と表示されている。
全体ではマーカー班553本/0.024㎢、ツリー班155本/0.008㎢くらいである。
ランスとルイスは手分けして現場の安全確認をしつつ、メンバーの状況に気を配る。
メンバーは女性ばかりだが、初めての班編成が効いているのか、問題とされていた7班と9班の女性たちも非常に協力的だ。
「……順調な滑り出しですね」
ランスがルイスに話しかける。
「はい、紅森は一番作業しやすい場所ですから」
ルビーウッズでガーネットラヴィーンで必要だった体重減殺も必要ない。
「下生えの低木がとても多い場所ですし、地盤もそれだけ安定していますからね。危険動物の活動も制限されて、私たちの仕事には大変有利ですが、こういうところには逆に幻獣が棲み処にしているものなんですよ」
「どんな幻獣が棲んでいるんでしょうか?」
「
そこに「キャッ」と誰かの悲鳴が聞こえた。
「どうしました⁈」
ルイスが慌てて声の主を辿ると、7班の女性だった。
「す、すみません。ネズミが横切ったので、びっくりして……」
「わかりました、作業を続けてください」
「修復しているのはナラ類ですからね。どんぐりを求めてネズミやリスくらいは普通に出ますよ」
「それもそうですね」
ランスはオービット・アクシスで気温を確認した。
「-7℃か……雪山の気温ですね。でも、さっきより2℃下がってる。アルペンディー大山脈の吹き下ろしのせいか。私はこんなものを用意したんですが」
ランスがテレキネシスから取り寄せたのは使い捨てカイロだった。
「皆さん、気合いを入れて防寒対策なさったでしょうが、意外と盲点なのがお腹の冷えです。お腹を下しやすくなりますし、血流も悪くなる。私はこれから様子見がてら、カイロを配って歩きます。よかったらルイスさんも配りませんか?」
「えっ、いいんですか」
「ええ、人数分はありますから……」
「はい、ではお言葉に甘えて」
ランスから渡された人数分の使い捨てカイロを持って、ルイスはメンバー一人ひとりをテレポートで見回って歩く。
ランスの読みは当たっていた。
メンバーは早くも指先がかじかんで、火の精霊を呼んで暖を取りながら作業していた。
手袋をしながらではツリーリジェネレーションの精度が下がるからだが、予想以上に吹きっさらしの風が冷たい。
ランスからの差し入れだと言って使い捨てカイロを渡すと、みんな迷わず服の上からお腹に貼った。
防寒対策は個人に任されていたが、雪山の気温を想定していた者は少数で、みんな雪山を甘く見ていた、と口を揃えた。
明日からはカイロを用意します、と言いながら仕事に戻った。
素晴らしいサポート力に、ルイスはランスを尊敬するしかなかった。
テレポートして元の場所に戻ってみると、ランスはオービット・アクシスを操作中だった。
「あ、ルイスさん。皆さんどうでしたか」
「はい、みんな仕事の不明点はないんですが、寒さは思った以上で、カイロを手に持ってランスさんを拝んでました」
「そうでしたか、お役に立ててよかったです」
「ランスさんは何をしていたんですか?」
「これですか? ルビーウッズの気温変動を記録するために、班の皆さんのオービット・アクシスと同期していたところです。後で参考にしてもらおうと思って」
「なるほど……俺もそうしていいですか?」
「ええ。それから今日は初日ですから、防寒対策を改めてもらうのに外出許可を出しました。パラティヌスよりカエリウスのホームセンターの方が、雪山対策は充実してますから。我慢できない時は迷わず防寒着を購入してもいいことにさせてもらいましたよ」
「ええっ、それじゃ能率が落ちてしまうんでは……」
「何でも最初が肝心です。我慢して体を冷やしたら士気まで冷え込んでしまいます。それに風邪を引いてしまったら……それこそ能率どころではありませんよ。みんな思い思いの恰好をしたらいいんです。その方が安心できますし、逆に能率も上がりますからね」
「……俺ももう一回、みんなに外出許可を出してきます」
「わかりました、みなさんによろしく」
ランスの柔和な笑みに見送られて、ルイスはテレポートした。
俺もまだまだだな、と反省を込めて。
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