2022.8.30(tue)夏休みの宿題を終わらせる
二十九日までは休みモードだった夏休みも、三十の大台に乗るといよいよ終わりだと実感する。菜都奈は小中学生の時は、夏休みの終わりはこの世の終わりの如く感じていた。けれど高校生になってみると、あれほど嫌だった来たる九月一日が平気になっていた。
というのも高校では九月から文化祭の準備がある。漫画でしか見たことのない文化祭。初めてである。
そんなこんなで宿題も終わっているし夏休みが終わるのも苦ではない菜都奈は、今までに感じたことのない大人の余裕を楽しんでいた。
そして隣の部屋から聞こえてくる苦悶の呻き声を聞き、いっちょここは姉らしく差し入れでもしてあげようかという気になった。
菜都奈は高校裏にあるケーキ屋まで自転車を飛ばした。店内は涼しくて甘い匂いが漂っていて、それだけで菜都奈は深く満足する。それなのにショーケースの中のケーキを一つだけ選ぶことができない菜都奈は、今日も今日とて自分用のケーキを三つ買った。プラス風輝と啓介の分も買って、保冷剤が溶けないうちに、と自転車を飛ばして家に帰った。
菜都奈は風輝の部屋を肘でノックする。両手にはいちごのタルトとチョコレートケーキ。二人の好みは把握している。呻き声の返事を聞くと、菜都奈は器用に肘でドアノブを押し開けた。
「お姉さまからの差し入れだよ。進捗はどう?」
「うおー! 菜都奈姉ちゃんありがとー! 俺チョコ食べていい?」
机に突っ伏していた啓介が想像以上に喜んでくれる。
「もちろん。はい、風輝も」
「……ありがと」
小皿を受け取った風輝はケーキを一気に半分頬張る。タルトの形に膨らんだ頬が面白い。菜都奈は止められる前に、と光速で写真を撮った。
「! 何撮ってんだよ」
「いいじゃん、可愛いんだもん」
「可愛くねーよ。消して」
「嫌。ほら、早く宿題やっちゃいな。明日は遊ぶ時間ありそう?」
「今日中には終わる。啓介は?」
「う〜〜ん…………俺も、多分終わる……」
「よしっ。じゃあ明日どこ行きたいか考えときな!」
啓介は喜びと苦しみの狭間から覗く奇天烈な表情で、
「え〜〜と、水族館……?」
小学生らしい答えである。風輝は啓介に気付かれないように眉毛を上げた。中二男子の夏休み最終日なんてベットの上でゴロゴロして終わりそうなものだ。菜都奈は同級生が自慢風に話しているのを聞いたことがある。
それに比べれば水族館。爽やかで賑やかで最高だ。
菜都奈は半分面白がって風輝にウインクを飛ばした。
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