75-「予想外の人物に疑われてる。状況は完全に僕の不利」②
水沢上からの反応は勝ち取ったとしても、ここからの打開の仕方は何もわからない。
もし水沢上がテレキネシスの能力者だとすると、腕から縛られて近接戦すら封じられた僕が取れる方法は?と言ったら逃げることだけだ。
僕は既に僕の知る限りの情報を話してしまった。
ここから新たに相手を動揺させるには、更に踏み込んで、推測をぶつけなければならない。
そしてその推測は当てずっぽうであっても、それなりに正確さがないと意味がないだろう。
僕の中では十中八九、水沢上が能力者だ。
能力なんて話に食いついた時点で確定だ。
だが、能力者であることがわかったとしても、ここから逃げおおせることが出来なければ、ダメージを負う。
ダメージを負うことは我慢して受け入れられたとしても、致死的な攻撃もしてくるので、下手をすれば死んでしまう。
流石に死ぬことは許されない。
これは僕自身の是非というよりも一族の中でも、ということだ。
一族の最高傑作として生まれた僕が、ここで死んでしまって、そこまでの人間だった、では済まされない。
いや、なんというか、死の可能性があるところまで引っ張ってしまったのも僕であるから、死んだとしても自業自得だが。
まぁ、死ぬというのは大袈裟にしても。
考えうる限りの最悪のパターンだとしても、可能性は低いだろう。
水沢上は理性がある人間だ。
行き過ぎた正義を持ってない限り、暴走はしないだろう。
だから、この状況から逃げることを選択する。
え?この状況から入れる保険があるんですか?みたいな状況なのは確かだが、何とかして逃げ出す。
僕の全ての能力を使ってでも。
さきほどの「やっぱり何か知っているようだな」に対する返答から会話を再開する。
「だからさっき言ったように、僕以外の人物が窓を壊したんだって」
その壊した人物は君でしょ?
と言外に含ませた言い方にした。
水沢上がこのまま僕を犯人扱いしようとしているだけだとは思ってないけど、僕が水沢上を巻き込もうとしていることは伝わったはずだ。
このまま職員室に行って僕を犯人として突き出したとしても無駄な争いを産むことになる。
水沢上も僕との対話を続行することを選んだようだ。
こちらに向き合った。僕を見つめたまま、何か思案をしている。
ようやく相手を僕の方に少しだけ引きずり込めたかもしれない。
大学生対幼稚園児の綱引きは、大学生対小学校高学年くらいになった。
「黙らせるしかないか」
いや、下手するとゾウとアリの戦いになったかも。
眠れる獅子が目を覚まし、死せる豚を食い殺す、みたいな。
もしかして、水沢上くん、暴走癖持っちゃってます?
「暴力は良くないと思う」
我ながら、なんてありふれた言葉を吐いてしまったのか。
忍者たるもの、いかなるピンチの時でも余裕をかませ、というのが僕のモットーでもあるのに、こんなありきたりな、そして誰もが止まることのない言葉を吐いてしまうなんて。
それだけ余裕がないという証拠だ。
まぁでもまだ縛られたまんまだしね。
普通に考えれば余裕はないわな。
でも水沢上辺りなら、もしかしたら、余裕がないフリをしているのでは?くらい考えてくれるかもしれない。
「人に振り下ろすような拳は持っていない」
水沢上は先ほどの言葉とは違って爽やかな印象の言葉を出した。
でも安心はできない。
能力のことを考えたら、直接手を下すことなく、水沢上は僕に致命傷を与えることができるかもしれないから。
「殺すの?」
水沢上は僕に返事をせずにケータイを取り出して連絡し始めた。
そうだ。僕も誰かに連絡できれば……。
誰かに、というか、木々村くんに……。
敵は水沢上だと。
幸いなことに手首は縛られていない。
ポケットには手が届いた。
けど、腕は動かせないからロック画面開けなさそう!
連絡は無理だ!
逃げるしかない。
隙を突くしかない。
僕は本気を出せば割りかし脚が速い方だ。縄で縛られている今どれほどの力を出し切れるかわからないが。
僕は走った。
走る上で腕のストロークが大事なのは百も承知だ。
学校の外に出れば、木々村くんがいる。
2秒ほど。
水沢上は出遅れた。
僕がまともに走れれば、いくらサッカー部レギュラーの水沢上でも追いつけなかっただろう。
だが、今は縄で縛られていた。
だから、走れなかった。
上手く走れなかった、ではない。
水沢上が僕が逃げ出したのに気づいた瞬間、僕は地上から浮いていた。
これだ!
「やっと尻尾を出したね」
僕は笑いながら水沢上の方を見た。
水沢上は能力を使ったのだ。
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