2022.8.27(sat)縁側の花火大会
今日は花火大会だ。七草市花火大会は菜都奈の家から歩いて三十分ほどの七草市民公園で開催されている。
菜都奈は昼過ぎにようやく浴衣を探し始めて、待ち合わせの十六時ギリギリまで支度をしていた。かんざし、巾着袋、下駄。菜都奈が一つずつ確かめている横を、ラフなTシャツ姿の風輝が「お先」と通り過ぎる。
待ち合わせ場所は菜都奈の家の前だ。尽は既に来ていて、菜都奈の浴衣を見ると破顔した。
「女の子は浴衣カラフルでいいよね。僕もかんぴょう色じゃなくてワクワクするやつ着たいな」
「私もさ、この浴衣もう何年も着てるし、来年は二人でめっちゃ派手なの着たいね」
毎年夏の終わりの花火大会は尽と遊んでいる。今年も例に漏れず、することは同じだ。
七草市花火大会は土日に開催されるが、花火が打ち上がるのは日曜のみで、今日は屋台があるだけだ。けれど人は多く、トイレも座る場所も確保するまでが大変だ。だから土曜の花火大会では屋台の食べ物をありったけ買い込む。そして尽の家の縁側で買い込んだものを食べながら、手持ち花火をするのだ。
「私、水曜に花火やったんだよね」
「え、本当? 楽しかった?」
「うん。けどテニス同好会の人たちもいて、ほとんど初対面だったからちょっと緊張した」
「あ、もしかして良平先輩もいた?」
「いたいた。狂ったように花火で遊んでたよ」
「あはっ。先輩はねー、すごいよね」
チョコバナナ、じゃがバター、焼きそば、リンゴ飴。
七草市民公園は人でごった返している。
菜都奈は尽と手分けして買い物をしようと別れると、人混みを縫って進んだ。
お好み焼き、イカ飯、わたあめ、ベビーカステラ。
花火大会の日だ、財布の紐は巾着のようにガバガバだ。菜都奈は片っ端から買い込んで尽と合流した。尽も晴れやかな笑顔で両手いっぱいにビニール袋を持っている。
菜都奈と尽は急いで家まで引き返し、買ってきたものを縁側に並べて歓声を上げた。
「カレーとか売ってたんだ! ナン食べるのいつぶりだろう」
「チョコバナナ形崩れなくてよかったね。結構持ち帰るの難しいものとかあるけど、僕たちもうテイクアウトのプロだよね。あ、ダウはそっちで見てて。花火危ないから」
ダウは尽の飼っている柴犬の名前だ。ダウッダウッと吠えるのでダウと呼ばれている。機嫌の良さそうなダウは、尽が焼きそばを食べつつ花火の準備をするのを、興味深そうに眺めていた。
菜都奈もカレーを食べる。本格的なバターチキンカレーだ。近所のカレー屋が出店していたのだろう。焼きそば、たこ焼き、お好み焼き。菜都奈は順繰りに食べる。
尽は怖がるくせに毎年すすき花火をやりたがる。うわ、おわっ、と叫びながらも楽しそうな尽を眺めて菜都奈はチョコバナナを食べた。少し満腹になってきたので菜都奈も線香花火をやりに庭にしゃがむ。
すると玄関の方から「おおい」と声がかかった。
「あ、竣先輩いらっしゃい」
「お邪魔します。菜都奈ちゃん、こんばんは」
「こんばんは。来ると思いませんでした、柊先輩人気者だから、こういうイベントの時って引っ張りだこじゃないんですか?」
「何人かに誘われてはいるけど。今日は早めに抜けてきたんだ。ここで楽しそうなことやってるの、知ってたから」
「そうなんですか。まだまだいっぱいあるんで食べてってください」
線香花火が落ちたので、菜都奈ももう一回戦食べに戻る。イカ焼きと炭酸ジュースがよく合う。
「っぷはー! ほんと、楽しいね尽!」
「だね、おわっ」
火の粉から飛んで逃げようとするから、跳ねた時に新たな火の粉が舞うのだ。尽も分かってはいるのだろうが、脊髄反射には抗えない。何回も繰り返す尽の奇妙なステップに、菜都奈は腹が捩れるほど笑った。隣で柊も堪えきれずに笑い、ダウも一緒になってダウッと吠えた。
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