74-「予想外の人物に疑われてる。状況は完全に僕の不利」①
水沢上中。みずさわかみあたる
高校1年6組。サッカー部。
1年生ながら、優秀な人物が欲しいとのことで、生徒会役員に抜擢された。
超イケメンで彼女持ちである杉野山はレギュラーになれなかったのは、この水沢上中がレギュラーになったからだった。
杉野山とトップを争っていたのは、水沢上だった。
1年でレギュラーって相当なはず。
運動神経は抜群だ。
それに勉強もできる。
前に学年2位は古今泉ちゃんって言ったけど、実は中間テストで学年1位はこいつ。
こいつの話は聞こうとしなくても情報が入ってくるくらいだった。
彼女はいない。
入学当初は超絶女の子から言い寄られたようだけど、本当に誰とも付き合う気がないようで、付き合ってる彼女はいない。
付き合ってる彼女はいない、なんて言い方だけど、噂によれば、彼女はいないけど、はべらかす女たちはいるんだとか。
いや、それは流石に盛りすぎだと思う。
夏祭りで焼きそば屋のバイトしている大学生が、気合を入れて盛りに盛っちゃうくらいの盛り具合だと思うけど。
あまりにもスペックが高校生の理想か!ってくらいだったから、何か欠点がないか僕の方から探したところだった。
で、見つかった欠点はそこまで愛想が良くないってところ。
でも、まぁ、それでも、最初は女の子に言い寄られてたくらいだからねぇ……。
(今の噂についてはノーコメントで。もう知らん)
いやいやいやいや。
体育館の仕掛けの仕組みとか、今日の僕への襲い具合から考えて、もっと頭を使ってない、もっと簡単な相手だと思っていたのに。
急にラスボス相手じゃん。
いや、ボスだとも思ってなかったよ。
水沢上の方は相手が僕だということには気づいているだろう。
どう出る?
何があってもいいように気を張ってはいたが、先に仕掛けられた。
急に縄が出てきた。
僕が気づいたときには一巻されたかと思うと、あっという間にグルグルと締められてしまった。
「こんな所で何してるんだ」
と水沢上が言ってきた。
それはこっちも知りたいかなー。体育館で幽霊騒ぎが起こるのを調べようとしていただけなのに、何で水沢上くんに止められちゃうかなー。
ていうか、縄。僕にいきなり巻きつけてきたんだけど。
もう能力者は私ですって言ってるようなもんだよね?
水沢上くんに遭遇した瞬間、一抹の望みを託したんだけどなー。水沢上くんは今日たまたまここに居合わせただけで、体育館のガラスが割れた音がしたから、こっちに来た、みたいな。
でもそーすると、何でこんな時間に学校残ってるの?って話になるしね。
やっぱり水沢上くんが僕を狙ってたことになるよね?
「水沢上くんこそ何でここに?」
「俺は筋トレをしていたら、ガラスの割れた音がしたからここに来た」
いやー。僕の思った通りだったなー。
やっぱりたまたま学校にいて、ガラスが割れた音がしたから、こっちに来たんだ〜って!!
これは一抹の希望通りになったかな()
「ねぇ、何で僕縛られてるの?」
「不審者だと思ったからだ」
「……」
……そうか。そうだよね。普通に見てたら僕の方が不審者のように見えるか。
確かに、6月に服装がこれだし。
その下には実はプロテクターを付けてるし。
縛り付けられて不利な状況になっちゃった。
顔がわからなかったから僕がじっとしたまま射程範囲に入っちゃったのが原因だな。でも、ロープ持ってるなんて普通思わないじゃん。
仮に持っていたとしても、相手をちゃんと観察してたら避けられると思ってたんだけど。
僕は僅かながらの抵抗を試みる。
「ガラス割ったのは僕じゃない」
そう。これは本当。ガラスは割ってない。
「何か知ってるのか」
「えっと……」
知ってはいる。知ってはいるけど。でも。
冷静に判断しよう。
僕は事前の予想は外してしまったけど、今は水沢上が探し求めていた能力者だと思っている。確信とまではいかないが、6割程度はそう思っている。
だから、僕がするべきことは水沢上がボロを出すのを待つか、こっちからボロを引っ張り出すか。
でも正直、あの水沢上が自らボロを出すとは考えづらい。
が、僕が出し抜けるかどうかもわからない。
今日までの雑な細工や僕の追い詰め方などを考えたら、超絶スペックの高校生が実は抜けてました〜
みたいな展開もあるかもしれないが。
水沢上が能力者だとしたら、僕が標的だったことはわかっているはず。だから、僕の方としては、変に隠してボロを出すより、正直に喋った方がいい。
「僕が体育館に忍び込んでた時、外からコンクリートブロックが飛んできて、ガラスが割れたんだって」
「……」
沈黙が訪れた。
いや、ホントのことなんだけど。
まさかまさかの嘘と思われてる?
……本当に水沢上くんじゃないのかな?
