第3話『NWSの士気』
昇陽の一月祈束の九日、月曜日。
朝9時に集会所前に集合したNWSメンバーは、班ごとに整列した。
挨拶はマルクから。
「おはようございます!」
「おはようございまーす!」
長い休暇明けで、準備万端な者、やる気がみなぎっている者、はたまたスロースターターで瞼が腫れぼったい者、機嫌が悪い者など、いろいろな様相だった。
6対4だな、とマルクは判断した。
「年末年始の長期休暇で、各自思い思いの楽しい時間を謳歌したと思う。しかし、年始早々のアンケートにあった通り、今年はカエリウス・炎樹の森での害虫防除対策の仕事となる。賢明な諸君におかれては、予習や準備を怠っているようなことはないと信じる」
「え――っ!」
「研修するんじゃないのかよ」
こちらはいきなり未対応な者8、万全な者2の割合になった。
「ちょっと、聞いてなーい」
「計画タイトすぎ!」
ぼやく女子の呑気さに、6班のできる女、パトリシア・プレイナーが一言。
「そんなこと、計算すればわかるでしょ。リーダーに頼ってばかりだから、そういうことになるのよ」
「……」
「新聞読んどいてよかったぁ」
「セーフ」
早くも差がついてしまっている。
立派なのは8班のメンバーで、彼らはアンケートが来た時点で、合同の勉強会を開いて対応している。リーダーのタイラーがやれと言ったわけではない。何でも自主的にやっていかないと、タイラーの高い要求に応えられないのだ。
「勉強不足を自認する者は、明日、トゥーラ主催の講習会が開かれる。参加希望者は開会式の後に申請するように」
マルクが妥協案を言ったことで、とりあえずその場の騒ぎは収まった。
「今回の参加者86名については、詳しい内容説明がある。この後にアロンのところへ集まってくれ。それから、残留組21名の業務については、ナタルから説明がある。仕事開始日は昇陽の一月和歩の十六日からだ。清々しくスタートを切った者も、出遅れた者も、同じ視点・意識が持てるように奮励努力するように。以上!」
わっと声が上がって、大半の者がトゥーラのいる机の前に並んで、申請書に名前を書いていった。
「あーあー、毎度のこととはいえ、情けない光景だね」
キーツが頭を振り振り言った。
「というか、対応の早い8班以外、全滅の勢いじゃないですか?」
ルイスは冷や汗が出る思いだった。10班のメンバーは全員、トゥーラの前に並んでいる。
「たぶん、知識の補強という意味合いもあると思いますよ。私の班の方々も、全員並んでますから」
ランスの言う通り、列の中には先ほどのパトリシア……パティの姿もあった。
「トゥーラの仕事資料の正確さには定評があるからな」
タイラーが腕組みしながら、トゥーラの人気ぶりを眺める。
「そうなんだよね、今回、トゥーラに同行して、国立図書館に行ったんだけど、本当に目から鱗だったよ。まず、位階者専用の貸し出しフロアがあることすら知らなかったし……」
ナタルが三日前、茶瑞の六日を振り返る。
「知らなかった、こんなところがあったなんて……!」
専用エレベーターを使って、関係者以外立ち入り禁止のエリアに入ると、まるで巨大な図書館がもう一つ上にあるような構造になっていた。
いや、よく見て見ると天井が突き抜けていて、ずうっと上の方まで本棚が聳えているのだった。
「ナタル、IDカードを持ってる?」
トゥーラは慣れているだけあって淡々としている。
「あ、うん」
ナタルは慌てて財布の中からIDカードを取り出して、トゥーラに手渡した。トゥーラはIDカードを読み取りリーダーに読み込ませて、閲覧可能にしてからナタルに返した。
「トゥーラ、もしかしてここって、因果界と繋がってる?」
「そうよ、万世の秘法の関係者だけが利用できる図書館で、主要宮廷国、つまり七か所の国立図書館が同じ構造をしているの。真央界に限らず、因果界、降霊界の記録が閲覧可能な場所なのよ。もっとも、位階によって、見られる記録にも限りがあるんだけど」
言って肩を竦めるトゥーラ。
「でもさ……こんな膨大な本の中から、どうやって目当ての本を探すの?」
視線を彷徨わせるナタルに、トゥーラは司書に依頼して、カシノナガキクイムシ全般、という検索ワードを伝えた。すると司書はオービット・アクシスを駆使してエンターを押した。次の瞬間、パッと背表紙がワインレッドに発光した。ありとあらゆる分野からカシノナガキクイムシに言及した書籍をピックアップしたのである。
「……というわけで、あまり探し回る必要がないのよ」
トゥーラは苦笑して、ナタルに次の指示を出した。
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