第11話 ファントム事件簿⑩

「本当に彼女が犯人なのでしょうか? あまりにも非現実的な気が」

 日が落ちた午後7時。一部教師や生徒のみが残っている立花高校の校門近く。雅也と理緒は、そこにいた。

 部下の疑問に、雅也は宵闇に視線をやり。

「そりゃぁ確かにね。けど、残念ながら集めた情報からは彼女がそうとしか考えられない。それに、現実的だろうと非現実的だろうとそれで彼女を止めることが出来れば」

 そこまで口にした時だった。続く言葉をスマホのアラーム音が遮った。

 一瞬にして二人の間に緊張が走る。雅也は自分のスマホを取り出し、ディスプレイを確認した。

「どうやら動いたみたいだ。理緒くん」

 雅也のその言葉に頷き、校門――正確には、校門の両脇に設置されている監視カメラへ手を向ける理緒。すると、ややあってバチっという音が鳴ったかと思うと、監視カメラが煙を上げた。

 それを確認し、先陣切って雅也が校内に突入。校門右手にある校舎の方へと向かう。

「所長、場所は?」

「校舎裏の園芸場付近だ。」

 続く理緒にそう返し、目の前に見えてきた校舎の脇を通過して校舎裏へ回り込む。

 すると、そこにいた。園芸上の花壇に向けて掌を向けている女子生徒が。

「園芸部員達が端正込めて育てているんだ。それ以上はいけないなぁ」

 不意に投げかけられた雅也の声に、女子生徒はピタリと動きを止め、二コリと笑みを浮かべて振り向いてきた。

「あら、こんばんは。こんな時間に学校に侵入していることが理事長に知られたら、今度こそ警察を呼ばれてしまいますよ?」

「心配いらないよ。連続ボヤ事件の犯人である君を捕まえればね。生徒会長の久遠春菜――いや、久遠夏希」

 久遠夏希。その名前を前にして女子生徒、いや、春菜は驚きに目を見開いた。しかしそれも一瞬。

「どうしちゃったんですか、笠原さん。アタシの名前は久遠春菜。夏希は亡くなった妹ですよ」

 小首をかしげる春菜。しかし、雅也たちはその問いかけには応じず。

「初めはね、外部犯を疑ったんだ。なにせ在校生と教師には発火を起こせそうなエクステンダーが存在していなかったんだから。けれど、そうなるとなぜ毎回ボヤ騒ぎで収まりそうな場所のみ発火が起きるのかが謎だった。校内を知っていないと無理な犯行だからね」

「だからこそ、私たちは捜査範囲を在校生や教師の家族、そして卒業生にまで広げ情報収集し始めました。そうしたら、何人か該当しうる能力を持ったエクステンダーは存在しました」

 理緒の言葉に、春菜はパンと手を打ち。

「でしたら、その中に犯人が」

「けど、それはない。君だって知っているだろう、校門の他、数か所に設置されている防犯カメラのことを。不審者が侵入していたら、僕らにお鉢が回らず学校内で解決しているはずだ」

「そんな折です。あなたの家で亡くなった久遠夏希のことを聞いたのは」

「だからこそ調査し、ある一つのことが分かった。そう、彼女が炎を操るエクステンダーだったということが」

「何が……言いたいんですか?」

 苦虫をかみつぶし、視線が鋭くなる春菜。そんな彼女に、雅也はビシッと指をさした。

「二年前に交通事故で亡くなったのは、本当は姉の久遠春菜だったんじゃないのかい?」



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