2022.9.8(thu)夕焼け帰り道



昇降口で上履きを脱いで下駄箱に仕舞う。入れ替わりで出したローファーを履きながら、菜都奈は歩き始める。春から苦戦して、ようやく足に馴染んだローファーは、すっぽりと足にはまって履きやすい。

菜都奈は大股で学校前の坂道を登った。

と、前を歩く特進科の白いシャツが目に入る。普通科のシャツは青色だからすぐに見分けがつく。白いシャツの後ろ姿には見覚えがあり、その既視感もすぐに分かった。


「柊先輩!」

菜都奈が呼びかけると、前を歩く柊が立ち止まって振り返った。

「! 菜都奈ちゃん、奇遇だね。今帰るところ?」

「はい。先輩も早いですね、特進科って七限あるんじゃないんですか?」

「火曜と木曜はないよ。俺たちが帰り被るの珍しいよね。尽は一緒じゃないんだ?」


「尽とは朝は一緒に行きますけど……時間合わせてまで一緒には帰らないですよ」

「そっか、いいね」

特進科の一年と思しき女子が、坂を走って柊に挨拶をする。柊が片手を上げて応えると、女子たちはキャッキャッとはしゃいで小走りで行ってしまった。その姿を見送りながら「そういえば」と話を変える。

「文化祭の準備は順調?」


「はい。クラスではプラネタリウムをやることになって、写真部では個人展示のテーマが決まったとこです。尽に許可ももらったんでダウ展やるんですよ」

「楽しそう。俺は部活入ってないから、何にもやることないんだよね」

「特進科はクラスの出し物ないんですもんね。ずっと授業ですか?」


「うん、そう。文化祭当日はフリーだけど、学校中がお祭りムードの中、授業続きだとつまんないなーって思うよ」

「文化祭は準備期間も楽しみのひとつですからね。今からでも部活入ればいいんじゃないですか?」

「また無茶な……二年の秋から部活に入っても来年の春には引退だよ。俺にはそんな勇気ないなあ」

「えー、そうですか? まだ半年もあるじゃないですか。それに柊先輩が入部したらみんな喜びそうなのに」

菜都奈は唇を尖らせる。

「……うん、菜都奈ちゃんのその考えは俺すごい好きだよ。羨ましい」


「写真部とかどうですか? 活動ゆるいし、そんなに負担にならないと思いますよ」

二年の耕介先輩なら、柊が入部してもきっと気にしない。それどころか懇切丁寧にカメラの使い方を教えてくれるだろう。

ただ放課後、たまに集まって写真を撮る。そこに大きな勇気は必要ない。

柊は目を眇めて坂の下に沈んでいく夕日を眺める。

「うん、本当、羨ましい。好き」

「! なんか語弊のある言い方ですね」

思わず目を見開いた菜都奈の顔を見て、柊は「あっはは」と笑い飛ばす。揶揄い方が意地悪だ。


どうにも腑に落ちないが、菜都奈は追求するのも野暮だと、柊の視線の先を追った。学校に続く坂の天辺から見える夕焼け。

菜都奈は中学の時に来た学校見学で、この景色に惚れた。この夕焼けを見ながら過ごす高校生活に憧れた。七草高校への入学を決めた一番の決め手だ。そういうと両親も風輝も尽も呆れていたが、菜都奈は直感を信じるタイプだ。


実際入学してみると、夕焼けを眺めて下校するのは後ろ向きに歩かないと無理だと簡単な勘違いに気付いたが、そんなもの、今みたいに振り返ればいつでも見られる。菜都奈の進路を決めた景色だ。

隣で立ち止まったままの柊も夕焼けに見惚れていた。

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