2022.10.5(wed)物理の小テスト



「この小テストも評定に入りますからね」

うえ、と菜都奈は呻く。

物理の授業。始まりの挨拶と共に、長谷川が唐突に「机の上をシャーペンと消しゴムだけにしてください」と言った。テストだ。


菜都奈は内心冷や汗を掻きつつ、必死で前回までの授業を思い出そうとする。が、ダメだった。覚えてることといえば、飯塚が一口サイズに握ってきたおにぎりを食べていたことだけ。着々と進化していた飯塚の早弁は、菜都奈の密かな楽しみだったのだ。対岸の火事が飛び火した気分だった。


開始の合図と共にプリントをめくる。内容はさっぱり分からない。ただでさえ数学が苦手なのに、物理は単位すら変化球だ。最早手のつけようがない。

菜都奈は計算問題はすっぱり諦めて、適当な数字とあやふやな公式を隅に書いておいた。空欄で出すよりいくらか印象はいいはずだ。


続いて虫食いの穴埋めに取り掛かったが、これは暗記をしているかしていないかだ。思い出せなければ、いくら考えても分からない。そして今、菜都奈の頭を占拠していたのはオーズとボミー。物理の介入する隙など雀の涙ほどもない。覚えている単語も心許なかった。



「はい、終了! 後ろの人、プリントを集めてきてください」

長谷川の声で菜都奈は我に帰る。

「ぜんっっっぜん分かんなかった……」

自業自得ではある。テスト二週間を切っているのに、菜都奈は寝る間を惜しんで漫画を読んでいる。


頭を抱える菜都奈を見た長谷川は「まあ、」と苦笑いで最初の言葉を訂正した。

「評定に入るっていうのは小テストの点数じゃなくて、このテストを踏まえてどれだけ中間テストで頑張れたかを見る救済措置です。今回の小テストが駄目だった人は中間テストで挽回してくれれば、評定的にはプラスになります」


「この小テストから中間テストに出る問題あるんですか?」

「三十点分くらいは出しますよ! だから小テストを勉強してくれば赤点にはならないはずです。頑張ってくださいねー」

長谷川は優しく「大丈夫」と付け加えた。

菜都奈はほっと一息ついて背もたれに寄りかかった。

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