第4話『赤峡谷・2』

 ガーネットラヴィーン、マーカー・キーツ班/ツリー・ポール班

 マーカー班9人、ツリー班12人の女性20人男性1人のメンバー相手に、ポールが声を張り上げる。

「全員、作業管理ソフトを起動! 同期完了までの間、二、三注意事項があるのでよく聞いてくれ」

 森閑とした森の中では、声がよく響く。

「作業進行はオービット・アクシスが管理しているが、俺たちが安全確認した区域の域外に入ると、振動するように設定されている。その際は即報告してほしい。これがまず一つ目。二つ目、休憩は2時間おき10分間の休憩を許可する。場所は個人に任せるが、根張りの太い木や岩盤などの安定した地盤で休憩するように。最後に三つ目、不明点は必ず報連相を徹底するように。今日が初日だから、対処しきれないときは遠慮なく申し出てくれ。何か質問は?」

「はい」

「どうぞ、パティさん」

「はい。体重減殺の有無をオービット・アクシスの判断に任せてはいけませんか? この作業管理ソフトなら、危険区域の地盤も把握できますから、判断に時間を取られないと思うんです」

「——この短時間によくそこまで確かめられたね」

「最新の地図データをリロードしましたから間違いありません」

 確信に満ちたパティの顔が眩しい。

「それ、メンバー全員に同期できる?」

「もちろんです。3分時間をくだされば」

「わかった、よろしく頼む」

 ざわざわしていた女性メンバーがデータの同期を確認した。

 キーツが声を張り上げる。

「マーカー班は、置き型マーカーの作業マニュアルの最終確認をしてください。確認した人から作業開始を許可します」

 それを合図にマーカー班は2分以内にテレポートで散った。

 10分後、トゥーラの班と同じく、182本/0.009㎢とオービット・アクシスに表示された。

 キーツは半眼状態で透視しながら、現場安全確認作業に入った。 

 ポールがツリー班に号令する。

「ツリー班も作業開始! 各自、進行プログラムに従ってくれ」

「はい!」

 こうして、パティもミルラも、コノミもユチカもメリッサも、勇気を携えてテレポートで消えた。

「いやいや、噂以上か。パトリシア・プレイナー」

 ポールが舌を巻いていると、ランスからテレパスで連絡が入った。

(すごいでしょ、パティさん)

(はい、ちょっとドキドキしますね。美人だし)

 そこへ、マルクからもテレパスが。

(パティ君からアイコンが表示されてるぞ。これは何だ?)

(最新の地図データのリロード許可申請だよ。ガーネットラヴィーンでの

体重減殺の有無をオービット・アクシスに一任できるんだって)

(——わかった、全員に通達する)

(よろしくー! いやホントすごいわ)

(アヤさんと競い合ってますからね。特にパティさんはソフト面で非常に優れた提案が可能な、テクニカルアドバイザーなんですよ)

(えっ、じゃあ作業管理ソフト製作に参加してもらえばよかったんじゃ……)

(まずはポールさんにパティさんを推してもらいたくて。私じゃ藪から棒ですし、第一説得力がないでしょう?)

(そ、そんなことありませんよ。ランスさんも人が悪いなぁ。こんな戦力を隠しておくなんて)

(このことはまた今度、是非時間を作ってお話ししましょう。それでは……!)

「いや、参ったなぁ」

 ポールが大いに照れていると、今度はトゥーラからテレパスが。

(鼻の下が伸びてるわよ)

(あれ、トゥーラ。聞いてたの?)

(いい気なものね)

と、唐突にブツッとテレパスが切れた。

「——何だよ!」

 わけがわからず、ポールが髪を掻きむしる。

「ちょっと、色気出すのもいい加減にしなよね」

 今度はキーツが割り込んでくる。

「ポールの分まで安全確認してるんだから、さっさと仕事に戻ってよ」

「持ちかけてきたのは、ランスさんだぜ?」

「ランスさんが色事を持ちかけるのは、ランスさん自身が困ってるからじゃないの?」

「あ、なーる。あったまいいー、キーツ」

(こら、おまえら、いい加減にしろよ)

 今度は御大、タイラーのお出ましだ。

(どうでもいい雑談で会合するな。逐一、童話の里で記録されてるのを忘れるなよ)

(いけね)

 ポールが大袈裟に首を引っ込めた。






 


















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