66-「夜の学校」
(凪元視点)
外のことは木々村くんに手伝ってもらうこともできるけど、基本的に学校内での出来事は能力の痕跡まで僕の方で見つけなければならない。
まぁ、学校外でも木々村くんの探知能力は、能力使った直後じゃないとわからないらしいけど、でも、能力を使った後の不自然さとかが割りとわかるみたい。
やっぱり今まで見てきた数が違うのかもね。
怪異の痕跡を見つけるのは術式が使えて得意だけど、能力の痕跡を見つけるには僕の場合、地道に探して検討しなきゃいけない。
僕一人では、怪異が生まれたことはわかる。けど、その原因がわからない、みたいな。
そんな感じだった。
そういう感じなので、僕だけで調べるのには時間がかかる。
今回調べていたのは、バスケの朝練をする謎の人物、みたいな。
朝練に行くと、必ず、バスケットボールが体育館のコートに落ちてるんだって。
それだけだから、大した話ではない気もするんだけど。
でも、実際に去年の夏の大会前に死んでしまった生徒がいたっていうから、その生徒の幽霊じゃないか?って噂になってる。
今年こそは夏の大会に出場するために練習してるんだって、そんな噂が。
その子は2年生レギュラーだったから、人一倍部活にかける情熱が強かったというか。
だから、もし生きてたら今年3年生で、最後の大会なので、必死になってレギュラー取るために練習してるって。
まぁ、噂だけなら何の問題もなくて、バスケ部のみんな、霊に負けないように頑張ろうね!で済むんだけど。
困ったことに、最近、その子が本当に呼ばれて出てきそうなんだよね。実際に、見たって思う生徒が増えてきた。
そんな風に見たって思う人が増えれば増えるほど、本当に現実化しちゃう。
段々と実体化してきちゃう。
そうなると、みんな練習怖くてできなくなっちゃうから、僕が何とかしないとなって。
実際、その子とはコミュニケーション取れたんだよね。
生きることに未練はない様子だけど、何故だか呼び出されちゃったって。
この前の洋館の少女のように、縁もゆかりもないところに呼び出されたわけじゃないみたいだから、結びつきは強い。
勝手にいなくなることはできない。結びつきが強いから、前のように僕が無理矢理この場所から繋がりを切るってことも難しい。
いくら僕が50年に1人の天才だとしても。
それほどまでに結びつきは強くなってる。
彼としては、むしろ、みんなに練習に集中してもらって、今年こそは県大会突破して、地区大会に出て欲しいって。本当はそう思ってるんだって。
なんて出来た幽霊なんだ、って思うけど。
でも、本人のそういう涙溢れる思いとは裏腹に。
彼は噂による怪異の働きを全うすることになっている。
本当に朝練しちゃうし、授業後の部活にも時々出ちゃうんだって。
抗えない。
そういう強制力を持っている。
これを解決するには結びつきを弱めないといけない。
だから、まずは噂の現場を調べていた。
体育館。
最初のきっかけは、バスケットボールが体育館のコートに落ちていたこと。
そして、朝練をしている最中に、どこからかははっきりとしないが、またボールが転がってくる。
でも、部員の誰かがやった形跡はない。
そういうことが続くと嫌でも、霊的なものに責任を帰したくなる。
霊的なもの、と言えば、もしかして件の男子生徒?という風になるには、そこまで時間がかからなかったそう。
6月にそういうことにはなっていた。
僕が学校外の調査で忙しくしている間に噂は育っていた。
木々村くんが学校内の調査の手伝いはできないとわかり、僕が学校内のことに専念しないといけない時に、ここまで育ってしまった。
というわけで僕は、原因を確かめるため、誰かが体育館に忍び込んだりしないか?などを確かめるため、明日学校があるにも関わらず、体育館を調査する。誰かが密かに入り込んでないかとかを。
部活が終わり、学校から生徒がいなくなり、辺りが夜の帳に沈む頃。
獲物を狙う腹を空かせた肉食獣のごとく、暗闇に身を潜め、獲物がかかるのを待つ。
居間でテレビを見ている中でモスキート音を聞き分けるかのごとく、耳を澄ます。
気分は夜の街並みで仕事をこなすスナイパー。
実際に必要なものは、銃のような獲物ではなく、この身一つだけど。
最初の起こりが幽霊の仕業というわけじゃない。起こりは人為的なもののはず。だから、何者かが何らかの方法で体育館に侵入していると思われる。
体育館の柱の物陰に身を潜める。夏の虫の音色が静かに響く。
時折聞こえる人の足音。学校外の人のもの。
その度に集中力のゲージが一気に振り切れる。
一時的に興奮したセンサーを元に戻すクールダウン。
興奮と沈静を何度も往復し、疲労は蓄積するが、その蓄積が僕を強くする。
期待と落胆を繰り返す張り込みをしているが、これは一種のトレーニングでもあった。
これらを繰り返すことにより、我慢強さ、精神コントロール、その他もろもろ忍びの技術を身につける。
だから空振りが何日続いても僕としては何の問題もなかった。
木々村くんではないが、張り込みというものは空振りをするのが普通だ。
始めたその日の内に何かが出てくるなんて、そんな都合のいいことは起きない。
と思っていたのだが。
張り込みをして、初日に分かったことがあった。
誰も体育館に忍び込んだ様子はなかったのに、中からボールがコートをバウンドする音が響いた。
時間は午前4時。
僕は寝ずに張り込む予定だったので、問題なかったが、こんな時間に?
何者かが、体育館の中にずっといたというのか?
それはそれでかなりの一大事だった。
僕は大きな音を立てないよう、事前に用意しておいた入り口を使って入った。
窓から入れるようにしておいた。
上の窓でなくて、下の窓ね。
普通下の窓からは覗きにくいし、入れないようになってるんだけど、僕は下の窓を少し改造させてもらって、僕だけが入れるようにしておいた。
この仕事が終わったら元の窓に戻すから許してね。
普通の出入り口から入ると扉を動かす時にとても大きな音がするからね。
中にいる人物にバレないように、音を立てずに。
体育館内の様子を伺う。
窓から漏れる外の星明かり以外には明かりがない状態だ。
人影があったとしてもそのままではすぐには見えないはずなので、目が慣れるまでは中を見るだけだ。
しかし、先ほどボールがバウンドした以外には何も音がしない。
まさか、気づかれたか?
目が慣れたので、しっかりと両目で覗いても何かが動いている様子はないし、誰かいる様子もいない。
いや、幽霊の男子生徒はきっといるだろうけれど。
出来る限り音を立てずに侵入する。
中に人がいても、音によって侵入は気付かないであろうという、会心の出来だった。
耳を済まし、様子を窺ってみても、何も出ない。
外から聞こえるまばらに通る車の音だけが耳に届く。
ボールがコートに転がっているのは確かだった。
ど真ん中ではないが、ちょうどフリースローを打つあたり。
当然だが人の気配はない。
仕方ない。件の男子生徒に聞いてみるか。
僕はいつものように男子生徒を呼び出す。
そうすれば、この空間にだけ、まだ現実に出現できてない存在と接することができる。
「今日はこんな時間に呼び出してごめんね。今さっきボールが落ちたけど、気づいた?」
「うん。急にボールが落ちてきた」
「急に?その時に誰か来たりした?」
「いや、誰も来なかった」
といったコミュニケーションをとった。
少なくとも、誰かが今までいたというわけじゃないみたい。
多分ここにはもう下手人はここにいるわけじゃないんだろうな。
さっきまでの警戒は無駄だった。
僕の独り相撲だった。
恥ずかしいね。
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