2022.8.28(sun)南インド料理屋から
今日は七草市花火大会の本番、花火が打ち上がる日だ。そして尽と、花火が見える絶好の穴場スポットへ行く日。
菜都奈は昨日と同じ浴衣を着ると、花火が打ち上がる三十分前に家を出た。尽も昨日と同じ格好をしている。尽が開口一番に、今更だけど……と躊躇いがちに言い、
「よく考えたらさ、昨日と今日と、料理ちょっと被ってるよね」
「でもナンじゃないよ。私は平気」
「それならよかった。僕も全然」
駅前の賑やかな通りから裏に一本入った小道。そこにひっそり店を構える南インド料理屋がある。店名はなぜかヒンディー語で書かれているので読めない。
この料理屋は細いビルの五階にあり、心許ない階段を上った先にのれんを出している。もちろんビルの外には立て看板が出してあるが、立ち止まっている人は見たことがない。
案の定今日も、菜都奈たちが店に入ると暇そうなインド人店主が「ドウゾ」とメニューを持ってきた。
この店の窓際が絶好の花火スポットなのだ。
「今年も座れてよかったね。あ、私はノンベジのミールスで」
「僕も同じのをください」
ノンベジとはベジタリアンか否かである。いろんな小皿に入ったカレーやヨーグルト、パラパラの細長い米、薄いエビ煎餅みたいなのはパパドというらしい。このプレートをミールスという。南インド料理の定番だ。
ミールスを食べ始める頃には、花火も打ち上げの時間になっていた。店内までドン、ドン、と微かに音が聞こえる。テレビで見るみたいに、視界を遮るもののない綺麗な景色。店主も空いている窓際の席に、腕を組んで座り「ワアオ」と花火を眺めている。
カレーは涙が出るほど辛いが、その辛さが癖になる。事あるごとに店主が「ラッシーのむ?」と勧めてくるので一杯もらった。
菜都奈は花火をちらりと見て、またカレーを頬張る。尽も隣でヒイヒイ言いながら無心でカレーを食べている。
結局、菜都奈たちは花より団子、花火よりカレーなのだった。
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