2022.9.7(wed)展示のテーマ決め
一眼レフを構えてシャッターを切る。
カシャリ、と耳に気持ちいい音が一眼レフの好きなところだ。菜都奈は所属する写真部で久々に活動をしていた。部活動会議に行った部長と副部長は不在だ。残り三人の部員で、もう何度も撮った風景をまた撮影している。校庭ではサッカー部が練習をしており、菜都奈たちは鮮やかな水色のユニフォームをカメラで追っていた。
この後は野球場、テニスコート、そして体育館だ。
文化祭での部活動は、写真の展示と当日の撮影だ。今年の展示は共同と個別がある。共同ではみんなで学校生活の風景を撮ることになっている。個別は好きなテーマに沿って写真を五枚展示するらしい。菜都奈はまだ何も決めていない。
「ねえ、個別のテーマってもう決めた?」
菜都奈が何気なしに尋ねると、蒼佳は首を振った。
「まだー。なーんかさー、テーマ決めて写真撮るのって難しそうだよね」
「去年は違うことしたみたいだし、どんな風にしたらいいか全然分かんないし……あ、耕介先輩は分かりますか?」
菜都奈が振り返ると、耕介は校舎から出てくる生徒をローアングルから撮っている。
「ちょっと待って…………いいよ、何?」
「その撮り方好きですね」
「うん。見えてるものを見えてるように撮るのって、俺はつまんないと思うんだ。やっぱ一眼で撮るならさ、普段見ない角度からとか、何気ないものを拡大してみるとか、背景をぼやけさせるとか……日常を非日常みたく撮った方が、断然面白いじゃん」
確かに、耕介は六月の写真で紫陽花を拡大して花束のように撮影していた。あの写真は綺麗で不思議だった。
「あ、もしかして耕介先輩の個別のテーマってそんな感じなんですか?」
「あー、そうだね、そうしよ」
耕介はカラリと笑って早々にテーマを決める。
「いいなーテーマ決まって! 菜都奈はまだ考え中? 思いついた?」
「まだだけど……蒼佳はあれにしたら? ほらあの、七月にやってた色縛りのやつ」
写真部は月に一回、第一週の水曜日にみんなで撮影会をするのだ。他の水曜日は各々で撮った写真を印刷したり、コンテストに出す写真の準備をしたり。あまり他学年の部員と一緒に行動することは少ない。
その少ない月一回のタイミングで、六月に副部長がやっていたのが『色縛り』。六月だったこともあって青色のものだけの写真だ。
被写体から背景から、全ての色を青色に縛り、色の鮮やかさと個々の微細な違いを目で楽しむための写真。それが面白そうで、蒼佳も真似をして七月の写真は黄色で縛っていた。
「あ、それ面白そう……副部長に聞いてみてオッケーだったら色縛りにしよっかな……!」
「いいね、じゃあ後は私か……どうしよう」
「菜都奈は七月は犬撮ってたよね? 飼ってるんだっけ?」
「あれは幼馴染が飼ってる犬でダウっていって……そっか、ダウ縛りもいいかもな……」
「いいねーアイドル犬! 人気あると思うよ」
「うん、尽に聞いてみよう……。あー! テーマ決まってよかった! 一気に課題から解放された感じ」
菜都奈が背伸びをすると、耕介が可笑そうにカメラを向ける。
「課題の撮影はこれからだろ。もう終わった気になってやんの」
「いーじゃないですか。テーマが一番難しいんですよ」
「じゃテーマが決まったということで、サッカー部の写真は撮った? そろそろ野球部行くよ」
耕介がサッカー部に撮影が終わったことを伝えに行く。菜都奈は校舎の時計を見て空の色を確認した。野球部とテニス部の写真は明るいうちに撮り終えないと。あまり悠長に喋ってばかりもいられない。
菜都奈と蒼佳は野球部に向かう耕介の背を追った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます