第3話『ナタルの諦めとポールの失態』
「なんか、トゥーラ個人のパーソナルカラーコードっていう、マイク型の検索機があってね。音声入力でワードを絞り込んでいくんだって。例えば三行以下は除くとか、文学とか医療なんかの別分野を外したり、情報が古すぎるのも避けるらしいんだけど。そういう情報処理能力がないと、てんで歯が立たないし、役に立たないんだよね」
「へぇ……」
ナタルの話を聞いた、タイラー、ランス、ルイスは、おそらく自分が行っても同じく役に立たないだろうと思った。
「ナタル、残留組の受付係でしょ。急いで!」
トゥーラの手伝いをしていたオリーブが、遠くからナタルを呼んだ。
「はいはい、今行くよ」
ナタルが行ってしまった後で、ポールが合流した。
「やれやれ、こってり絞られた。アインスさんに」
「アインスさんに?」
ルイスが問い返す。
「そう。5班の野郎どもが、アインスさん行きつけの会員制バーで談合してたのを見つかったらしくてさぁ」
アインス・エターナリストは長老を補佐する修法者で、実質上、童話の里のお目付け役である。
「話が見えねぇな。初めから説明しろ」
タイラーに言われて、ポールは頭を掻いた。
「それがさぁ……」
リーダー会議があった昇陽の一月清祓の五日、夜のことだった。
今年の仕事を不参加にした5班男性メンバー6人を呼び出したポール。
酒も交えて理由を聞こうと、選んだ場所は居酒屋『ぼんくら』。
黒い仕切り壁で囲まれた個室で、気持ちよくビールを呷って、十分喉を湿らせてからお題を切り出す。
「ところで……君らはどうして、カエリウスの仕事をキャンセルしたわけ?」
途端に6人はどっちらけになってしまった。
「……忘れたんですか、ポールさん」
そう言ったのは、5班のNo.2を自認するエイダス・プレイナーだった。
「ご、ごめん。やっぱり俺、なんか言ったの?」
「これだもんなぁ」
「ホント、勘弁してほしい」
プラトとヤンセラも続く。
縮こまるポールに、エイダスが説明する。
「去年の香静の二十五日のことですよ。5班メンバーの打ち上げパーティーの席で……」
「君たち、仕事は常に創造性を探求するべきだよ」
ポールが演説を始める前触れは、手酌で純米酒を桝に注いだ時と決まっている。
「位階が低いからって、そのレベルでしか物を見なければ、ルーティンワークのようにつまらない仕事しかできなくなる。これを脱するためには、鳥俯瞰者や修法者の気持ちになって仕事することなんだよ。その気になるってこと、おわかり?」
――こういう時の対処法は、女性メンバーが心得ていて、酒を注いでやると上機嫌になってベラべラ話し出す。彼女たちは戯言としか受け取らないで黙殺するが、男性メンバーはちょっと違う。ポールの傾向と対策として、彼の好む計画行動を心掛ける。そうしないと、後でいちいちほじくり返されるのだ。彼らだって酒の席のたわごとで右往左往するのは嫌だ。が、ポールの言うことに分があるのか、従うといい出目がでることが多い。
そこで、今回はどうしようかと相談していたところ、アインスに会ったのだ。
「アインスさんに事情をお話したら、「君たち、農業実習をしながら、障害者の就労を支援する仕事をしてみないか?」って誘っていただいたんです。ちょうど新しい事業所を起ち上げるところで、鳥俯瞰者の研修にも利用されるからニーズも満たせる
って。わかりますよね、渡りに船ですよ。その場でお願いしますって申し出ましたよ」
「……」
右手で両目を覆うポール。完全に自分の落ち度である。
「ポールさんにはアインスさん自ら説明するって言ってました。まだお話はないんですか?」
「あ、いやわかった。たぶんあれだ」
「あれ?」
「うん、いいんだ。酒の席のことで迷惑かけて悪かった。今日は思いっきり飲んで、就労支援の仕事頑張ってな」
「——で、アインスさんに、5班の監督不行き届きとルーズな金銭感覚、さらに飛躍のしすぎで、大目玉を食らったと」
タイラーが諳んじると、ポールは腕で目を覆った。
「今、俺より情けない思いをしてる人間がいたら会ってみたいよ」
「『禍を転じて福と為す』じゃありませんか? 一年後、5班の男性メンバーが戻ってきた時には、班全体のレベルアップに繋がるじゃないですか」
「そうですよ」
ランスとルイスはそう慰めたが、ポールは楽観視していなかった。
「詰めの甘さで泣きを見てるのが、せいぜいじゃないのかなぁ」
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