あ、いや、何でお前は体育館に忍び込んでんだ?の疑問の方かな。
「誰か怪しいやつを見なかったか?」
数秒の沈黙の後、水沢上くんは話を促すよう会話を繋いだ。
「見てないよ」
強いて言うなら水沢上くん本人だけど。
「見たよ、水沢上くん。君をね」のように皮肉めいたセリフを言うのを一瞬頭を掠めたが、変に挑発しても状況を悪化させるだけなので、言うはずもなかった。
それに服装、状況、出てきたところ、その他諸々が僕の方が不審者だと雄弁に述べていた。
僕が「僕にとっては水沢上くんが不審者かなー?」と言っても事態は好転しそうにない。
「ねぇ、縄解いてくれない?」
「疑いが晴れるまではダメだ」
うへぇ……。
これは、まずい。
もし仮に水沢上が僕の敵じゃないとしたら、本当の敵をmiss miss逃してしまうことになるし、今の状況が述べてる通り、水沢上が敵であるなら、完全に自由を奪われた形になる。まな板の上の鯉だ。
ロープで縛られたまま、僕は体育館に連れられていく。
ペットの犬の散歩でももうちょっとマシな扱いだろうに。
水沢上と僕は入り口付近にやってきた。
入り口は勿論鍵がかかっていて開いてないので、入れない。
「鍵は持ってないのか」
「鍵は持ってないです」
思わず敬語になる。
「どこから忍び込んだんだ」
「窓です」
「どこの窓だ」
「体育館の壁の」
「あの小さいやつか。格子がある」
「そうです」
「なるほど」
と言ってまた僕は連れられて行く。
いたずらをした小学生が近所の家の窓を割った後に怒られる気分ってこんなのかなー。
いや、何度も言うけど僕は窓を割ってはいないけど。
「あそこか」
窓が見えるところに来ると水沢上は言う。
暗くても割れた様子は分かった。見えにくいのは間違いないが。
水沢上は割れた窓を観察し始めた。僕を捕まえたまま。
「……お前ここから出てないな。どこから出た?」
恐らくだけど、ガラスの破片は内側に入っているにも関わらず、外側に出た様子がなく、ここから出たというには不自然な状況を見て言ったのだろう。
あるいは元々知ってたか。
「トイレです」
「入ったのはここからで、出たのはトイレからか」
「そういうことです」
と僕が答えると、水沢上はまた僕を連れて移動し始めた。
ぐい、と引っ張られてバランスを崩しそうになる。が、僕なら全然余裕。腕も使えないけど、すぐに持ち直す。
「ちょっと、どこ行くの?」
「職員室だ」
「あー」
当然の流れだ。下手したら警察を呼ばれるだろう。
もう逃れる方法はないのか?
僕が変に隠すより、とは思ったが。
せめて水沢上が能力者なのかどうかくらいは、確認したかった。
何か方法はないか。
「ねぇ、中にカメラがあるんだけど」
「盗撮か」
「僕がしたわけじゃない」
歩みを止めない。
「指紋が取れるかも」
「それは警察の仕事だろ」
あのカメラは君のじゃないの?と揺さぶりをかけようとしたが、歩みは変わらない。
歩みは止まらないが、話しかければ会話はしてくれるようだ。
「いやね、僕あのカメラ怪しいと思ってるんだ。浮いてた。ドローンとかならモーター音があるはずなんだけど、モーター音なしで浮いてた」
「ん?」
水沢上は喉を鳴らすかのような微かな反応を見せた。
「しかも僕を追いかけるくらいの精密な動きもしてて。不自然なんだよね。まるで誰かが直接操ってるかのような」
「……」
今度は逆に言葉を返してくれなくなった。さっきまでは律儀に返していてくれたのに、逆の反応をするということは、何かあるということだ。
思い当たることがあるのかもしれない。
「アレは超自然的な能力が絡んでると僕は見てる」
無理矢理因縁をつける。
相手が能力者だということを前提とした喋りであるならば、これくらいか。
もっと踏み込むか?舌戦は僕の得意とするところではないけど。
「更に現れるタイミング。僕の足取りがわからなくなったから、直接確認しようとしたんじゃないかな」
このセリフは、水沢上が能力者なら、お前が犯人だろ、と言われていると感じるはず。
ここらでもう一アクション。水沢上が想定していないことをできれば。
その反応によっては、一般人を装っている水沢上の仮面は剥がれるかもしれない。
無理筋でもいい。無理矢理つなげて行く。
そう決意した瞬間
「やっぱり何か知っているようだな」
水沢上は僕の方に向き直り、そう返した。
その表情は先程とさほど変わっていなかった。
顔から何かを読み取るのは上手くいかない。
僕の思惑通りいかないな。そう簡単には手がかりを落としてくれない。
でも。
僕のペースは崩されたが、それでも水沢上からの新たなアクションを引き出すことが出来た。
後はこのロープ。どうにかできれば。
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