68-「話したことない相手にいきなり恋愛相談する?」


「いやな、前から凪元と話せたら話そうと思ってたんだ」

僕にジュースを奢るため、コンビニまで一緒に歩く間に、澤河仁は切り出した。

「前は、最初は暗かったって聞いてたけど、いつの間にか今みたいな感じだっただろ?ある時期から急に変わったって。

何かあったのか?」


何かあった、と言えば、木々村くんが、僕をいじめてたやつらを懲らしめて、轟剛力雷斗を倒したことだ。

あれで、僕はいじめられてる役をやる必要なくなった。

だから、わざといじめられるような暗い雰囲気をなくし、今のように割りと素を出してる。


「入学してから目をつけられてさ。いじめられてたけど、そのいじめが終わったからかな」


「あー。そうだったのか。いじめか…」

「うん」


「いやさ、凪元が人気出始めた理由というか、そう言うの聞きたかったんだけど……。

なんというか変なこと聞いて悪かったな」


「いや、いいよ」


なるほど。わざわざ奢ってまで話を持ちかけたのは、そういうことか。

人気が出たかどうかは諸説あるけど、人と交流を持ちやすくなったのは確かなことだ。



「俺もモテたいなーと思ってる訳ですよ」


澤河仁が言うこれは本気だろう。僕は学校中の生徒全員の情報を覚えている訳ではないが、この澤河仁剛樹が、べらぼうに女の子にモテているという訳ではないことは知っている。(モテているという情報が入ってきてない、と言った方が正しい)


まさか恋愛相談を僕に持ちかけられるとは全く思ってなかった。

僕もまともな恋愛経験がある訳ではなかったので。


でもある程度はまともに対応すると決めたばかりだ。

実りのあることを返せるかというのは疑問に思うけど、対応はしよう。


「そうだね。全男子高校生の夢と言っても過言じゃないよね」


「そーだろ。やっぱり、男はそーじゃないとなぁ」


「誰か好きな人がいるの?」


「いきなりそれ聞いちゃう?」


「相手が誰か気になって」


「いや、特に誰、とかはないんだけど」


「ないんかーい」


と、少し大袈裟に勢いをつけてツッコミを入れてみたものの。

いや、これは嘘な気がする。澤河仁に今、戸惑いが見えた。

実際に誰々が好きというのを公表するのは、ちょっと抵抗がある。

それが見えた。


だから、多分実際に好きな人はいそうだ。

誰だろうか。名前を聞いたら多分わかるだろうけど、交友関係まで把握しているわけではないのでここまでの情報で誰かは想像できないな。


「俺も高校生になってから彼女の1人や2人、すぐできると思ってたんだけど、中々難しいモンだな。杉野山とか普通に作ってるのに」


杉野山というのは、杉野山義明羅。

確かにイケメンで、サッカー部に入ってて、女の子からは人気の出そうなヤツだ。ナイスガイ。噂によれば、レギュラーにはなってないようだけど、それなりに上手いらしい。

サッカー部の1年の中では、トップを争うくらいだとか。

どうでもいい話だけど。


だけど、そうか。杉野山は誰を彼女を決めたのか。

人物相関図とか、もうちょっとまじめに調べ上げてもいいのかもしれない。

何の役に立つかはわからないけど。


役に立つかわからないと言いつつも、

そういったプライベートの相関図も実は大事だったりする。

僕の場合は、単純に楽しくて人と接してる部分もあるけど、そうやって人と接することによって今回の体育館での出来事みたいに僕の仕事になりうるモノに出会うことができるんだよね。

そういった意味で情報収集は欠かせないもの。

そのことはみんな異論ないとは思う。

実際のところ、何が当たりかわからないものを延々と集める作業というのは結構辛い。

でも、辛いけども、やり続けないといけない。

何と言っても僕は一族の最高傑作と名高い存在だから。



だから僕はこうやって澤河仁とも会話を続けるのさ。



会話を続けたけれど、そっから特別なことは何もなかった。

本当に。

この世の中に対するどうでもいい愚痴を吹き溜まりの中に放り投げるかのような言葉を僕に向かって吐き出して、僕はそれをキャッチしてはゴミ袋に入れるかのような作業だった。


実際に誰が好きなのか、は本当に僕に言うつもりはなかったみたいだ。

当然か。


それがあれば幾分かマシになってたかもしれないのに。

ゴミ漁りから廃品回収くらいの有意義さにはなっていたかも。


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