第12話 ファントム事件簿⑪
「な、何を言い出すかと思えば。先ほども言いましたが、私が春菜で、交通事故で他界したのが妹の夏希」
「だったらどうして、この場所でエクステンドの使用が確認されたんだい?」
「――え?」
自身の言葉を遮られるように発せられた雅也のその問いに、戸惑いを浮かべる春菜。すると、雅也はポケットからスマホよりもやや小さい板状のものを取り出した。
「これはエクステンド測定器っていってね、エクステンダーが能力を使用しようとしたときに体内から発せられる能力の粒子、EPエクステンドパーティカルを観測するための器機さ。これの測定端末を、調査初日に校内の至る所に隠しておいた」
そう告げ、雅也はおもむろに春菜の目の前にある花壇に目をやった。その視線の意味するところを察し、春菜は弾かれたようにその花壇の土を掘り起こす。すると、そう深くないところに、爪楊枝ほどの長さをした棒状の器機がそこに埋まっていた。
その機器を手に取り、苦虫をかみつぶしたように顔をゆがめる春菜。
これが本当に雅也の言うような測定用の器機なのかは、無論、春菜には分る余地もない。けれど、結果として雅也の示した場所からそう思われるものが出てきたのだ。それだけで、春菜を追い詰めるには十分だった。
「さぁ、分かったかい? なら諦めておとなしく」
そう口にし、春菜に向けて雅也が一歩踏み出した時だった。
ビィィィィィィイイイイ!
突如として、闇夜に響くけたたましいアラーム音。
発信源は、そう、雅也の持つエクステンド測定器だ。
「まだ、まだアンタたちを倒せば!」
まるで咆哮。叫び、春菜が雅也たちに向けて右掌を向ける。するとそこにピンポン玉ほどの大きさの火の玉が浮かび上がり、それは次第に大きさを増し、バレーボールほどの大きさの火球となった。
「邪魔するんだったら消えて!!」
雅也に向けて放たれた火球。しかし、慌てた様子もなく右掌をその火球に向けようとした瞬間、背後から襟を掴まれて勢いよく引きずり倒された。
「この程度の状況で使おうとするなんてバカですか、所長。このために私がいるのでしょう」
理緒だ。つい先ほどまで一歩後ろで控えていた理緒が、雅也を引きずり倒して前に躍り出たのだ。それと同時、迫りくる火球に向けて右人差し指を向けると、その指先でバチっという電気が爆ぜるような音がし、電撃が放たれた。
一直線に放たれたその電撃は、迫りくる火球に直撃。ごく小規模な爆破が起き、砂煙が舞う。
依然として尻餅をついたままの雅也は、目の前の勇敢な部下の背中を見上げ、小さく息をつく。
「それじゃあ理緒くん、頼んでいいかい?」
「はい。無力化したのち、拘束します」
オーダーを受け、眼鏡をはずして胸ポケットにかけた理緒が地を蹴った。春菜に向けて一直線に向かっていく。対して、春菜は半錯乱状態。迫りくる理緒に向けて連続で火球を放つ。
けれど、先ほどと比べて小さく、コントロールもされていない。
「その程度の攻撃、いくらしたところで無意味です」
最早回避するまでもなく、火球はあらぬ方向へと次々と飛んでいく。威力もなく、他に燃え移ることなく消滅した。
一気に距離を詰めてその懐に入り込んだ理緒は、春菜の右足に右手を当てる。
「スタン」
その右手から放たれるごく微量な電撃。けれど、それは人体を麻痺させるには十分なもので。悲痛な叫びをあげて春菜はその場に倒れこんだ。
その様子を確かめた理緒は息をつき、眼鏡をかけ直して苦悶の表情を浮かべる春菜を見下ろした。
「さぁ、終わりです。大人しくしてください」
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